最高裁判所は3月24日、賃貸借契約の締結時に差し入れた保証金のうち、返還を受けていない21万円とその遅延損害金の支払いを求めて争われていた事案で、「本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない」として上告を棄却、敷引特約を認めた。
ただし、理由のなかで、「敷引金の額が高額すぎる場合、賃料が相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当」との見解も示された。
同事案は、京都市左京区のマンションの1室(専有面積65.5平方メートル)を、平成18年8月21日から平成20年8月20日まで、月額賃料9万6,000円で賃借する賃貸借契約を締結。同契約には、保証金として40万円を支払うこと、契約締結から明渡しまでの経過年数に応じた額を保証金から控除した残額を賃借人に返還することなどの条項が盛り込まれていた。なお、原状回復費用は敷引金より賄うことが明記され、保証金40万円のほかに、一時金の支払いはなかった。
賃借人は、本件特約は賃料に加えて賃借人に二重の負担を負わせる不合理な特約であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるから消費者契約法10条により無効と提訴していた。
最高裁は、「賃貸借契約に敷引特約が付され、賃貸人が取得することになる金員(敷引金)の額について契約書に明示されている場合には、賃借人は賃料の額に加え、敷引金の額について明確に認識したうえで、契約を締結するのであって、賃借人の負担については明確に合意されている。また、通常損耗等の補修費用が賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても、これに敷引金を充てる合意が成立している場合には、賃料に補修費用は含まれないとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって、敷引特約によって、賃借人が補修費用を二重に負担するということはできない。
また、補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは、あながち不合理とはいえず、敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであるとはいうことはできない。
本件特約は、契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を保証金から控除するものであって、敷引金の額が、契約の経過年数や建物の場所、専有面積等に照らし、通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また、賃料に対し敷引金の額は、経過年数に応じて2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。
そうすると、敷引金の額が高額すぎると評価することはできず、消費者契約法10条により無効であるということはできない」とし、同事案の敷引特約を認めた。
なお、理由のなかで「敷引特約は、建物に生じる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無およびその額等に照らし、敷引金の額が高額すぎると評価すべきものである場合は、近隣同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当」とも示された。