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vol.434 水道も発電所もないけど世界一幸せ【フィジー】

 「幸せ」の基準ってなんでしょう。いや、そもそも「幸せ」とはなんなのでしょう。いくつかの国際的な調査機関が「幸せな国ランキング」を発表しています。今回紹介するフィジーはそんなランキングの一つで第1位に輝いたこともあります。その理由を探ってみましょう。

フィジーの人たちはいつも笑顔を絶やさない

 フィジーは333の島々からなる島しょ国家。そのうちおそよ100の島々に人が暮らしています。首都であるスバ市や日本からの直行便も飛ぶナンディ―国際空港があり、いわば「本島」に当たるのが「ビチレブ(Viti Levu)島」。そこにあるまちでの暮らしは日本など先進国の都会の暮らしとほぼ変わりません。でも今回「アドベンチャートラベルトレード協会」「フィジー政府観光局」の招きで訪れたフィジーのとある「離島」での暮らしは、日本人の視点から見たらかなり「過酷」に映るかもしれません。

何もない島

 その島は「ヤサワ諸島」と呼ばれる島々の中にあります。本島である「ビチレブ」からヤサワ諸島の島々を結ぶ連絡船で約1時間45分のところにある「クアタ(Kuata)島」。この島はビーチ沿いにリゾート施設があり、ダイビングやシュノーケリングなどを楽しむ海外からの旅行客が大勢訪れます。そこからモーターボートに乗ること10分強で到着するのが「ワヤセワ(Wayasewa)島」です。かつては漁業が主な産業でしたが、今では廃れ、多くの島民がクアタ島のリゾートで働いているそうです。

モーターボートで島へ

 さてまず驚かされるのがこの島には「上水道」がないこと。「水がなくてどうやって生きていくんだ?」と思われるかもしれませんが、雨水をタンクに貯めて利用するのです。日本の気象庁のデータによるとフィジーの月別降水量は最も多い1~3月が毎月約350mm、最も少なくなる6~7月は50mmまで減るようですが、島の人たちによると「渇水で困ったことはない」とのことです。いわゆる発電所もありません。家々の屋根にはソーラーパネルが設置されています。というとエコな暮らしと思われるかもしれませんが、冷蔵庫や洗濯機といったモーターを回す家電製品を使うには発電量不足とのことで、ガソリンを燃料にした発電機を用いています。

 そして島には自動車が通れるような道もありません。当然のことながら車も見かけません。上水道もない。電気は発電機頼み。車も走っていない。今から約40年前の1984年に、青森県北津軽郡出身のシンガーソングライター吉幾三さんが田舎生活をデフォルメしながら自虐的に歌ったヒット曲「俺ら東京さ行ぐだ」の歌詞では、「テレビもラジオもないが車はときおりは走っている」とされているのでそれよりも非現代的な暮らしに見えるかもしれません。

通学も一苦労

 島の人口は約300人。集落は3ヵ所ありますが、小学校と幼稚園は1つのみです。

ひと昔どころかふた昔くらい前を思わせる小学校の教室

 前述の通り自動車道がない島です。島の反対側の集落に住む子どもたちはスクールバスもないのにどうやって小学校に通うのかというと「モーターボート」。そう、スクールバスならぬ「スクールボート」で通うのです。そういうわけでサイクロンが来るなどして波が荒いしけのときには通えなくなるのです。

徒歩を除けば「ボート」が唯一の交通手段

 さらに島にあるのは小学校までです。中学からは親戚宅に居候するか、寄宿舎に入るかして「本島」で通います。ちなみに車道のない島出身の子たちはみんな、本島に移り住んだ直後「自動車」や「信号機」に戸惑うそうです。

社交的な島の人たち

 いくつかの家の庭先ではまるで「蚤の市」のように古着が広げられています。聞けば「洗濯物を乾かしている」とのこと。なんとも適当だなと思ったりもしますが、赤道に近く、昼頃には真上から太陽の光が照り付けるので、竿竹や洗濯紐に吊るさなくても乾くのです。

なんとも大胆な物干し風景

 きれいにのばしていないのでしわは残るでしょうが、無駄な作業を省くと考えるとこれはこれで合理的です。「見た目」を気にしなければこれで充分!

 こちらは「大風で飛んできた葉っぱをそのまま放置」……ではなく、天日で乾かしているのです。そして写真手前のようなマットや……

 こんなうちわやバッグをつくります。

 島の人たちは本当に社交的です。見学に来た私たち外国人に対して、大人も子どもも「Bula!」(「こんにちは」「ようこそ」「乾杯」など歓待を意味する言葉)と声をかけてきます。

訪れた外国人観光客の夫婦とずっと手をつないでいっしょに歩いていたフィジーの子
最後には涙でお別れ

 さてフィジーが世界一に輝いたこともある「幸せな国ランキング」。それは国民たちに「自分が幸せだと思っている度合い」を聞く調査です。つまり「主観的な幸せ」では世界トップクラス。

手工芸のおみやげの数々。中央の写真立てに書かれた文字は「ただいまフィジー時間中。急がない。気にしない」

 その一方で平均寿命や就学率といった様々な指標データを元に「客観的」に幸福度を測る国連の「世界幸福度報告」に関しては小国ゆえか調査対象にはなっていません。ただそれらの指標を見ると、もしも順位が付けられるとしたらかなり下のほうになりそうです。つまり「主観的」な調査では幸せなのに、先進国基準の「客観的」な調査だそうでもない。そう、まわりからは幸せそうに見えなくても、彼ら自身はとても幸せなのです。

 私たちが忘れつつある幸せが、そこにはあるのかもしれません。

フィジー政府観光局 https://visitfiji.jp/ 

Adventure Travel Trade Association(アドベンチャートラベルトレード協会)
https://www.adventuretravel.biz/

柳沢 有紀夫
オーストラリア・ブリスベン在住に在住。オーストラリア関連の書籍以外にも『値段から世界が見える!』(朝日新書)、『ニッポン人はホントに「世界の嫌われ者」なのか?』(新潮文庫)、『日本語でどづぞ』(中経の文庫)、『世界ノ怖イ話』(角川つばさ文庫)など著作も多数。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)のお世話係。


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