海外トピックス

2016/10/6

vol.307 若者にUターン現象が起きている

夕暮れ時のシカゴ市都心部。職住近接とは言っても、賃貸料は非常に高い(イリノイ州シカゴ市)
夕暮れ時のシカゴ市都心部。職住近接とは言っても、賃貸料は非常に高い(イリノイ州シカゴ市)
都心から郊外へと移動してゆく若者世代が増えているのはなぜだろう?(イリノイ州シカゴ市)
都心から郊外へと移動してゆく若者世代が増えているのはなぜだろう?(イリノイ州シカゴ市)
まだ開発が進むシカゴ都心部だが、住面積の広さを求めるのはますます難しくなってきている。(イリノイ州シカゴ市)
まだ開発が進むシカゴ都心部だが、住面積の広さを求めるのはますます難しくなってきている。(イリノイ州シカゴ市)
郊外はまだまだ開発の余地がある(イリノイ州ウッドストック市。センテックホームズ社開発区域。以下同)
郊外はまだまだ開発の余地がある(イリノイ州ウッドストック市。センテックホームズ社開発区域。以下同)
道路も歩道も十分広くとるように初めから計画された一戸建て住宅新開発地区
道路も歩道も十分広くとるように初めから計画された一戸建て住宅新開発地区
センテックホームズ社のショールーム。豊かでたっぶりした暮らしを表現しているのが印象的
センテックホームズ社のショールーム。豊かでたっぶりした暮らしを表現しているのが印象的
郊外は庭仕事を楽しんだり自然を満喫できよう。にわとりを飼っているペンシルベニア州ピッツバーグ郊外の友人宅
郊外は庭仕事を楽しんだり自然を満喫できよう。にわとりを飼っているペンシルベニア州ピッツバーグ郊外の友人宅
ミレニアルズは新しい門出にどんな住まいを選択してゆくのだろうか?(イリノイ州シカゴ市)
ミレニアルズは新しい門出にどんな住まいを選択してゆくのだろうか?(イリノイ州シカゴ市)

 合衆国人口の3分の1、8,000万人以上(合衆国国勢調査)を占めつつあるミレニアルズ(若者世代)に気になる変化が起きている。

 これまで都心に集中してきていたミレニアルズが郊外へと動き始めたのである。と言っても、民族の大移動というほど劇的ではなく、静かな動きではあるが。

 2000年から注目されてきたミレニアルズの都市流入現象は思ったほど永続的な動きではなく、何らかの理由でシーソーがかしぐような逆現象が起きているということなのだろうか。

都心から郊外へ。ミレニアルズに2つの流れ

 南カリフォルニア大学のドウェル・マイヤーズ教授は「若者達が都心に集中した時期は2015年がピークであり、以後都心のミレニアルズ人口は減少し始めている」と、Housing Policy Debate ジャーナル誌で述べている(Chicago Tribune newspaper 7-3-2016) 。

 減少するミレニアルズ(定義は資料によって年齢に幅があるのだが、ここでは16歳から33歳までとくくる)を2つのグループに分けて考えてみよう。

 ひとつは経済的な理由で都心を離れざるを得なくなった若者達のグループ。都心部に仕事を得て、あるいは就職の可能性を求めて、都心はミレニアルズでふくれかえったが、このために需要と供給のバランスが崩れて賃貸物件価格はまたたく間に上昇してしまった。景気は回復しつつあるが、増えた若者達に比べて得られる仕事は減り、都心に住んだにもかかわらず失業や就業時間の減少で賃貸料の支払いが厳しくなり郊外へ去ってゆく若者達。この中には学生ローンで大学や大学院を卒業し、重い返済ローンを背負う20代から30代前半の若者達も少なくない。

狭く高い都会から、広く安い郊外へ

 もう一つのグループは、良い仕事を得て都心で働いているが、同じような賃貸料で郊外だとはるかに広いスペースの一戸建て住宅が買えると、郊外に出ていく人々。ガソリン価格の高騰で郊外に住んだ場合の燃費を気にかけたのもどこへやら、部屋数、たっぷりした住面積、庭も十分な広さがあり、大きなガレージも備えている郊外の住宅をめざして都会を脱出するグループが考えられる。

 NAR (National Association of Realtors=全米リアルター協会)の調査でも、若者世代による都心部の不動産物件購入は1年前の21%から今年は17%に落ちているそうである。

 NARのローレンス・ユン氏は、多くのミレニアルズは都市部と比べて同じ価格でもより広いスペースが得られる郊外へと殺到しているのだろうとこの動向を分析している。

 不動産ブローカーのトム・アーリィ氏は「都市は狭苦しく、たとえ購入した自分の部屋であっても本当の一戸建て住宅に比べてプライバシーに乏しい」とユン氏のコメントを裏付ける(Chicago Tribune newspaper 4-17-2016)。 

2倍の広さの新築住宅が都心の半額で

 シカゴでミレニアルズに人気があり、新築改築が盛んに行なわれている都心(West Loop)の物件をZillowで調べてみた。
マクルーグコート(コンドミニアム)の賃貸物件は2BR、131平方メートルの住面積。家賃は約38万円。販売もしており、2BR、134平方メートルの物件販売価格は6,000万円から。これに管理費、駐車料金が月々加算される。

 一方、現在住宅開発が盛んに行なわれている郊外のエルジン市のプルテ・ホームズを調べてみると、シャドウヒルのウェストチェスタープランでは、4BRに2つ半のバスルームがついて306平方メートルの住面積。新築一戸建て住宅で約3,600万円。ローン返済のおおまかな見積もりはサイトによると月24万円(www.pulte.com)。2倍の広さの新築一戸建て住宅が都心コンドミニアムの半額で購入可能というわけだ。

 彼らがより広いスペースを何よりも欲している、という「アメリカ的」嗜好が興味深い。大きな家に沢山のものを(必要以上に)所有して、プライバシーを守りつつ豊かな暮らしを楽しむ若者達のイメージが浮かんでくる。

毎日3時間の通勤時間は、「貴重なリフレッシュタイム」

 都心に住むか、郊外に住むかはライフスタイルの選択でもあろう。

 それにしても、以前はトウモロコシ畑が広がっていたエルジン市のプルテ・ホームズを例にとると、シカゴ都心から北西へ高速道路を片道1時間半近いドライブ、毎日3時間の通勤時間となる。

 友人達に聞いてみたところ、会社でストレスの多い仕事をこなし、沢山の人々と接し、家には子供がいるとなると、車の中が一人で居られる唯一の時間だそうで、コーヒーを飲み音楽を聴いたり、快適なドライブを楽しんでいるそうだ。既婚に限らず独身のミレニアルズにとっても、都心と違う環境に自分を置いて郊外の静かな環境で過ごす時間が大切になってきたのかもしれない。


Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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