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vol.268 安全から安心へ

ゲィティッドコミュニティ。前方は門番小屋。左側にはゲートがあり、チェックされる。右側は出て行く車だけののでゲートはない。敷地内見回りの車が手前に置いてある(イリノイ州ノースブルック市)
ゲィティッドコミュニティ敷地内。元ゴルフ場だった。緑の芝生に邸宅が点在する(イリノイ州オークブルック市)
24時間常駐のドアマンがいるコンドミニアム(イリノイ州シカゴ市。以下同)
来訪者は受付で必ずチェックされるコンドミニアム
リモートコントロールを使ってのセキュリティシステム操作はいまや一般的
スプレーペイントのいたずら書きや雑草が茂る敷地界隈は赤信号

シカゴは日本と比べると格段に物騒と思う。広さは東京23区とほぼ同じで、人口は東京の約5分の1だが、シカゴ市では2013年に発砲事件負傷者2,185人(月に平均約182人!)、殺人事件死傷者は415人(月に平均約35人!)とのデータがある(/en.wikipedia.org/wiki/Chicago)。
恐るべき数値と思うのだが、1990年代に比べると殺人事件は半分に減ったと市警は胸を張る。銃所持に関して賛否さまざまの声があがってはいるものの、すでに多くの州で銃の携帯が許されている。自分の身は自分で守りつつ西へ西へと新天地を開拓していった遺伝子が、アメリカ人の中には色濃く残されているのだろうか。
アル・カポネらギャングが跳梁したのは100年も昔で、シカゴはもう無法地帯ではないと思いたいが…、緊張感の強い都会で人々はどのように犯罪に気を配って暮らしているのだろうか。

最も安全なのは、ゲイティッドコミュニティ

住まいの安全という点から眺めると、ゲィティッドコミュニティは外部から完全に隔離され、見知らぬ外部者が入りこむ隙がないタイプの暮らし方で、最も安全と言えるだろう。訪問する際はゲート(門番小屋)で止められ、門番が訪問先を確認する。門番は居住者と連絡をとり、居住者の許可が下りてはじめてゲートが上がり、来訪者は敷地内部に入ることができる。
歩いている人を見かけることは少ない。元ゴルフ場がゲィティッドコミュニティに開発されたある高級住宅地では、周囲には塀が巡らされ、池や林が設けられた芝生の敷地に大きな屋敷が点在する。人の姿が見当たらず音も動きもないためか、一帯は人間臭さが全く感じられず、別世界の感がある。

都市部ではドアマンつき、オートロックのコンドミニアムも

同様に24時間ドアマン付きのコンドミニアム(日本ではマンション)もゲィティッドコミュニティ同様、安全という観点から見れば十分に安心感が得られる。特に都市中心部の高層ビルに多く、24時間常駐のドアマンは住人を見知っており、来訪者は都度チェックされる。通常のコンドミニアムの付加金は1戸あたり月々200ドルから450ドル位だが、ドアマンを雇うとなると1戸あたり月700ドルかそれ以上にはねあがる(Chicago Tribune newspapwr 5/29/2011)。
ドアマンが常駐しないコンドミニアムや賃貸アパートでも、安全性には気を配らねば借り手買い手は得られない。門の入り口か玄関内部にそれぞれ住居者の番号が示してあり、ブザーを押すと訪問先の居住者と話せるようになっているものが多く、来訪者の確認のあと、居住者は入り口ドアのオートロックを解除するというシステムだ。
しかし、配送や修理などの業者が内部に出入りしたり、先に出た人が開けたドアから不審者が入るなど、ドアマンがいない住まいは100%安全とは言えず、部屋やバルコニーに防犯カメラを備え付けている居住者も少なくない。

空き巣の犯行はたった3分半!

住宅街にある一戸建て住宅の場合は、ゲィティッドコミュニティと違い、安全は自分で守る必要がある。防犯システムについては業者に委託し、さまざまな選択肢の中から必要と思われるものを選び設置する。
一戸建て住宅で一番多い犯罪は空き巣狙い。誰もいない昼間や、旅行など住人が長期留守にしている時に狙われる。ワイアレスネットワークの設置、コントロールパネル、ドアや窓にセンサー取り付けをセットで売る業者が多い。カメラやビデオを通してスマートフォンから自宅の映像を仕事場や出先からチェックできるオプションも業者側で用意。これらセキュリティシステムをオンにしておけばドアや窓が開けられたなど異変が起きた時には、契約しているセキュリティ会社に自動的に通報がいく。セキュリティ会社はすぐに契約者と連絡をとり、状況によってはパトカーが家にかけつける。
しかし、空き巣狙いはプロ、侵入してめぼしいものを取って車に積んで立ち去るまでたったの3分半だそうな。セキュリティシステムを装着していたにもかかわらず、何人かの友人達は空き巣狙いに入られコンピューターなどを盗まれた。いずれも契約業者の対処が迅速であったにもかかわらず、空き巣狙いはゆうゆうと車で立ち去ったそうである。
防犯システム装置だけに頼らず、ドアには鍵を2つ取り付けたり、窓はロックできる窓枠を使う、また、ドアの取っ手に手が届く範囲に窓があれば頑丈な窓枠に変えるとか、鍵をドアマットや植木鉢の下に隠しておかないなど、ちょっとした注意で空き巣狙いはUターンするだろう。

安全を得るには、お金がかかる

家探しと同じで、安全性についても「ロケーション、ロケーション、ロケーション」が安全度を測る目安となる。住む地域によって危険度に違いが見られるからだ。いくら家賃が安く掘り出し物の物件に思われても、危険な地域は避けたい。空き巣狙いや道路上でのかっぱらいなら怪我なしですむが、危険な地域は麻薬絡みの犯罪が非常に多く、流れ弾に当たったり車をわざとぶつけてきて確認しようと車から降りたとたんにホールドアップなど、命がいくつあっても足りない。
どうやって安全な地域か危険な地域かを見分けるかというと、危険な区域に共通する「外観」がある。商店街のドアには鉄格子か頑丈な金網が取り付けられ、街路はゴミが散らかり、いたずら書きやスプレーペイントを吹き付けたグラフィティーがあちこちにある地域は要注意。大きなショッピングセンター界隈の住まいも見知らぬ車の出入りが多いので避けたい。
総じて言えば、賃貸であっても購入であっても、「安全」をリストの筆頭に置きたい。安全性を考慮しない場所選びは命にかかわるからである。
家々に木々や花が植えられ町の街路樹が多く、それぞれの家は手入れが行き届き、お年寄りや子供が散歩しているような地域は安全性が高い。しかしその分、危険な区域に比べて家賃も物件の価格も高くなる。安全を守るには(多少)お金がかかる、と覚悟する必要がある。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。


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