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三井不G、築250年の古民家を耐震改修

耐震改修前の「旧用賀名主邸」
改修後の建物。建物南側の特徴的な意匠は従前のまま残している。屋根は鋼板で葺き替えられているが、従前の意匠に極力近づけている

 三井不動産(株)と三井ホーム(株)は19日、両社が耐震改修およびリフォームを手掛けた「旧用賀名主邸」(東京都世田谷区)を報道陣に公開した。築250年超の古民家を、従前の意匠を最大限保存したまま耐震改修を実施して耐震性を向上させることに成功。今後は、資産経営コンサルティングサービスの一環として事業化も視野に入れていく。

 同住宅は、東急田園都市線「用賀」駅徒歩12分に立地。敷地面積は約300坪。くぎを一切使わず、柱や梁をほぞで継ぐ伝統的構法による木造平屋建て。間取りは4SLK、延床面積は約220平方メートル。2006年からは人は住んでおらず、管理会社を通じて撮影等に貸し出されていた。これまで数度にわたりリフォーム等が行なわれてきたが、耐震補強はされていない。関東大震災や東日本大震災を経てきたが、今後の耐震性には不安があった。また近年は、雨漏りや床の反りなど建物自体も傷みが生じていた。

 三井不動産は、レッツ事業(資産経営コンサルティング)を通じて同住宅のオーナーと約20年の付き合いがあり、24年夏にオーナーから建物の安全性についての相談を受けた。同社は、木造住宅の改修等も手掛ける三井ホームとともにプロジェクトチームを立ち上げ、建物のインスペクションと耐震診断を実施。柱や梁等の傷みは少なかったが、耐震評点がわずか0.3と、大地震で倒壊するリスクがあることが判明。「今の状態を最大限残したまま耐震性能を高めたい」とオーナーが望んだことから、三井ホームが中心となって耐震改修と傷んだ室内のリフォーム工事の設計を実施。25年3月に着工、7月に竣工した。三井ホームでは初となる、伝統的構法の耐震改修だった。

 伝統的構法自体が持つ耐震性と建物の意匠を損なわずに耐震性能を高めるため、江戸川木材工業(株)の「Hiダイナミック制震工法」を採用。建物の壁の中5ヵ所に制震オイルダンパーを取り付けた。南側にある和室の続き間、縁側は建物の最も特徴的意匠であることから天井・床・縁側含めて手は入れず、ダンパーもその他の部屋に設置した。
 また、耐震性に大きく影響する屋根重量を軽減するため、瓦屋根を鋼板製の屋根へ葺き替えた。1平方メートル当たり80kgだった屋根荷重は5kgとなり、屋根の総重量を16分の1に軽量化した。これらにより、耐震評点は現行法を満たす1.0へ向上している。

 このほか、反りの見られた床ははがした上で水平を調整。一部は、マツの無垢フローリングへ張り替えた。雨漏り等で傷んだ壁やオイルダンパーを入れた壁はしっくいを塗り直し。ほぞが外れていた箇所は柱を足して継ぎ直した。床下には防蟻処理も行なっている。改修コストは、従前建物を解体し、同規模の古民家を新築する場合の5分の1程度で収まったという。

 同日説明にあたった三井不動産ソリューションパートナー本部レッツ資産活用部チーフコンサルタントの石田宏次氏は「われわれは、不動産の活用や相続に関する相談に、グループ企業や専門家ネットワークとともに最適なソリューションをワンストップで提案している。今回はオーナーの『この先も建物が安全に存在し、後世に引き継げるようにしたい』との相談を受け、安全性の検証、現状の把握から始め、現状を最大限残しながら耐震性を向上できた」と話した。

 施工を手掛けた三井ホーム東京支社オーナーサポート部副部長の内田 敦氏は「伝統的構法の建物はくぎを使わない柔構造により揺れを吸収するため、耐震壁の追加や接合金物による補強など一般的な耐震補強ができない。そこで、制震ダンパーを入れることで変形量を抑え、屋根を軽くすることで耐震性を引き上げた」と解説した。

制震オイルダンパーを施工中の様子
制震オイルダンパー施工終了後の室内
建物南側の和室続き間と縁側は特に特徴的であるため、極力従前の状態のままとしている


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