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vol.188 もうひとつのサクセスストーリィ(その2)

大きな引っ越しトラックですべての荷物を運ぶ(ニュージャージィ州、以下同)。写真提供:本間京子さん
家探しのポイントをよい教育地区に絞っただけに、どこの両親も教育熱心だ
家のペンキ塗りに励む京子さんと娘さん
手入れがよくされており、築80年とは思えないほどしっかりしている
暖炉がほのぼのとした雰囲気を醸し出している
こじんまりしてはいるが、使いやすく改装されたキッチン

小さいころから議論や討論に慣れているアメリカ人

それにしてもコミュニケーションって複雑で難しい!!! 「英語は文法が少々間違ってもコミュニケーションができる。それを前提に、英語を使ってどうやって仕事をうまくまわすか、というのが求められます」と欧米企業のマーケティング部門で活躍する本間京子さん(以下敬称略)。 学ぶには英語の言い回しや人々の仕草を実際の場で貪欲に身につけてゆく他はない。失敗もたくさんある。会議では誰もが活発に発言するが、英語を母国語としないものにとっては問題の要点をつかむのがそもそも難しいのだ。勇んで手をあげ発言したのはいいが、「それは5分前の問題点でした」と言われてがっくり、というのは、初期の頃にはよくあった話。 あるいは全員注視の中、言いたい内容の言葉がとっさに出てこない、10秒で意見要点を伝えないと聞いてもらえないなど、欧米ビジネスのスピーディさと厳しさが伝わってくる。 「子供の時から、説得力、弁論力、折衝、積極性、リーダーシップ力、自分を売り込む押しの強さなど、さまざまなところで鍛えられてきたアメリカ人と対等になるのは、毎日の勉強です。特に、私の職場はMBA大学院卒業生が多く、訓練されてきています」とKyoko は強調する。 アメリカ人達は小さい頃から学校で討論や論争(“ディベート”と言うが)に慣れきっている。小学校のクラス委員立候補や町の評議員から大統領選挙まで公開の場でディベートが行なわれ、立候補者同士が論争。矢継ぎばやに問われる一般聴衆からの質問にも答えてゆく。そういった白熱した討論が日常のことなのだ。

働き盛り。シカゴの家を売って、いざニューヨークへ!

東京出身のKyoko は、前回紹介したSeiko 同様に40歳前後の働き盛り。ニューヨーク市に近いニュージャージィ州に住み、アメリカ人の夫と8歳の娘との3人暮らしだ。昨年、シカゴからニューヨークに転勤の話があったときは迷ったと言う。シカゴですでに一戸建て住宅を購入していたし、ニューヨーク辺りは生活費が高い…。娘の学校や夫の意向など考慮しなければならないことが山ほどだった。 熟考の末、ニューヨーク行きを受入れたはよいが、まずシカゴの家を処分せねばならない。アメリカの多くの企業は、引っ越しにかかる費用を負担する場合はあっても持ち家の世話まではしないから、Kyokoは家をすぐに売りに出したが、不動産の低迷期ですぐには売れず、ニューヨークへ出発する時間が迫って・・・。 引っ越した当初は2件のローンを支払っていたのだからその経済的な負担とストレスは大変なものだったろう。幸いにも会社が購入時とほぼ同じ価格で引き取ってくれることになったが、大手不動産会社のインスペクターが検査して、何ヵ所かをKyoko持ちの費用で改装しなければならなかった。 結果としてはよい不動産投資とはならなかったそうだが、しかし、何百キロも離れた場所で家を売る不便さに加え、2つのローン支払いを考えれば、よしとしなければならないだろう。

新居選びは、子供の学校を最優先条件に

日本のような「社宅」システムがなく、転勤の場合は新しい土地で家探しをしなければならない。 Kyokoは家探しのポイントとして、良い学校のある区域を選択の最上位に置いた。公立学校はそれぞれ地区によって授業内容に驚くほどの差がある。通勤にも便利で、治安がよく、町の雰囲気が心地よい点にも留意。まだシカゴにいる間にニューヨーク市やニュージャージィ州の知り合いに土地や学校の様子を聞き、会社から不動産エージェントを紹介してもらい、ピックアップされた何ヵ所かの家を見に何度か現地へ飛んだ。 ウェブサイトで住宅を探すとたくさんの物件が出てくるが、自分の足でその町に立って判断したかったからだ。ニュージャージィ州はニューヨークへの通勤距離範囲内であるためにロケーション、ロケーション、ロケーションで、土地価格と住民税が高い。シカゴでの家と同等の一戸建て住宅を求めるとなると、はるかに高額で手が出ない。だからシカゴで住んでいた一戸建てに比べて築80年と古くてこじんまりした約5,000万円位の家に落ち着いた。

常に高めのハードルを設定し、挑戦

個人主義がよくも悪くもアメリカ社会の基幹となっているから、女性の独立心も旺盛で、既婚未婚にかかわらず、子育てをしながら働く女性は多い。 Seiko の暮らしぶりで紹介したように(vol. 186)、アメリカの暮らしは、精神的にはタフだが、食生活も人間付き合いも暮らし全体がシンプルだからか、女性が働きやすい環境とは言える。Kyokoは日本の女性に対して「周りに無理だと言われても、自分でやってみたかったら、ぜひ挑戦してもらいたいです。継続はやさしいことではありませんが、無理だと思っていたことでも、続けていれば気がついたらできるように/かなうようになっていた、ということも…」とアドバイス。 彼女は常にハードルをやや高めに置いて自分自身に挑戦してゆく。だから自分が何をしたいかしっかりした考えがないとKyokoのアドバイスは実は日本女性にとって難しいかもしれない。まわりばかりを気にせず、自己の確立が必要になってくるからだ。それと同時に、「外から見ると日本は本当に奥が深い美しい文化で、日本にいる時にもっと勉強しておけばよかったと今になって思います」とKyokoは述懐するが、日本を離れた視点から眺めることでかえって日本が見えてくるようだ。 こういった複眼の視点を持つ女性が増えるのは嬉しい。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。


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