記者の目

2017/2/1

住民と専門家が「編集」していくまち

北九州市の大規模複合開発「BONJONO」

 北九州市小倉北区のJR「城野」駅前で開発が進んでいる城野駅北地区土地区画整理事業、通称「BONJONO(ボンジョーノ)」。行政と企業がタウンマネジメント組織を組成し、まちの活性化を図る。まちづくりの専門家を「タウンエディター」として、今後のまちのコミュニティ育成、近隣へのコミュニティの広がりを目指す。その考え方の根底にあるのは、まちづくりの「共同編集」という考え方だ。

現在、開発を進めている「BONJONO」
現在、開発を進めている「BONJONO」
先行オープンした住宅街区。太陽光発電などさまざまな創エネ・省エネアイテムによりゼロ・カーボンのまちを目指す
先行オープンした住宅街区。太陽光発電などさまざまな創エネ・省エネアイテムによりゼロ・カーボンのまちを目指す
住宅街区では、クルドサックを設けて歩行者の安全を確保すると共に、先端部分にコモンを設けて住民の憩いの場にする
住宅街区では、クルドサックを設けて歩行者の安全を確保すると共に、先端部分にコモンを設けて住民の憩いの場にする
まちのコミュニティの中心となる「TETTE」
まちのコミュニティの中心となる「TETTE」

◆総開発面積18.9ha、総合病院なども誘致

 「BONJONO」は総開発面積18.9ha、2008年に陸上自衛隊城野分屯地としての利用が終了し、その後北九州市および福岡県、財務省、(独)都市再生機構などが参加してまちづくり基本計画の整備などを行なった。14年に土地が市に払い下げられ、市では建築協定を設定した上で住宅・不動産会社19社に土地を売却、開発を進めてきた。北九州市は、2011年に国から「環境未来都市」として選定されており、市内の他の開発地などでこれまでに実証実験などを進めてきた。BONJONOも「環境未来都市北九州市」の主要プロジェクトと位置付けられ、エコ住宅や地域エネルギーマネジメントシステムなどにより生活段階でのCO2排出量の大幅削減する「ゼロ・カーボン先進街区」の形成や、多世代が暮らしやすい持続可能なまちづくりを目指している。

 開発地内には総合病院や薬局を誘致し、商業施設も開発。開発街区とJR「城野」駅をペデストリアンデッキでつなぎ、街区から大通りを横切らずにダイレクトアクセスできるようにしている。また、開発区域内に芝生の広場やポケットパーク、総合病院内のホールなど、地域コミュニティの育成を目的にさまざまな「集まれる場所」をつくっていることも特徴だ。

◆まち並みガイドラインに沿って住宅開発

 住宅は分譲・賃貸マンション・戸建てを合わせて約550戸を新たに整備、隣地では300戸のUR住宅のリニューアルも進んでおり、これと合わせて850戸のまちになる。2016年3月末には先行開発街区のまちびらきを行ない、総合病院も開業した。今後数年かけてまちの開発を進めていく。

 先行した住宅街区では、街区内にクルドサックを設けて歩行者の安全を確保。クルドサックの先端部分には「コモン」と呼ぶ円形の広場を設置し、住民の憩いの場としている。まち並みも、ガイドラインで統一感を演出。ガイドラインでは、オープン外構、近隣にある「足立山」が見えるような眺望の確保、通風性の確保などを定めている。

◆コンセプトは「シェアタウン」

 まちのコンセプトは「シェアタウン」。仕事から帰ってきて寝るための住まいで形成した「ベッドタウン」ではなく、ガーデニングや野菜の栽培、日曜大工、料理教室など、まちのイベントを通じて「活動をシェア」していくことや、公園などまちのそこかしこにコミュニティスペースを用意することで「居場所をシェア」することなどを意味する。そのため、開発段階からまちのコミュニティ育成に力を入れていく。清掃やまちの公園の芝貼りなどのイベントを開催し、住民らが楽しみながらまちの維持管理活動を継続できる仕組みを用意。まちの育成を「シェア」していく。

 15年にはタウンマネジメント組織として(一社)城野ひとまちネットを発足。総合病院等、同エリアに立地する施設と、今後開発が進む戸建て団地の管理組合、マンション管理組合が加入し、自治会と連携しながらまちの方向性を定める。活動の柱は、安心・安全なまちをつくる「タウンセキュリティ」、緑豊かなまちをつくる「グリーンマネジメント」、エネルギーを賢く使う「エネルギーマネジメント」の3つ。活動内容と共にまちの方向性を紹介する“まちの取扱説明書”ともいうべき冊子も作成した。

 ひとまちネットの活動拠点となる、まちの中心施設「TETTE(テッテ)」は、DIYスペースや大型キッチン、読書スペースなどを設けて、セミナーや勉強会、「くらしラボ」と呼ぶワークショップなど、コミュニティ活動の拠点とする。住民だけでなく、周辺地域の住民もワークショップに参加でき、開かれたコミュニティの形成を目指す。

