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変わるハザードマップ

あらゆる主体が「わかる」「伝わる」内容に

 4月26日、国土交通省から水害ハザードマップのユニバーサルデザイン化に向けたとりまとめが発表された。視覚障害者をはじめ、あらゆる人が利用しやすいハザードマップのあり方を示している。宅建事業者が重要説明事項で活用するハザードマップにも今後反映されていく可能性が高いであろうことから、こちらでポイントを紹介しよう。

◆「理解が難しい」等の課題が浮き彫りに

 同省はハザードマップ見直しに向けて、2021年8月にユーザー1,500人を対象としたアンケートを実施。その結果、ハザードマップのユーザー認知度は上がっているものの(下記グラフを参照)、「見ただけでは自分自身がとるべき避難行動が分からない」「視覚に障害があるなどの利用者の特性によっては情報のアクセスが困難」等の課題も浮き彫りになった。

水害ハザードマップの認知状況(国土交通省「ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会」のとりまとめより、以下同)

 そこで、同省は2021年12月に「ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会」(座長:田村圭子新潟大学危機管理本部危機管理室教授)を設立。あらゆる主体が「わかる」「伝わる」ハザードマップのあり方の検討を進めてきた。

◆音声読み上げソフト対応等が必要

 とりまとめでは、「利用者の理解につながるための情報の整理、抽出、変換」「利用者の特性に応じた複数の提供方法」等が重要で、水害時に適切な避難行動を判断し、行動するためには、ハザードマップの「地図面」と「情報・学習編」の両面の充実と環境整備(アクセシビリティ向上)が必要となるとされている。

国土交通省の「水害ハザードマップ作成の手引き」では、水害ハザードマップの構成は、「災害発生前にしっかり勉強する場面」と「災害時に緊急的に確認する場面」を意識して、「地図面」と「情報・学習編」で構成するものとしている。画像は地図面と情報・学習編を紙面形式で右・左に掲載している事例(東京都大田区)

 「地図面」では、基礎知識を得た上で、「自分の居場所のリスクを知る」「自分の居場所における適切な対応を知る」という「リスクを確認する」行動につながる内容とし、「情報・学習編」では、(1)水害(基礎知識)、(2)リスク、(3)対応を知るための情報を掲載すべきとした。

地図面と情報・学習編の構成案

 また、アクセシビリティ向上に向けては、紙での提供も重要であるが、インターネットの普及により、健常者と同様に高齢者や障害者にとってホームページ等は重要な情報源となっていることから、ウェブでの情報提供も必須であるとした。そしてその仕様も、音声読み上げソフトに対応しているなど、誰でもアクセスできるつくりにする必要があるとする。

 今後、これらの内容が地方自治体等向けの「水害ハザードマップ作成の手引き」に反映される予定だ。

◆「重ねるハザードマップ」サイトを先行改良

 同検討会の開催中には、より有効なアクセシビリティの高いハザードマップ案等を示すために、国土地理院が運営する全国各地の災害リスクを重ねて閲覧できるウェブ地図サイト「重ねるハザードマップ」の音声読み上げソフト対応版、チャットボット型ハザードマップ、3D都市モデルを活用した情報提供等のテスト版を同省が作成し、視覚障害者、聴覚障害者、特別支援学校の教員、健常者(専門学生・中学生・社会人)に体験してもらうワークショップの機会も設けていた。

チャットボット型ハザードマップのテスト版を視覚障害者等に体験してもらった

 検証した結果、「使用するには一定の知識が必要」といったさまざまな課題点もあったが、「それぞれのツールだからこそ得られやすい情報がある」「ハザードマップの理解が深まった」などの肯定的な意見が多かったという。同とりまとめの参考資料には、チャットボット型ハザードマップに必要なソースコードといった、各ツールの制作に必要な技術的な情報についても公開。ハザードマップ作成の参考にしてもらいたい考えだ。

「重ねるハザードマップ」の改良版のイメージ(コメントを色分けした画面)

 なお、「重ねるハザードマップ」の改良版は、23年の夏~秋にリリースされる見込みだ。音声読み上げソフト対応以外にも、住所の入力後、または現在地を検索後に遷移する地図画面では、その地点の自然災害の危険性、浸水深の凡例等を自動で表示。優先的に災害リスクが読み上げられるよう表示形式を工夫するほか、災害時にとるべき行動が分かるようにコメントを色分けして表示する予定だという。

◆◆◆

 宅建事業者には、水防法の規定に基づき作成された水害ハザードマップ上に所在する取引対象の宅地建物については、その所在地を説明することが義務付けられている。現場の説明で活用できるハザードマップの選択肢が増えれば、顧客への理解浸透、安全確保につながる。また、SDGsの観点からも、障害者や高齢者等、要配慮者を含めたさまざまな顧客が十分に理解できる説明を行ないたいと考える事業者にとっても有効なツールになるのではないだろうか。国交省や地方自治体の今後の動きに注目だ。(umi)


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