アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスから、高速道路で南に向かって1時間ほどの距離にあるアーバイン市は、2021年に市制50周年を迎えました。アメリカの中では、比較的歴史が浅い計画都市です。連邦捜査局(FBI)が毎年発表する「アメリカ国内でもっとも犯罪率が低い人口25万人以上の都市」に16年連続で選ばれていることから、安全で住みやすい街として知られています。アジア系が人口の約4割を占め、日本人も多く住んでいます。
21年11月には、アーバイン市が広大な市立公園「Great Park」の命名権契約を市内の州立大学付属の医療機関「UCI Health」と締結したと地方紙で報じられました。UCI Health は10年間契約の初年度に50万ドル(約5,600万円)を支払い、その金額は毎年3%ずつ増額され、総額570万ドル(約6億4,000万円)に上るとのことです。その見返りとして、UCI Healthの名称が公園のロゴや看板に表示されるだけではなく、市が開催する健康およびスポーツ関連のイベントにも使われています。
計画承認から現在まで。紆余曲折の20年間
「Great Park」の総面積は1,347エーカーという広大なものです。東京ドームが約120個すっぽり入る、といえばどれだけの広いか想像できるでしょうか。
元々この土地は1999年まで海兵隊空軍基地がありました。基地の市外移転が決まった後、2002年に市議会で公園建設が承認されました。その後の08年に不動産不況のため計画が見直され、建設も一旦頓挫するなどの紆余曲折を経て、現在では多様なスポーツ施設を持つ公園へと生まれ変わっています。
2,500人が収容できるサッカースタジアム、4つのスケートリンクがあるアイスアリーナ、サッカーフィールド24面、野球・ソフトボール場12面、テニスコート25面、などなど米国でも珍しいほどの規模を誇るさまざまなスポーツ施設を備えています。公園中央に発着所があるオレンジ色の気球が目印で、市のシンボルにもなっています。
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「西海岸のセントラル・パーク」は実現するか
スポーツ愛好家の筆者にとってはこれ以上望むものはない、素晴らしい公園のように思えるのですが、「Great Park」は必ずしも市民全体に手放しで歓迎されているわけではありません。それどころか、公園の現状に強い不満を覚える市民も少なくありません。
計画当初から、市はニューヨーク「セントラル・パーク」に比肩する公園を建設するビジョンを宣伝し、周辺住民はそのプロジェクトに使うための特別な税金を負担してきました。現在あるスポーツ施設は、その壮大なプランの一部が実現したに過ぎないのです。
まず約1万人が収容できる野外劇場が建設されるはずでしたが、現状ではまだ仮設ステージが広場に建っているに過ぎません。それでも最近になっていくつかの野外コンサートがここで行なわれましたが、騒音の苦情が地域住民から多く寄せられました。
計画当初から含まれていた植物園も実現していません。17年に改訂された計画では、植物園の面積は60エーカーに、建設総費用は5,000万ドル(約56億5,000円)になると見積もられましたが、それも紙上の計画に留まっていて、建設予定地は現在も植物リサイクル会社にリースされたままになっています。
現状の「Great Park」は「スポーツ関連施設のみが充実して(あるいは過剰で)、文化面ではいまだにお粗末」、「本当の意味での公園にはなっていない」、そのような意味のことを市助役自らが市議会で発言したこともありました。
範を取った「セントラル・パーク」が開園したのは1873年。日本の元号では明治6年にあたります。それ以来の長い年月にわたって、ニューヨーク市民のオアシスとなり、多くの観光客も引き寄せてきました。21世紀から計画が始まり、せいぜい10年ほど前に開園したばかりの「Great Park」がその域に達していなくても、無理もないことなのかもしれません。
角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。海外書き人クラブ会員。