記者の目 / ハウジング

2014/7/7

エネルギー制御だけでは売れない

IT技術を駆使。トータルで生活を支援

 7月19日、タカラトミーがスマートハウス版“リカちゃんハウス”を発売する。もはや子供向け玩具に登場するまでに当たり前となってきたスマートハウスは、IT技術と太陽光発電システムや燃料電池、蓄電池などを組み合わせたエネルギー制御だけが売りではない。そのスマートな技術を高齢者の安全や健康、コミュニティ…さまざまな面での実用化に向け、業界を越えた取り組みが始まっている。

センサーで感知した気温や明るさを基に自動でロールカーテンが降りてくる
センサーで感知した気温や明るさを基に自動でロールカーテンが降りてくる
窓もセンサーに合わせ自動で開閉。風を感じることができ、また十分採光するため大きな窓を設けている
窓もセンサーに合わせ自動で開閉。風を感じることができ、また十分採光するため大きな窓を設けている
UNI-CUB試乗中。ドアはセンサーが感知して自動で開閉。床は完全フラットの設計で、一部壁にもアールをつけている
UNI-CUB試乗中。ドアはセンサーが感知して自動で開閉。床は完全フラットの設計で、一部壁にもアールをつけている
自動駐車デモ。非接触充電では、位置がずれると充電効率が落ちるため、精度の上がる位置に自動で止まるシステム。駐車やバックが苦手な人向けの利便性が向上する面も
自動駐車デモ。非接触充電では、位置がずれると充電効率が落ちるため、精度の上がる位置に自動で止まるシステム。駐車やバックが苦手な人向けの利便性が向上する面も
コミュニティに心地よい空間を創出できるよう壁面を緑化
コミュニティに心地よい空間を創出できるよう壁面を緑化

 積水ハウス(株)は5月、(株)東芝、本田技研工業(株)(以下、Honda)と共同で、さいたま市に「2020年の暮らし」を具現化したスマートハウスを建設。家庭と車、地域のエネルギー需給を総合的にコントロールするエネルギーマネジメント技術を取り入れた実証実験を行なっている。6月に報道陣に向けて公開した。

 3社は、13年11月に開催された「SMART MOBILITY CITY 2013」に共同出展するなど、“住まいと家電と車がつながる未来の暮らし”に向けた共同での取り組みを展開しており、今回の実証実験ハウスは「モビリティを含めた暮らしにおけるCO2排出量をゼロ」「生涯にわたる快適な暮らし」がコンセプト(*モビリティは狭義で車など人の移動をサポートする手段を指す)。

 Hondaが創エネ、モビリティを担当し、東芝が太陽光発電やスマート家電の制御、親子2世帯で電力を融通する疑似的にまちを想定したコミュニティ単位でのエネルギー需給管理システムを構築。積水ハウスがエネルギー制御に合わせ快適性を提案する、実際に居住可能な3階建て完全独立型の2世帯住宅を建設した。
 また、積水ハウスとHondaはロボティクス技術を活用した豊かな住まいの創造においても協力関係を構築しており、同住宅も高齢者の快適な生活を念頭においた「家にロボティクスがある暮らし」を想定した設計となっている。

◆自動車と住宅を連携、車含めたCO2削減を目指す

 一般的に自家用車を所有していても、その使用率はそれほど高くないといわれている。そこで、駐車中の車と住宅との連携を考えるのがHondaだ。
 Hondaは、11年5月にさいたま市と家庭生活におけるCO2低減を目指した「E―KIZUNA Project協定」を締結。12年にはガス、太陽光、電動化モビリティを活用したHondaスマートホームシステム(HSHS、家庭内エネルギーマネジメント技術)実証実験ハウスを2棟建設し2年間検証を続けてきた。
 その結果、実際に従業員が居住した12年12月~13年11月の1年間で、車両等を含めたCO2排出量を49%(/月)削減することに成功(家電、厨房、車を除いた住宅・建築物の省エネルギー基準では104%の削減に相当)。車両分ガソリン代を含めた光熱費削減率は58%(/月)となっている。同社は「15年にCO2半減」を目標に掲げており、ほぼ達成が見えてきたことで、次の目標「20年にCO2ゼロ」に向け、今回、3社共同で複数棟を想定した検証に着手した。近い将来、新エネルギーとして水素の検証も念頭に置いている。