◆企業が住民コミュニティ育成をバックアップ

 ひとまちネットの事務局を務めるのは、地区内のエネルギーマネジメントを担う西部ガス(株)。このほか、パナソニック(株)やNTT西日本(株)など、住宅開発やまちのインフラ整備に関わった企業を“賛助会員”として、さまざまな支援を展開する。前述した「くらしラボ」は、これらの企業が開催。環境にやさしいスマートなまちづくりを研究する「スマートライフラボ」や、料理教室などを開く「キッチンラボ」などを通じて、住民同士、住民と周辺地域との関係性を強めていく。

 さらに、ひとまちネットを外部から支援する組織として、「タウンマネジメント運営協議会」を設置。まちのサポートをけん引していく専門家「タウンエディター」やひとまちネットの賛助会員で構成しているもので、必要に応じて専門部会を設立してタウンマネジメントに努めていく。タウンエディターを務めるのは、(株)ワークヴィジョンズ代表取締役の西村 浩氏、(有)アーバンセクション代表取締役の二瓶正史氏、九州大学大学院人間環境学研究院都市・建築部門助教の柴田 建氏の3人。いずれもまちづくり、コミュニティづくりの専門家で、事業者とともにまちをつくっていくほか、住民コミュニティ活動のけん引役・アドバイザーとしての役割も務める。

◆コミュニティは「住民がつくるまち」のベース

 住民のコミュニティ育成を、専門家が側面から支援していくことで、景観づくりも含めた持続可能なまちづくりを実行していく。ここで重要になるのが、ひとまちネットに参加する企業が主導するまちづくりではなく、あくまで「住民の意思決定」がまちの方向性を定めていくということ。まち並みを維持することだけを目的とはしていない。つまり、将来的に住民が「景観はこうした方がいい」と意思決定すれば、それがルールになる。まちづくりに住民が関心を持ち、そうした意思決定をしていくためのベースがコミュニティであり、「くらしラボ」なのだ。

 タウンエディターの1人である柴田氏は、「まちを100年間そのままの姿で維持することが、絶対的に“正しいこと”とは限りません。日本では、地域への愛着が生まれ、その地に永住する方が多く、新築当初から経年とともにコミュニティが変化します。その変化に応じて、まちも変化していかなくてはなりません。そのための住民の決断をプロとしてサポートしていくのが『タウンエディター』の役割です。エディター(編集者)の名の通り、住民の方々と共同でまちの姿を“編集”していくことを目指しています」と語る。

 また、そのための仕組みづくりとして、ひとまちネットの存在があると話す。「企業を賛助会員としてひとまちネットに組みこむことで、企業のノウハウと資金を活動に生かせます。企業は、地域内での建物メンテナンスや植栽管理など、継続的にビジネスが展開できることがメリットです。企業の経済活動を排除してしまうと、コミュニティ育成のためのコストがそのうち不足していきます」(柴田氏)と地域の企業と住民による持続的なまちづくりの重要性を語る。

 こうしたコンセプトではじまった「BOJONO」のまちづくり。住民コミュニティを育成し、企業や近隣住民など、その開発地を取り巻く人たちをも巻き込んでいくという発想は、これまでの大規模住宅開発にはあまりなかったものだ。まちの価値を高めるだけでなく、周辺地域にも好影響を与えていこうという考え方は、今後のまちづくりに求められる要素の一つであろう。

◆◆◆

 住民コミュニティ育成への取り組みでは、景観ルールやコミュニティのルールが当初のままで、住民の高齢化や時代の変化とともに、住みにくさを感じるようになってしまうことが課題。そうした課題を住民自身が解決できるように仕立てることで、まちの住みやすさを継続していくことが求められている。

 こうした、住民が地域に住み続けていくための意思決定を、企業や専門家がサポートしていくという発想は、今後の不動産開発のあり方として非常に重要だと考えられる。

 また、開発エリア内だけでコミュニティが完結してしまい閉鎖的になり、周辺地域と隔絶してしまうケースも少なくない中で、企業が積極的にコミュニティ形成に関わることで、ビジネスとして成立させることが、住民にとってのメリットになるように調整していくこともできる。

 今後に注目していきたいプロジェクトの一つだ。(晋)
 

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お知らせ

2024/3/7

「海外トピックス」を更新しました。

飲食店の食べ残しがSC内の工場で肥料に!【マレーシア】」配信しました。

マレーシアの、持続可能な未来に向けた取り組みを紹介。同国では、新しくビルを建設したり、土地開発をする際には環境に配慮した建築計画が求められます。一方で、既存のショッピングセンターの中でも、太陽光発電やリサイクルセンターを設置し食品ロスの削減や肥料の再生などに注力する取り組みが見られます。今回は、「ワンウタマショッピングセンター」の例を見ていきましょう。