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vol.428 クアラルンプールにはなぜこんなにショッピングモールがあるのか【マレーシア】

テナント数700を超えるマレーシア最大級のショッピングモール

マレーシアの人口は3410万人(2024年マレーシア統計局発表)だ。ショッピングモールの数は1000を超え約40%がクアラルンプール首都圏に集中しているという。1人あたりの小売スペースは東南アジア最大だ。

国立不動産情報センター(NAPIC)の調査によると現在マレーシア国内のショッピングモールの総面積は1769万平方メートルに及ぶ。ただしテナントの稼働率は77%となっていてコロナ前と比べても伸び悩んでいる。それにも関わらず新規プロジェクトは進行している。

マレーシアにおけるショッピングモールとは

熱帯気候のマレーシアは晴れた日中に外を出歩いている人をあまり見かけることは少ない。例えば遊具の充実した公園、テニスコートなどの屋外の施設にはほぼ誰もいない。では人々がどこに集まっているかというとショッピングモールだ。

その理由の一つとしてエアコンの普及率が関係している。家庭用エアコン普及率が40%のマレーシアでは暑さ、湿度、雨といった気候に煩わされず効率よく日々の買い物ができるだけではなく、快適な環境で朝から晩まで丸1日を過ごせる場所としてショッピングモールは欠かせない。

世界屈指のハイブランドが路面店として並ぶモール

さらにマレーシアの経済成長が続くにつれ富裕層や外国からの移住者向けにインターナショナルスクールや大学、総合病院、高級スパ、美容サロンといった需要が増えてきた。これらの業態は新たに単独で地域に営業を開始するよりも、すでにブランディングされた高級ショッピングモールのテナントとなる方がイメージ戦略的にも有利であり集客力もある。

ショッピングモールのフロア数階を貫いている屋内テーマパーク
ボーリング場やカラオケもあるショッピングモール

中間層以上にとってもショッピングモールは買い物と飲食をするだけの場所ではなく、「楽しいこと、新しいことが体験できる場所」としての認識となっている。ショッピングモールによっては館内にサーフィン、ロッククライミングなどの大型遊具設備、没入型シアター、ライブハウス、ダイビングスクールなどが備わっているのも珍しくはない。さらにクアラルンプールにはフロア数階を吹き抜けにしてテーマパークを有しているショッピングモールもある。ジェットコースターまで走っている壮大さだ。

季節のディスプレイはSNSスポットしても話題となる

またマレーシアのショッピングモールではイベントにかなりお金をかける。消費者は買い物だけではなく「行けば楽しいことがある。非日常が見つかる」という認識を持ってショッピングモールへ足を運ぶ。日本でも郊外型のショッピングモールがその土地のエンタメの中心であったりするのとどこか似ているかもしれない。

都市開発の中心となるショッピングモール

クアラルンプール屈指の商業施設開発会社CFOは「ショッピングモールは過剰供給と考えられているが戦略的に建てられた場合、長期スパンでみれば利益をもたらす。またオフィスビルやホテルなどと比べても経済的変動にもしなやかに対応する」と話す。経済成長を考えるとショッピングモールは今後も必要だという考えだ。

実際にクアラルンプール市内にある高級ショッピングモールは複合開発の一環として一流ホテルや有名ブランドのコンドミニアム、オフィス棟を併設していることが多い。ショッピングモールのテナントはハイブランドや高級飲食店であることからブランディングとしてwin-winの関係になる。

マレーシアではショッピングモールの上に住居棟があることも多い

また2010年以降、都市再開発によるインフラ整備に伴う鉄道の新路線が敷設され、高速道路が開通し交通の利便性があがっている。官民一体による大規模計画を伴う高級ショッピングモールは集客力あり収益の見込みがある程度担保されると判断されている。

ただし全てのショッピングモールが成功しているとは言い難い。マレーシアの消費者は飽きやすい。鳴物入りでオープンしたものの1年後にはアンカーテナントが抜け閑散としているところもある。クアラルンプール中心部における商業施設の店舗スペースの賃料の中央値は8380リンギット(約269641円)だが、高級ショッピングモールはその数倍となるため開業時の予想よりも収益が出にくいのも影響している。

逗子マリナ(マレーシア在住ライター・海外書き人クラブ)
海外在住歴はアメリカ3年半、オーストラリ4年。2016年からはマレーシア在住。日本のメディア・企業向けにリサーチ、現地情報収集、観光情報、国際展示会等の取材で幅広く活動中。「地球の歩き方の歩き方webクアラルンプール特派員」。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織海外書き人クラブ(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。


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