海外トピックス

2017/2/21

vol.316 トランプ政権が不動産ビジネスに与える影響を考える

トランプ大統領が住んでいるホワイトハウス(ワシントン D.C.)
トランプ大統領が住んでいるホワイトハウス(ワシントン D.C.)
シカゴにはメキシコ人が多いが、どうなることだろうか?(イリノイ州シカゴ市。以下同)
シカゴにはメキシコ人が多いが、どうなることだろうか?(イリノイ州シカゴ市。以下同)
メキシコ人達はよく働くし、真面目だ
メキシコ人達はよく働くし、真面目だ
アメリカで生まれた子供はアメリカ籍だが、親が不法移民だと送還される場合も…(注:写真の彼らは不法移民ではありません)
アメリカで生まれた子供はアメリカ籍だが、親が不法移民だと送還される場合も…(注:写真の彼らは不法移民ではありません)
アメリカの教育を受け、アメリカ人に同化してゆくメキシコ人少女
アメリカの教育を受け、アメリカ人に同化してゆくメキシコ人少女
真面目でよく働き、技術は優秀だ。代わりのアメリカ人を訓練するのには時間がかかろう
真面目でよく働き、技術は優秀だ。代わりのアメリカ人を訓練するのには時間がかかろう
ゾーニングや土地利用の規制が緩めば、住宅建設が活発化するだろう
ゾーニングや土地利用の規制が緩めば、住宅建設が活発化するだろう
都市から離れた場所でも土地開発がさらに行なわれよう
都市から離れた場所でも土地開発がさらに行なわれよう

 大統領補佐官の辞任やロシア問題が噴出し、トランプ政権は大揺れだ。トランプ氏がアメリカ合衆国大統領に就任して以来、性急に大統領令が出され、明日はどんな「おふれ」が出るやら…、全く予測がつかないが、それらの多くはキャンペーン中に公約した事柄なので今更驚く事もない。

 不法移民を防ぐためにメキシコとの国境に塀を設け、費用はメキシコに負担させる。アメリカに滞在する不法移民を締め出す。中近東7ヵ国からのアメリカ入国を一定期間禁止。海外からの輸入製品には関税をかける。アメリカ軍海外駐留基地の負担を増額。カナダからテキサスまで大陸縦断するパイプライン建設開始等々。

 その通りに実現するかどうかはさておき、社会に大きな変化が起きている「揺れ」を感じる。そして現在行なわれている法の改正のいくつかは不動産ビジネスに影響を及ぼすだろうと考えられるので、政治、経済、金融に関し筆者は素人ではあるが、理解でき得る範囲で調べてみた。

金融規制緩和で、住宅建設が活発化?

 注目に値するのは、1月末にもたらされたドッド・フランク法の見直し法案 (Dod-Frank finantial regulation) であろう。ドッド・フランク法というのは経済危機に見舞われた2008年から2009年に作られた法令で、リスクを防ぐことを目的として2010年に制定され、再び金融クラッシュを繰り返すことのないよう、歯止めとして作用してきた。一方で、同法に基づく多くの規制により銀行による貸し渋りが起こり、アメリカの経済活動を妨げてきた、というトランプ大統領の認識に基づき、具体的な見直しが行われる。2月7日、大統領はドッド・フランク法をはじめ、金融制度改革の検討を命じる大統領令に署名したものだ。

 確かに多くの規制が取り外されると、とりわけ中小規模の銀行が貸付を開始できる。住宅不足だった状況から、新規の建設が活発化するであろう。建設事業の拡大は国の経済活動にもプラスとなろう。しかし銀行融資がゆるむ分、住宅購入者がローンを借りやすくなるのはよいが、代わりにリスクは多くなるわけで、再び不動産業界がバブルになる不安が募るという声もある。

メキシコ系移民が減ると住宅一次取得需要は?

 移民問題でも社会的な影響が懸念されている。当初の計画ではアメリカ合衆国に滞在する1,100万人のメキシコ人不法移民をメキシコへ送還する予定だったが、その後犯罪歴のある不法移民に限ると変わってきたようで、実際の人数やどれくらいの期間実施するのかなどは現在のところまだ不明。住宅の一次取得者はメキシコ人が多かったことを考えれば、彼らが減る分、住宅購入需要が減る。また、食料品から日用品、ガソリンまで売り上げが減少しよう。

 建設や土木の工事、レストラン、清掃、芝刈り、ベビーシッターなどに携わってきたメキシコ人労働者が激減する。とりわけ優れた技能者が減るのは工場にとっては手痛い打撃だ。これから技術者を育てねばならず、不動産市場にもさまざまな影響が出てこよう。メキシコ人のかわりにアメリカ人に仕事の機会を、というのが大統領の着目点だが、メキシコ人と同じ労働条件や賃金で果たしてどれだけのアメリカ人が就労するかは疑問だ。

 退去させる人数と期間により影響は違ってくるにせよ、これまで果物や野菜の収穫を請け負ってきたメキシコ人達の代わりがみつからず、人手不足で収穫ができないというニュースも耳にする。

規制緩和の反面で環境への影響を懸念

 土地利用と区画制(ゾーニング=zoning) における規制緩和もトランプ大統領の公約。土地開発業者にとっては現時点よりは低価格で建設が可能となり朗報となっている。ここ数年間、さまざまな環境保全の規制が設けられ、事業者は厳しい規制内で開発を行なってきた。材木、セメント、労働者賃金など価格の高騰もあり、結果として、工事費に跳ね返ってきた。

 以前より柔軟に土地利用が行なわれれば、今後、土地住宅開発が活発化し、雇用も建材も動き始めるだろう。供給件数が増え、顧客にとっては選択の幅も多くなる。しかし規制が緩む分、鉛を含むペンキや水質検査などが甘くなるのではないかとの懸念もあり、環境が悪化するマイナス面は否めない。

大幅減税の行方にも注目

 税法の改正も不動産ビジネスに大きく影響を与えそうだ。2月14日、米大手証券の元幹部、ゴールドマン・サックス・ヘッジファンドで巨額の利益を得た経歴があるムニューチン氏が財務長官に承認され、ムニューチン氏はトランプ政権が公約としてきた法人税と個人所得税の大幅減税の調整に入る。現在の税制は非常に複雑なので、それを簡素化すると言われる。

 これまで不動産取引に関してはいくつもの特典があったのだが、それらを失効するとか、非課税範囲が小規模になる可能性も。詳細はまだ鮮明な段階ではないが、不動産所有者や関係者は成り行きに注目している。

 「アメリカ第一」を掲げるトランプ大統領、数々の変革が国民の幸せ度を増すよう期待したいが、どうなることであろうか。


参考資料
www.npr.org/sections/thetwo-way/2016/11/10

:www.forbes.com/forbes/welcome/?

:www.inman.com/2016/11/22/zillows-6-predictions-for-the-2017-housing-market-under-trump/

www.azcentral.com/story/money/real-estate/catherine-reagor/2017/01/29


Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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飲食店の食べ残しがSC内の工場で肥料に!【マレーシア】」配信しました。

マレーシアの、持続可能な未来に向けた取り組みを紹介。同国では、新しくビルを建設したり、土地開発をする際には環境に配慮した建築計画が求められます。一方で、既存のショッピングセンターの中でも、太陽光発電やリサイクルセンターを設置し食品ロスの削減や肥料の再生などに注力する取り組みが見られます。今回は、「ワンウタマショッピングセンター」の例を見ていきましょう。