ブーニー(野犬)が出没する原因は?
日本から約2,600km離れた南国リゾートのグアムの面積は約549平方キロメートル、日本の淡路島とほぼ同じ面積である。そのグアムは島内に推定約6万匹いる「ブーニー(Boonie=野犬)」問題に頭を悩ませている。原因はいくつかあるが、2020年コロナ禍の影響を受けたアメリカ最大手の航空会社が貨物航空機によるペット輸送サービス「ペットセーフ・トラベル」を停止したことの影響が大きいといわれている。
現時点で一般島民が利用できるペット輸送サービスは、日本の航空会社が運航するグアムー成田間、あるいは韓国の航空会社のグアムーソウル間の旅客機、そしてペットを運ぶためのチャーター機を手配する3通りしかなく旅客機輸送の場合、ペットの種類によって違いはあるものの最終目的地に到着する間に経由する国や地域ごとに検疫やワクチンが定められているため経由先が増えれば増えるだけ飼い主に煩雑な手続きが強いられる。そしてペット用のチャーター機を手配する場合は小型犬でも2,000ドル以上、大型犬になると4,000ドル以上、日本円で約30万~60万円と高額な費用が1匹ごと必要になる。そのため、転勤などで島外へ引っ越しをする際、ペットが置き去りにされてしまうケースがあとを経たないのだ。
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不妊・去勢手術プログラムの甲斐なく
グアム政府衛生保健局はこの由々しき事態を改善するため、2022年から2年間「SNIP (Spay Neuter Island Pets=不妊・去勢手術プログラム)」を実施し、野生化したブーニーを約2万5,000匹まで減らすことに成功した。だがその努力もむなしく、ブーニーたちは増え続け、農務局によると島内には現在約6万匹、島民3人あたり1匹の野犬が生息しているという。
グアムの動物保護団体では、ペットを世話する・捨てない文化を若い世代に伝える教育プログラムを学校のカリキュラムに入れるよう行政に働きかけているほか、ホテルやレストランに協力を求め、売上金の一部を寄付してもらっている。だが島内には低コストで不妊・去勢手術を行う施設が欠如しているため資金不足から野犬の数をコントロールできずにいる。
エサを求めて島民の生活圏にも出没する
ブーニーの中には高齢になり介護が必要になったから、病気で医療費がかかるようになったからなど、引っ越し以外の理由で公園やビーチに遺棄された元飼い犬もいる。もともと野生動物ではないこれらのブーニーは人間への警戒心があまり強くないため、雨風をしのげる空き家や観光客などが放置したゴミ(餌)のあるビーチ、人間の生活圏であるバーベキューパビリオンなどに生息しており、早朝グアムのビーチを歩けばブーニーが集団で何匹も姿を現す。
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それだけであれば大した問題にならないが、餌を求めて住宅街にも出没する彼らの抜け毛や排泄物による住宅環境の不衛生問題、ノミやダニといった害虫による健康被害、夜鳴きや遠吠えなど公衆衛生と安全上の問題を引き起こしている。グアム政府衛生保健局ならびに農務局動物保健部門の担当者による と、島民から寄せられたブーニー(野犬) に関する苦情は過去10年間で2.5倍に増えたという推計があり、昨年度だけでも1,000件以上の苦情が寄せられている。苦情のうちの約25% はゴミ箱を荒らされたり、咬傷されたものだという。
グアムでは生息数の増加速度が速いブーニーの個体数削減への取り組みが急務となってはいるが、 ブーニーの捕獲資格を持つ動物管理官はたった3人、 運搬用車両は1台しかなく、 2024年度に保護したブーニーは5,064匹( 野犬3,709匹と野猫1,355匹)と僅少だったため、 対策強化が求められている。
文筆家。1996年3月より家族と共にグアムに移住。グアム大学で3年半の学び直し生活を送った後、2000年にグリーンカード(米国永住権)を取得しグアム政府観光局などに勤務。10年に取得したグアム政府公認ガイドの知識を生かし、各種雑誌やウェブ記事の執筆や翻訳を手掛けている。海外書き人クラブ会員。