政情が安定し若く豊富な労働力を抱えるベトナム社会主義共和国(Socialist Republic of Viet Nam/以下、「ベトナム」)。近年、この国に進出を希望する外国勢力が後を絶ちません。筆者が昨年11月にホーチミン市を訪問・滞在した際には、「第1回英国-ベトナムビジネスサミット」が開催されており、英国の政府関係者や多くの大企業が参加・協賛していました。
私は邦人で唯一、このサミットの会場に入り取材することができました。
英国から現地を訪れた多くの参加者からは、「ベトナムの発展に関与し、大きな商機をつかもう!」という意欲が溢れていました。もっとも、進出しても競争は楽ではなさそうですが…。
ベトナムへは、各国から投資が活発に進められていますが、それらの中にはODA(Official Development Assistance:政府開発援助)絡みのものも少なくありません。
日本からベトナムへのODAによる円借款は、1950年代から有償・無償の両方の形で実施が継続されています。確認可能な直近の2022年時点のODA額を見ると、日本の供与額が3億8,680万ドルと、対ベトナムでは5年連続で1位となっています。中国・ロシアとの関係が不透明になる中、安全保障上の観点からも、ベトナムとの関係を強固にしておきたいという国策に沿ったものなのでしょう。
きれい、ハイテクなベトナムの地下鉄
前編でお伝えしたとおり、ベトナムでは渋滞や大気汚染が問題となっています。そのような中、新たな公共交通機関として、首都ハノイと商都ホーチミンで都市鉄道(メトロ)の建設が進められています。21年11月に首都ハノイ市の2A号線、24年8月にハノイの3号線が開通。24年12月にはホーチミン市に地下鉄1号線が開通しました。市内中心部のベンタイン駅からの約2.6㎞がベトナムで最初の地下走行区間となったことから、「ベトナム初の地下鉄」と大きく報じられていました。
この地下鉄に早速筆者も乗車してきました。
実際に乗車してみて、
1.券売機のテクノロジー
2.広告の少なさと駅・車内の清潔さ
に大変驚きました。さらに、
3.日本の協力
にも気づかされました。
「1.券売機のテクノロジー」についてから説明しましょう。乗車券は、自動券売機で現金で購入できます。ベトナムの通貨単位はとても大きく、最も高額な紙幣は50万VND(ベトナムドン)です。乗車券の購入にも何枚もの紙幣が必要になるのですが、その券売機は、決して質が良くなく、しわの寄った多くの紙幣を器用に吸い上げ、詰まらせることなくお釣りの紙幣を戻してきました。なお、キャッシュレスはベトナムでも少しずつ進行しているようで、乗車券を買わずとも、マスターカードのクレジットカードならばタッチ決済での乗車が可能で、実際に使用している旅行者風も目にしました。
「2.広告の少なさと駅・車内の清潔さ」については、駅構内に入ると、欧米の地下鉄乗車時によく見るような大道芸人や落書きの類などが一切見られません。さらに、清涼飲料水などの自動販売機もなく、広告も極端に少ないです。電車の中は、日本をはるかに上回る清潔さで、個人的な印象では、これまで訪問したヨーロッパ・アジア・アメリカのどの国よりも高い衛生水準です。
開業から日が浅いということもあるでしょうが、それ以上に皆丁寧に乗車している印象です。
「3.日本の協力」については、随所で感じることができました。車体には日本の車両同様に、鉄道車内製造銘板(メーカーズプレート)が貼られており、「日立製作所」の名前を各車両で確認できます。
ちなみに、ホーチミン・メトロは総事業費約2,120億円のうち1,996億円を日本からのODAによる円借款で賄っています。日本企業は、1990年代の基本計画の策定段階から参画したようです。先に挙げた日立製作所は車両システムを供給、トンネル掘削などでは清水建設・前田建設工業の技術が活用されています。さらに、JR東日本・東京地下鉄(東京メトロ)が車両の保守や都市鉄道運行のノウハウを供与しているとのことです。
地下鉄の開通により、周辺地域で地価上昇も起きています。社会主義ゆえに公的な統計に分かりにくさやタイムラグがあるのですが、
・開通後1年で路線沿いのマンションプロジェクトの価格が8%上昇
・年間で1平方メートルあたり650万VDN(1万VDN=60円で3万9,000円)ずつ上昇
・マンション価格が年平均200~250米ドル(報道時点の為替レートで530~650万VDN(3万1,800~3万9,000円)上昇
との報道がありました。
こうした地価の上昇傾向はハノイでも確認されており、メトロ沿線のマンションの平均価格の上昇幅がハノイ市全体の価格を7ポイント上回るという報道もみられます。
ホーチミン・メトロは、駅に開通予定の路線図が掲示され、開通した箇所だけに着色がなされています。
全てが着色される頃、沿線の不動産価格は何倍に上昇しているでしょうか…。興味深いです。
1967年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、信金中央金庫入庫。2019年地域・中小企業
研究所主席研究員、信用金庫部上席審議役などを経て、21年4月より沼津信用金庫参与。「ダイヤモンド・オンライン」(ダイヤモンド社)、「金融財政ビジネス」(時事通信社)ほか一般誌・専門誌に連載多数。