 新実証棟には、国内初の系統連系(電力会社の設備と発電設備を接続すること)協議を得た家庭だけでなく、コミュニティにも電力供給可能な「V2H(EVに蓄電した電力を家庭用電力として利用するシステム)」を導入。このEVはケーブルをつなぐ必要のない非接触充電に対応しており、その充電精度を上げる自動駐車のシステムも取り入れている。
 今後はエネルギーゼロを目指し、最低1年間、実用化に向けさまざまな仮説を立てながら実証実験を行なっていくとのこと。

◆“見える化”だけではない、目指すのは“快適”な暮らし

 一方、積水ハウスは、創エネ・省エネを取り入れ家庭内エネルギーを最適に制御するスマートハウスを目指しながらも、HEMSと連携する高齢者を想定した快適な暮らしを重視。消費電力などエネルギー制御がクローズアップされることが多いHEMSの機能だが、同社は高齢者向け健康管理ツールとして、ウェアラブルセンサーと連動させた心拍数や呼吸数などをリアルタイムに計測する「バイタルセンサー」を導入した。

 そのほか、自社の蓄積したデータを基に機能を拡張、「見える化」だけではない空間の快適性を追求する。室内、屋外に設置したセンサーと連動させ、気温、湿度、明るさをリアルタイムに感知。それに合わせ、エアコンや照明スイッチのオン・オフ機能、窓やブラインドが自動開閉する機能を取り入れ、居住者が意識することなく省エネ性が高まり、居心地の良くなる空間を実現する。将来的には、人の動きに合わせてセンサーを稼動させ、ピンポイントで空間を制御する仕組みの構築を見込んでいるという。

◆ロボティクス機能で高齢者の快適な暮らしをサポート

 また、室内は、身体機能が低下した高齢者の移動を補助するHondaの「UNI-CUB」の利用に向けた設計となっている。UNI-CUBは一輪車スタイルで前後左右や斜めへの自由自在な移動が可能なパーソナル・モビリティ。1階はすべての扉が自動ドアになっており、ベランダを含め床は完全フラットの設計で、一部壁にもアールをつけている。またキッチンなど住宅設備機器もUNI-CUBに座った状態で使える高さに設定した。

 さらに体重の一部を支えることで脚にかかる負担を低減するHondaの体重支持型歩行アシストの装着を想定し、階段は段差を低めに、踏み込む面の寸法も広くした。今後、両社は共同で住宅内におけるこうしたロボティクスの可能性を検証していく。

 なお、実際に歩行アシストをつけてUNI-CUBに試乗してみたところ、持ち手がない分、乗馬型の健康器具などよりバランスをとるのが難しく、高齢者が難なく乗りこなすにはさらなる改善が必要だと感じた。また、自動ドアのセンサーより移動スピードが勝るケースがあるので、センサーの精度や設置場所等についてもさらなる検証が必要だろう。

◆スマート技術を活かした住宅メーカーとしての売りとは

 開発担当者によれば、例えばバイタルセンサーについては、データに基づく健康面でのアドバイスの提供や、地域のヘルスケア施設等との連携も視野に入れ、アプリ開発に着手しているという。これに限らず、交通や気象、その他生活上のさまざまなデータを収集して連動させることで、HEMSの可能性はより拡大する。

 一方、スマートハウスの技術がますます進化していくことを考えると、住宅メーカーだけでカバーできるレベルはもはや超えているといえる。業種を超えた技術提携も当たり前になり、今後はさらに新しい技術が続々と登場するだろう。今回の例も、HEMSと連動する住宅のセンサーなどに、技術的に先を行く自動車のセンサーのノウハウを活かせば、さらなる可能性が出てくるはすだ。ただし、そうしたスマートな技術が当たり前になればなるほど、「では住宅メーカーとしては何が提供できるのか」ということが問われるようになる。積水ハウスの開発担当者の「エネルギー制御だけではユーザーは買わない。“買ってよかった”は居心地のいい家だからこそ」という言葉が印象に残った(meo)。

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【関連ニュース】
さいたま市に実証実験ハウス建設。「2020年の暮らし」具現化/積水ハウス、東芝、Honda(2014/05/21)

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