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「屋上でサツマイモ」で省エネ・環境貢献!

 (一社)不動産証券化協会が主催している「ARES ESG AWARD」。JREITのESGへの取り組みを表彰する顕彰制度だが、2024年度の受賞取り組みを見ていて思わず目をとめたのが、アクティビア・プロパティーズ投資法人の「室外機芋緑化システムの導入」。 記者は屋上緑化の取材も多数しているが、屋上で芋? えっ、屋上に芋が育つほど土を乗せられるのか? エアコンの室外機を緑化とは、芋で室外機を覆うのか? まるで想像がつかない…。  そこで、同投資法人の関連会社であり、屋上を芋で緑化する取り組みを実施している東急不動産(株)に話を聞いた。

◆屋上の空調室外機の“間”が芋畑に

 結論から言うと、屋上に土を敷くのでも、エアコンの室外機を芋のつるが巻き付いて覆うのでもなかった。「ビルの屋上に設置している空調の室外機の間にサツマイモの苗を植えた布袋をぶら下げ、そこでさつまいもを育てます。葉が茂ることで室外機に冷却効果を及ぼし、環境効果を発揮します」と語るのは、東急不動産都市事業ユニット 都市事業本部 環境アセット推進部 環境企画グループ主事の高橋尚宏氏だ。

 ビルの屋上には、たいていかなりの台数の空調室外機が置かれている。その間のスペースに架台を設置し、バケツくらいの大きさの布袋に芋の苗をぶら下げて、育てていくのだ。

空調室外機の間に架台を設置。そこに芋の苗が植えられた布袋をぶら下げて、育てる(写真提供:東急不動産(株))

 さつまいもはほかの植物と比べて病気等にも強く育てやすい。さらに、葉が大きく、多く茂る。それにより、夏に有効なさまざまな効果が生まれる。葉により日照が遮断され、日陰を作り気温を下げる効果。そして葉から水分が蒸散されることで室外機周辺の気温を下げる効果、さらに葉があることで室外機の排熱の再吸い込みを阻害する効果だ。
 「オフィスビルで使用されるエネルギーの約4割が空調のエネルギーで、そのほとんどが専有部、つまりテナントが使用している空調です。そこで、テナントに負担を強いることない環境対策として、この方法を採り入れました」(同氏)。

 これらの効果により、空調効率が向上するという。芋緑化システムを導入したビルでは、なんと夏季の電気使用量が10%から15%減少したという。室外機の対策だけでそんなに変わるとは、驚くばかりだ。

◆5つのビルで467kgを収穫

 サツマイモといえば、“葉”の部分の“涼”を得る効果に加えて、サツマイモの芋の部分の効果も気になる。
 そもそもどのくらい収穫できるのだろうか? バケツくらいの袋だから、1袋で3本くらいは収穫できるのだろうか?

 同社ビル運営事業部(当時)の春木大志氏曰く、「当社の運営・管理するビルでこのシステムを導入した当社のビルは2024年時点で5件でしたが、計467kgのさつまいもを収穫できました」。

2024年のビルごとの収穫量

 467kg…。どのくらいの量なのかピンとこないが。中くらいの大きさのサツマイモが1本250gほど。それに換算すると、実に1,900本相当だ。想像を大きく超える豊作だ。

 24年がとりわけ条件がよかったということでもないようだ。戦時中にも重宝されたさつまいもだけあって、「生育が早く、病気にも強い。風雨、台風でもだめになったりしない。大変強い植物なので、毎年たくさんの芋を収穫できます」(高橋氏)。

 たわわに実った?芋も同社は有効活用する。
 その一つが、芋掘りイベントの開催だ。

「ウノサワ東急ビル」(東京都渋谷区)でのサツマイモ収穫イベント。参加者が持っているさつまいもの大きさに注目(写真提供:東急不動産(株))

 そのビルのテナント従業員を対象に、参加者を募集し、みなで芋を掘る。都心で芋ほりができるなんて、夢のようである。さらに地域の小学生や幼稚園・保育園の園児を招待してのイベントも開催しているそうで、地域貢献にもつながっているようだ。

 「ビルの屋上はなかなか行くことがないです。しかも、殺風景な場所として認識されているし、じっさいそのとおりなんですが、芋ほりイベントに参加してくださった方は、屋上に緑が豊かに茂る光景を目にして、大変びっくりされます」(春木氏)。

 収穫できた芋は、芋掘りイベントに参加した方にお土産として持って帰ってもらう。液肥の質がよいのか、屋上で日照条件がいいのか、実に大ぶりのサツマイモが実る。一人数本持って帰ったとしても、それではさばききれない。

 そこで、協力会社の力を借りて、サツマイモチップスを製造。ノベルティとしてテナントへのあいさつの際に持参するなどして活用している。「クッキーやケーキも試作してみましたが…」(高橋氏)、比較的賞味期限が長いチップスに落ち着いたという。

収穫したサツマイモで作ったチップス
パッケージに芋緑化システムの効果などをプリント。単なる“配りもの”とはならないよう、工夫

 まさに二重三重の効果を発揮する、屋上芋緑化。こんなことなら、同社が所有する全ビルで実施したらいいのでは? とも思うわけだが…。

 「室外機と室外機の間に架台を設置するスペースが確保できるか、人が入って手入れできるスペースがあるか、といった一定の要件があり、全物件で設置できるわけではないのです」(春木氏)

 それは残念。同社では今年1物件で新規に屋上芋緑化を開始する予定で、今年は計6棟のビルでこの取り組みを実施する計画だ。

 なお、この緑化方法は(株)日建設計と住友商事(株)とが共同開発した技術で、特許取得済み。省エネ、環境対策、地産地消、エリアマネジメント…さまざまな効果が期待できるこの芋緑化システム。今後広く普及していく気がする。

◆ ◆ ◆

 緑を活用して夏の熱を遮断する方法として、かつてはへちま、その後はゴーヤなどが注目された。サツマイモとは目からうろこだが、へちま、ゴーヤより食材としてはなじみが深い。
 なお、この取り組みでは、さつまいもの中でも葉が大きい「べにはるか」が最適だそう。この種類は甘みが強くて知られていて、記者もよくスーパーで購入する。遮熱効果も、病気や荒天にも強く、収穫したサツマイモの使い勝手も良いとくれば、今後芋掘りができる建物が増えていくのは間違いない?(NO)


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