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vol.177 希望と再生への願いを込めて

イースターには、ウサギや卵のキャラクターがピンク、黄緑、ベビーブルーなど楽しい色と共に使われる
パスオーバー(過ぎ越しの祭り)の祝日風景。「ハゴダ」と呼ぶ本を声を出して読み回す(イリノイ州ハイランドパーク市)
上から右へ:苦い体験をあらわすホースラディッシュ、黒くあぶった生け贄の子羊の骨、奴隷として煉瓦を積んだシンボルのくるみとリンゴの和え物、(長いものように見える)、野菜とユダヤ人の強さをあらわした卵、などが儀式に使われる。
マツァと呼ばれるイースト菌を使わないパン。パスオーバー8日間はこれを食べる
パスオーバーは自由を得た喜びを祝う祭りなので、楽しく過ごす。エジプト王と王妃の出で立ちのフレディと娘のレイチェル

春には、新しい命の誕生を祝福する宗教行事が

春の雨は優しい。厳しく長かった冬が終わり、土の中からそっと芽がのぞき新しい命が生まれ出る兆しを感じさせる春。 宗教行事も新しい命を祝福するのだろうか。キリスト教は再生の祈りをこめてイースター(復活祭)を祝い、ユダヤ教ではパスオーバー(過ぎ越しの祭り)を共に春の季節に祝う。 イースターは十字架に架けられて死んだイエスキリストが3日後に復活したことを記念してキリスト教徒が祝うのだが、クリスマスの祝い方と同様、信仰の深さによってさまざま。受難の時期からイースターまで続けて教会で祈る敬虔なキリスト教徒もいれば、普段離れて住む子供達や友人達が集まるよい機会、と割り切る家族も…。 卵、ひよこ、うさぎは多産やいのちを表すキャラクター。とりわけ卵はこれらの中でも横綱格。イエスが墓から出て復活することと、ひなが卵の殻から生れ出るのを重ね合わせたのだろうか、卵が料理にも飾り付けにもゲームにも使われる。ゆで卵にペイントする講習会があちこちで開かれ、精巧で美しい模様が描かれるが、アメリカはさまざまな国からやってきた人々で成り立っているので、ハンガリー、ドイツ、ロシア、チェコスロバキア、ウクライナなど、卵に描かれる模様にしてもそれぞれお国柄が表れ、どれをとっても素晴らしい工芸品だ。伝統を守る気概もうかがわれる。

ホワイトハウスでは毎年イースターに子供たちのための行事を開催

エッグハントは庭や部屋のあちこちに卵を隠して子供達に卵を探させるイースターの楽しい遊び。広大な屋敷で育ったジェニファーは「イースターの朝、起きるのが楽しみでね、仲良しの子供達が大勢やって来てみんなで庭中駆け回って卵を探したり、近所の家にも連れ立ってハントしに行ったり…」。 駆け回る庭やたくさんの卵を隠すスペースがなくても心配ご無用。玄関から食堂まで床に彩りよく卵を並べたり、窓際に卵をリボンで吊るして楽しもう。最近は本物の卵でなく、プラスティックで中にお菓子や小さなおもちゃ、小銭などを入れたものを飾りやエッグハントに使う。 また、「イースターエッグロール」と呼ばれるゲームは、卵をスプーンで押して誰が最初にゴールするか競う。毎年大統領夫妻が主催してホワイトハウスの庭で行われるイースターエッグロールはアメリカ中の大きな話題となる。今年のオバマ大統領夫妻は、“子供達の健康を守る” というテーマで、イースターエッグロールの競争に加えて歌やゲーム、物語の朗読、屋台も出て盛り沢山。大勢の地元の子供達と楽しい時間を過ごす事だろう(www.whitehouse.gov/EasterEggRoll)。

ユダヤ人たちも世界各地で「過ぎ越し」の祭り

ユダヤ教のパスオーバー(過ぎ越の祭り)はユダヤ暦によるので毎年日にちが変わるが、イースター同様、いつも春に行なわれる。 神話によると、モーゼは奴隷にされていたユダヤの民を自由にするようエジプト王に依頼するが聞き入れられない。神は幾つかの災禍をエジプトに加え、最後の災いはエジプトの長子すべてを殺すというもので、ユダヤの家ではドアに子羊の血を塗り目印にして災禍を逃れる。神が “過ぎ越し” てからユダヤ人達はモーゼに従って脱出し、自由の民になる。その喜びを祝う大切な祝日で、食卓でヘブライ語か英語で挿絵入りの本を参列者が声を出して読み回し、本に従って食事と共に儀式が進行する。 奴隷だった頃を思い起させる涙を表す塩水に浮かべたゆで卵、苦いわさび、生け贄の子羊の骨などが皿に盛られる。マッツアという大きなクラッカーを食べて、大急ぎで脱出したためにイーストを使って膨らませるパンを作る時間さえなかった状況を思い起こす。 世界中で各地のユダヤ人達がこの日同時にユダヤ民族の歴史を分かち合い、親から子へと語り伝えていく伝統は感動的でさえある。レオナルド・ダヴィンチの “最後の晩餐” は、パスオーバーの儀式を描いているといわれる。

夢と希望が「生きる力」の源に

春は至る所に命が溢れ、希望が湧き出る。とりわけイースターやパスオーバーを家族や友人達で祝うにふさわしい季節でもあろう。キリストの苦難のあとのよみがえりを祝うイースター、そしてパスオーバーの締めくくりは、全員が声を合わせて「来年はエルサレムで会おう」と希望を胸に再会を誓うのだが、「生きる力」って夢と希望によって支えられているのかもしれない、と思う。 現在日本の被災地には辛い思いをしている方達も多くおられると想像するが、春の訪れに夢と希望を見出して欲しいと心から願っている。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。


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