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vol.263 音楽が与えるもの

親戚の家でのバスーン合奏会。家族のみ6~7人で和気あいあい(イリノイ州ハイランドパーク市)
バスーンは低い音で響く。バスーン2台だけの合奏は珍しいのではなかろうか (イリノイ州ハイランドパーク市)
ピアノ独奏のあと、彼がバスーンを演奏した(イリノイ州ハイランドパーク市)
インドの実業家J一家を歓迎して演奏会が友人宅で開かれた。トランペットを吹くJ氏(イリノイ州ウィルメット市)
サキソフォンを吹くJ夫人(左)と、後方でドラムスを演奏する息子。プロのジャズ演奏者がベースやトランペットで応援する(イリノイ州ウィルメット市)
夜が更けてさらに盛り上がって大合奏となる。シカゴ交響楽団の奏者もまじって(イリノイ州ウィルメット市)

時折、ファミリーコンサートやホームコンサートに招かれ、流れゆく時を演奏家と密に共有する素晴らしい機会がある。
音楽修行中の親戚の若者が休暇でシカゴに戻り、われわれの前で演奏してくれた。彼はニューヨークのジュリアード音楽院でバスーンを学んでいるが、同じバスーンを学ぶガールフレンドを連れて帰り、ファミリーコンサートとなった。筆者は音楽に関しては無知で、バスーンは見たことのなかった楽器だが、日本ではファゴットと呼ばれ、低い音を出す木管楽器だ。ヨーロッパには古くからあるらしい。
いくつかの古曲をバスーンで合奏の後、ガールフレンドがピアノを弾き、彼がバスーンを吹いてバッハやモーツアルトを演奏。息の合った若い二人の新鮮な合奏は、間近で聴く家族を魅了した。

聴き手の心をしっかりつかむレディガガのライブ

レディガガのパフォーマンスライブをシカゴの自宅で見た。歌姫ガガは何度も衣装や髪型を変えつつ、歌いながら踊り、踊りながら喋り…、緊張を一刻たりとも緩めることなく、それまでガガに興味がなかった筆者をコンピュータースクリーンに数時間も釘づけにしたのである。
ガガは「わたし」のことを気にかけていてくれるんだ、「わたし」はひとりぼっちではない…。――「わたし」とはもちろん筆者ではなく、そこに居合わせた聴衆ひとりひとりを指すが、漠然とした「みんな」でなく「あなた」に訴えかけているんだと思わせてしまう不思議なパワーがある。特に2年前に大ヒットした“Born This Way” の場面では、心を閉ざし鎧を身にまとった聴衆でさえ狂喜。時にはワイルドな言葉で聴衆をたじろがせ、優しい言葉でつかんだと思うと突き放したりしつつも、全パフォーマンスを通じてガガと「あなた」との糸をしっかりと結ぶ。

気軽に音楽を楽しむアメリカ人

音楽愛好家で支援者でもあるインド人家族がアメリカを訪れた際に、友人宅でホームコンサートが開かれた。インド人家族が歌ったり、ドラムスやサキソフォンを演奏する時、シカゴ交響楽団の演奏者やプロとして活躍しているジャズ演奏家達は彼らに敬意を表して脇役に回り、アマチュアのインド人家族を盛り立てた。
30人はいただろうか。多くは音楽家なので入れ替わり立ち替わり演奏もし、合間には食べたり飲んだり、ジョークが飛び交って賑やか。アメリカ人は手持ちのジョークを披露するのが大好きだ。おつまみやケーキ、クッキー、お酒などを持ち寄ったくだけた集まりで、夕食はケータリング。つまり出前。シェフがその家のキッチンで料理を温め、食卓に並べ、後片付けまでしてくれるサービス。もてなす側は30人分の料理の心配をせず、友人達と音楽やおしゃべりを楽しむ。音楽が共通言語の楽しいひと時を過ごした。

集合住宅ではパーティールームを有効に活用

漫画家の友人がフォークシンガーをコンドミニアムの自宅に呼んでコンサートを開いたこともある。狭いアパートにぎゅう詰め、6~7匹の犬まで混ざり間近でギターの弾き語りを聴いた。
アメリカではこういったファミリーコンサートやホームコンサートはよく催されるが、大勢の客を呼ぶとなると住宅事情によっては難しい時もあろう。特に壁一枚で仕切られた集合住宅では音がうるさいと隣近所から文句が出ることも。
しかし、最近のコンドミニアムは居住者用の「パーティルーム」が設けられており、居住者が集まりをしたい時、例えば結婚記念日とか誕生日、卒業パーティなどのちょっとした集まり、もちろんファミリーコンサートなどに有効に使われる。パーティルームの設置はコンドミニアム側にとってアメニティとして目玉商品だ。

デジタル化で失われていく(?)生演奏の臨場感

人里離れた田舎に住む木彫家の知り合いがいるが、年に1度友人達に声をかけ森の中で各自持参した自作のドラムを全員でたたく。漆黒の闇に月明かりだけが手元を照らす深い森の中、十数人の打楽器のリズムが延々と夜を徹して響き渡ってゆく。詩的で原初的な光景ではなかろうか。
生の演奏や歌を聴くと、人間の手や指の動きや喉から出る声の美しさ、音量の豊かさに感銘するが、空気の振動でそれらが直接こちらに伝わってくるのか、生々しい実感がある。シカゴ交響楽団やオペラ、ブルースやゴスペルなど沢山のライブハウスがシカゴにはあるが、軒並み入場者が減っているそうで残念。すべてがデジタル化してゆくのはいまや止めようもないが。
レディガガの素晴らしいパフォーマンスはヤフーによるパリからの同時中継で、技術の進歩に文句があろうはずもない。現在、多くのパーティでは生演奏のバンドを雇うよりもディスクジョッキーを使う。演奏はデジタルで仕切るから一人で済む。安く上げたい事情もわからないではないが、生演奏の臨場感は失われる。あるジャズ演奏家の友人が以前「演奏は演奏者と聴き手との対話だ。」と言っていた言葉が心によぎる。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。


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