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vol.441 かつての違法建築集落、今は国際芸術村に【台湾】

 台北市南部の公館エリアにある「寶蔵巌(ほうぞうがん/バオザンイェン)国際芸術村」(以下「寶蔵巌」)。
 ここは、地元住民とアーティストが同じ区域内に共存する、非常に独特な集落だ。

寶蔵巌國際藝術村。迫力のある外観

数奇な運命を辿った違法建築集落

 寶蔵巌と呼ばれるこの集落の歴史は、1930年代まで遡る。寶蔵巌は川辺の高台にあり台北市を見渡せる位置にあったため、第二次世界大戦時にはここに砲台と弾薬庫、そしてそれを管理する兵士の兵舎が建設された。
 第二次世界大戦後は農地として開拓されたが、1950年代以降、大陸から台湾に渡ってきた国民党の軍人やその家族などが流入して宅地となり、1970年代には200戸以上が集う集落となった。

 寶蔵巌の面積は4ヘクタールにも満たない。決して広い土地ではない。そこに200戸以上が居住するのは、明らかにキャパオーバーであった。当時の住民の手によって違法改築が繰り返され、やがて寶蔵巌は違法建築集落となった。

 1980年代には台北市政府が寶蔵巌の取り壊しを計画するが、これに対して住民たちが猛反対。市政府と住民との意見は、長い間平行線を辿っていた。1997年9月、台湾大学の学生たちが寶蔵巌に入り、住民たちとの意見調整役を担うことになる。その後、NGO団体や都市改革組織などの協力を得て政府との調整が進み、2004年に台北市政府は、寶蔵巌を「歴史的建造物」として登録し、地域活性化の一環として正式に保全していくことを決めた。2010年からは「アーティスト・イン・レジデンス」として、世界各国からのアーティストを受け入れている。

集落内に突如現れる作品たち

滞在希望者が殺到 倍率は10倍以上

 寶蔵巌の運営団体である財団法人台北市文化基金会芸術村営運部が毎年3月~6月に、翌年に寶蔵巌への滞在を希望するアーティストを募集し、9月に審査結果を発表している。審査を通過したアーティストには、寶蔵巌内の居住空間が一定期間無償で提供される。2025年には国外から364件の申請が寄せられ、30人が選ばれた。倍率10倍以上の狭き門だ。

 これまで寶蔵巌に滞在したアーティストは300組以上。アーティストの出身地は日本、韓国、シンガポール、そしてヨーロッパや南米など実に多岐にわたっている。
 現在滞在している日本人は、2018年にJapan Photo Awardを受賞したフォトグラファーの武村今日子氏。5月25日まで滞在予定だ。2026年には、武村氏を含む4人の日本人が滞在することになっている。

住民たちの声 辿りついた結論

 寶蔵巌に居を構えている住民の多くは、1970年代から居住している高齢者だ。アーティストを滞在させるという計画が持ち上がったとき、住民からは少なからぬ抵抗の声があったという。自分たちが長年静かに暮らしてきた土地に、縁もゆかりもない人たちが流入する、しかも定期的に入れ替わるとあらば、反対の声が上がるのも無理のないことだろう。
 政府・NPOと住民との長年にわたる話し合いの結果、住民の生活の安寧を守るべく、住民の居住地には苗字とその家のストーリーを掲げ、居住地は立ち入り禁止である旨の注意喚起を掲示することになった。いまでもこの掲示は続けられており、住民のプライベートを守るうえで大切な役割を果たしている。

住民の苗字とストーリーが壁面に示されている。それぞれの家に歴史あり、だ。

 いまでも約20戸の住民たちが、ここで静かに日常生活を営んでいる。
 当初は距離感やわだかまりがあった住民とアーティストの関係性は、計画開始から15年を経て、お互いに距離を保ちつつも打ち解けてきている状況だ。

いま、ここでしか見られない芸術の価値

 寶蔵巌は、その時々によって姿を変えていく集落だ。定期的に集まり散るアーティストたちが、いま、ここでしか見られない芸術を築きあげ、そしていつしか去っていく。

 一見廃墟のように見える建物の中に、アーティストのギャラリーやショップがひっそりと存在していることもある。まるで集落全体が秘密の宝箱のようだ。

外観は民家だが、実際にはアーティストのギャラリーだ。

 往年の違法建築は、いまやアーティストからの滞在申請が引きも切らない国際芸術村へと変貌を遂げた。そんな寶蔵巌で今日も新たに生み出されている、一期一会の芸術と出会ってみては。

観光客向けのカフェやレストランも敷地内で営業している。

市川美奈子
静岡県出身、早稲田大学卒。行政機関の駐在員として2023年4月から台北市で勤務。北京に5年半(2005年~2011年)、台北に3年(2023年~継続中)の滞在歴あり。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。台湾の経済・歴史・観光などに関する記事を、日本の各種メディアで執筆している。


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