築44年のオフィスビルを複合ビルにコンバージョン
集合住宅やオフィスビル等において、“まちに開く”というコンセプトがキーワードになりつつある。それを実践するうえでさまざまな人や企業が集積する複合ビルというのは、交流促進の良い舞台になる可能性が高い。名建築家・ル・コルビュジエが手掛けた集合住宅「ユニテ・ダビタシオン」(フランス・マルセイユ、1952年築)も、賃貸住戸のほかに、店舗や生活利便施設が入居するなど、さまざまな要素を含む建物だったからこそ、良好なコミュニティが形成されていたという。 このほど竣工した京都市下京区の店舗、事務所、賃貸住宅の複合リノベーションビル「KYOCA Food Laboratory」(店舗・事務所25区画、住宅17戸)は、“食”というキーワードに沿ったテナントを呼び込み、共用部を活用しながら同じ価値観を持った入居者同士はもちろん、地域との交流を活発化していくことをコンセプトにしており、注目される。
◆訴求力高い“食”というキーワード
同ビルは、敷地面積1,257.58平方メートル。延床面積4,950.39平方メートル。1970年築の鉄筋コンクリート造地下1階地上6階建て。JR山陰線「丹波口」駅徒歩13分、JR新幹線・京都線「京都」駅徒歩20分に立地。元・企業の会館として使用していたビルを1~2階は店舗、3階は事務所、4~5階を賃貸住宅に改装。市場から届く新鮮な食材を使ったレストラン、こだわりの専門店が入居し、食の関心のあるユーザーが集うことを想定している。3月下旬に竣工した。
同ビルは、青果物やその加工品の販売等を行なう京都青果合同(株)がオーナー。同社は、長年「京果会館」として利用後、老朽化のため一度取り壊しを決めていたものの、オフィスのソリューションビジネスを展開する(株)ウエダ本社を通じてリノベーションという手法を知り、再生という手段を選択することに。企画・運営はウエダ本社が行ない、設計は同社のビルのリノベーションを手掛けた建築事務所(株)アーキネット京都が、リーシングは京都市内を中心に不動産仲介業等を展開する(株)コミュニティ・ラボが担った。オーナーの事業内容に加え、物件に京都中央卸売市場が隣接することから、“食”をテーマにリノベーションすることは自然の流れだったそうだ。
◆コミュニティが生まれる場を用意
1階店舗区画は、路面店ならではの物販や飲食店を想定したつくりとなっている。大規模な区割りで道路と中庭どちらからもアプローチが可能だ。
2階の店舗ゾーンは、一区画を小さくすることで賃料を抑え、「例えば、食に関してのインターネット事業を展開して、初めてリアル店舗を持つといった若い実業家なども想定した空間」(コミュニティ・ラボ代表取締役・田中和彦氏)だという。通路の曲がり角を多く設けることで、散策することが楽しくなる“小路”のような演出をした。
また、女性向けの洗面所スペースを広く取り、キッズスペースや授乳室としても使えるフィッテイングルームなどを導入。その前の空間にはソファなどを置いてくつろぎスペースにする予定だ。「空中店舗のため最初は訪れにくい印象があるかもしれません。お手洗いなどをきっかけに立ち寄っていただき、憩いの場になっていければと企画されています」(同氏)。
3階には、共用部として、セミナールームやサロンを設け、食や地域に関する学びの場としていく。フードクリエイターによるイベント、人気シェフによる日本料理アカデミー、マイファームアカデミーの就農支援、デザインで社会の課題に取り組む地域みらい大学など、食育・農育からワークスタイル、ソーシャルデザインまで知ることができるイベントを計画中だ。
4・5階の賃貸住宅には、“食”がテーマというだけあり、本格的な業務用キッチンを全戸に備え付けた。そのうち1戸を「プライベートキッチン」ルームとして、短期貸しを想定している。例えば、同室で料理教室を開催して、住民が集まり、そこで近隣同士が知り合うというのも想像できるだろう。同住宅はSOHO利用も可能で、企業の京都拠点としての利用も視野に入れているという。
◆地域活性化の拠点を目指す
同物件がある下京区西部エリアは、総合公園・梅小路公園、中央卸売市場第一市場の公共施設のほか、産業支援施設、寺社、大学、文化・観光施設など、交流拠点にふさわしい地域資源が数多く集積。2012年には同公園内に京都水族館(オリックス不動産)がオープン、16年春には新しい鉄道博物館もオープン予定だ。また、今年3月には京都市より「京都市中央卸売市場第一市場施設整備基本構想」「下京区西部エリアの活性化を目指す検討会議 報告書」が発表されるなど、地域活性化の取り組みがより加速していくと予想できる。同物件はそんな取り組みの拠点になることを目指している。
これまでに、地域向けのマルシェを2回開催。いずれも盛況となり、6月には3回目を開催予定だ。また、2階の食品物販エリアにある高さ3m、幅2.7mの壁に描く壁面アートを公募。近隣に住むクリエイター、デザイナー、食品販売者など、4人の案が採用された。「KYOCAの考えである“食べものと暮らす”という思いが強く伝わる方々にお願いしました。描かれた方々は、もともとライブペイントをされている方、テキスタイルデザイナーさん、神戸のビエンナーレで大賞を受賞された方やいろいろな種類のトマトを販売されている方と、さまざまな場所で活躍されている方々でした」(ウエダ本社つくるチーム・中本 はるか氏)。5月末には完成する予定だ。
店舗部分の専有面積は28.89~130.01平方メートル、賃料は6万5,000円~35万円。事務所の専有面積は31.64~59.08平方メートル、賃料は7~14万円。住宅の賃料は専有面積は39.69~92.24平方メートル、8万8,000円~21万1,000円。
同ビルは、長年、京果会館として機能していたこともあり、地元住民にとってはそのイメージが強い。まずはリノベーションビルとして認知してもらえるようにイベント開催やSNSによる情報発信などを行なっている。徐々に認知度が高まり、入居者も3分の1が決まっている状態だ。
“食”を介してさまざまな人が集い、楽しめる場。そこでは新たなアクションが起き、入居者による情報発信などを通じて、そのコミュニティの輪が広がっていくだろう。まちに開いたリノベーションビルの今後の展開に注目だ。(umi)
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