海外トピックス

2017/1/23

vol.314 作り手からのラブレター

メイワオーナーのシャーロット・クワン 写真提供: メイワ・ハンドプリンツ (photo curtesy: Maiwa Handprints)
メイワオーナーのシャーロット・クワン 写真提供: メイワ・ハンドプリンツ (photo curtesy: Maiwa Handprints)
専門の職人にききながら伝統技法を試してみるシャーロット(カナダ、バンクーバー市 以下同) 写真提供: メイワ・ハンドプリンツ (photo curtesy: Maiwa Handprints)
専門の職人にききながら伝統技法を試してみるシャーロット(カナダ、バンクーバー市 以下同) 写真提供: メイワ・ハンドプリンツ (photo curtesy: Maiwa Handprints)
グランヴィルアイランドにはメイワオフィスが2階にあり、1階には衣料や生活用品を売るメイワストアがある。カナダのシンボルであるかえでが美しい。オフィスから撮影
グランヴィルアイランドにはメイワオフィスが2階にあり、1階には衣料や生活用品を売るメイワストアがある。カナダのシンボルであるかえでが美しい。オフィスから撮影
メイワ工芸学校のワークショップの光景。シンポジウムの期間中に50以上の講習プログラムがある。植物染料で染めた絹のサンプルを他の生徒達に説明する生徒(Maiwa School of Textiles)
メイワ工芸学校のワークショップの光景。シンポジウムの期間中に50以上の講習プログラムがある。植物染料で染めた絹のサンプルを他の生徒達に説明する生徒(Maiwa School of Textiles)
カナダをはじめアメリカ各地から、学生から年配までさまざまな年代層の人々がシンポジウムにやってきて講習に参加する(Maiwa School of Textiles)
カナダをはじめアメリカ各地から、学生から年配までさまざまな年代層の人々がシンポジウムにやってきて講習に参加する(Maiwa School of Textiles)

 メイワのオーナー、シャーロット・クワンについてはすでに12月にレポートしたが (vol.312)、彼女の衣料を含むテキスタイルビジネスを大樹に例えると、メイワ・ファウンデーションとメイワ工芸学校 (Maiwa School of Textiles)は枝分かれの部分であろう。それらはぐんぐん成長して大樹をさらに豊かに茂らせているようだ。その状況をレポートしてみたいと思う。

伝統の職人を見つけ、製品を北米で紹介

 工芸は手職であり、歴史的にみると交換とか取引きなど商売の対象となってきた。需要があって供給が、供給があって需要が満たされる。もしも需要がなければ、いくら素晴らしい製品であっても放置されるのみ。製品が取引きされなければ職人達は生活してゆけない。一方通行の行き止まりだ。

 いまの時代の要求に合わなかったり、価格の点で工業製品と太刀打ち出来ず、多くの「手職」は滅びつつある。シャーロットは伝統を何代にもわたって守ってきた工芸家の家族や職人達をみつけて、彼らの製品をカナダやアメリカに紹介する。メイワハンドプリンツ(Maiwa Handprints Ltd.)は需要と供給の輪を循環させる役割を果たし、それがメイワという大樹である。

カナダに工芸学校を設立。伝統の職人を講師に

 「手仕事」はスピードと安価を求める時代に受け入れられ難い。だから手仕事や伝承技術をカナダ人やアメリカ人に理解してもらうために、シャーロットはカナダのバンクーバー市に工芸学校を設立。2004年以来、公開講座や染織のクラス、ワークショップ、展覧会、工芸家を招いてのさまざまなイベントがなされてきている。

 例えばインドのブロックプリントの職人やアフリカの泥染めの職人をテクスタイルシンポジウム中に講師として招待し、生徒達はこれら伝統技術を講習で体験してはじめて工業製品や化学染料とは違うのだな、と理解し始める。

 授業で使う布や植物染料はもちろんインドからのメイワ製品で、生徒達は自宅用に染料や布をメイワストアで購入してゆく。

職人の生活を支援。イベントのスポンサーも

 メイワファウンデーションは20年前にシャーロットによって設立された非営利の慈善団体で、最大の目的は職人達がより高品質の技術を維持し、さらに技術を磨いて発展出来るよう助成を行なうことだ。超細かい仕事を要求される刺繍職人達にはメガネを、手縫いするスタジオに通う女子生徒達には自転車を贈る、といった小さな支援から、大学や地元のコミュニティや他の組織と協賛し、インドの他、モロッコ、メキシコ、ペルー、エチオピアなどで大規模な催し物のスポンサーになって工芸品の紹介をする。

 2001年に起きたインドの大震災では、カッチ地域が全滅したが、村人達の暮らしと教育を助け、さらに職人達が立ち上がれるように建物の復旧事業を大々的に援助した。

手間ひまかかる手仕事が消滅しないよう…

 シャーロットは製品だけでなく、職人の暮らしの質を上げることまで考えて、インドにメイワスタジオを設立してしまった。手仕事だけでは暮らせなくなった職人達は出稼ぎや工場で働いたりしていたが、彼らが従来の手仕事に戻れるようスタジオを設置したのである。

 手仕事だと5メートルが一単位となるが、何束もの手染め木綿布を肩にかつぎ自転車でゆらゆら木版プリント職人の家に運ぶ。木版職人は何代にもわたって使い込まれた木型で5メートルの長さの布をテーブルに広げて一つ一つ模様をスタンプしてゆく。

 それにしても…、気の遠くなるほど手間ひまかかるプロセスだ。すべてがゆったり行われる。

職人の思いを購入者へ

 シャーロットは作り手からのラブレターを使い手に手渡す役割を果たしているのではないかと感じる時がある。

 手織り、手染め、手縫いなど一つ一つの布には作り手の愛情がこもっている。職人は自分の仕事に一点一点思いをこめ、仕上がりを気にかける。

 受け取る、つまり買う人は職人の思いを感じ取れる。

 例えば有機栽培による木綿布の柔らかさは肌で感じとれる。植物染料で手染めされた布は色落ちするが、それでも美しい。ひとが豊かに老いていくのを見るようである。

 手仕事による布を深く愛するシャーロットは、有機栽培の木綿を育てる農家や、種まきから始めて藍色に染める職人、手仕事の刺繍をする職人の村々を訪ね、自分の目を通して納得した品だけを購入しビジネスとして売る。多少高額だが、シャーロットは職人達に製品価格を値切らない。

 職人達は十分な賃金を得てはじめて自らに誇りを持ち、家族を養い、暮らしていくことができる、そして高い品質を維持できるとシャーロットは信じる。

 長い信頼関係が続き、我々はたくさんのラブレターを受け取るに違いない。


参考資料
https://maiwa.com
A Quiet Manifesto及びMaiwa School of Textilesのカタログ

Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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