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古材を使って新築。新しい既存住宅流通のかたち

 築100年超の古民家には、そこに何世代にもわたって住んでいた人たちの思い出が染み込んでいるであろう。そうした記憶を含めて住宅(の建材)を流通させようという試みが登場した。小田急不動産(株)が5月、神奈川県開成町に「開成町モデルハウス」をオープン。古民家移築再生「KATARITSUGI(かたりつぎ)」プロジェクトとして、古民家に使われた古材を活用しつつ、高水準の性能を備えた新築住宅として販売する。

築160年の古民家の古材を活用した「開成町モデルハウス」の外観

◆2021年ごろからプロジェクトの検討開始

 同プロジェクトは、全国の空き家化した古民家を解体し、建材を他の地域で建設する新築住宅に使用することで、次世代に「古民家の暮らし」を引き継いでいくという目的を持つ。いわば、一般的な仲介や買取再販とは異なる「既存住宅流通」のかたちであるといえよう。

 同社によると、2021年ごろからプロジェクトの検討を開始したのだという。「現在、約100万戸の古民家が存在しているといわれます。空き家化してしまった物件も多いが、建物は頑強で今では手に入れられない建材が使われていることも多く、そのまま朽ちていくのは惜しい。それに、長く使われた建物には住民の思い出も染み込んでいる。そうした『記憶』も含めて流通させることができないかと考えたのがきっかけです」(同社取締役仲介営業部長:河村康伸氏)

◆新潟の空き家化した古民家を活用

 プロジェクトの実現に当たり、(一社)全国古民家再生協会と連携しており、同社は集客や土地の仲介等を担当し、古材の選定や新築住宅のプランニング・施工については同協会の加盟店が担う。具体的には、小田急不動産がユーザーの暮らしのイメージに合致する土地を選定・売買契約を結んだのち、同協会のネットワークを生かして活用する古民家を選択し、その古民家を解体してその柱や梁を古材として調達するというもので、「解体を無料で行なうことで、家主から古材を無料で譲っていただきます」(同氏)。解体した古材は、加工場で新たな住宅に適合するようにプレカットし、建築地まで輸送し、建材として再利用する。

 開成町にオープンしたモデルハウスは、新潟県阿賀町に建っていた古民家を解体した古材を再利用したもの。阿賀町は古民家が多く残る地域で、「豪雪地帯であるため、移住者の受け皿として活用しようにも古民家に住むことに抵抗を持つ方が多かったようです。このように何らかの理由で使途を失っている古民家は全国にあると考えられ、解体してその材料をほかの地域で住まいとして再利用してもらうことは、阿賀町だけでなく、全国の古民家空き家の対策としても有効だと考えています」(同氏)。

◆築160年の柱・梁をモデルハウスに

玄関を入った土間を広くとることで、古民家の風合いを創出した
最大高さ5mという吹き抜けが開放的なリビング。床はスギの浮造で仕上げた

 同モデルハウスは、小田急小田原線「開成」駅徒歩12分の幹線道路沿い。敷地面積は245.6平方メートル、木造平屋建て(建築基準法上は木造2階建て)、延床面積は130.0平方メートル。間取りは2LDK。

 建築に当たっては、築160年・延床面積約50坪の古民家を解体してその柱や梁を再利用した。最高天井高約4mの開放感ある玄関土間を抜けると、同5m超という大きな吹き抜けのあるリビング。その上部には、古材を加工した梁が使われている。同社仲介事業本部仲介営業部企画推進グループリーダーの山尾正尭氏は「このサイズの木材を現在の新築住宅で使おうと思えば、かなりのコストがかかるであろう立派な木材です。それに、160年にわたって人の暮らしを支えてきた木材は含水率も低く、かなり堅い」と話す。

 職人仕事を重視した建物には、その技術が細部にまで及んでいる。床は木目を浮き立たせる「浮造(うづくり)」の加工を施したスギの無垢材を一面に敷き詰め、心地よい肌触りを演出。室内ドアや仕切り扉などの建具はほぼすべて無垢材で造作し、室内を全面的にやわらかな雰囲気で仕上げている。

 さらに耐震等級2、断熱等級6を取得しており、BELSにおけるZEH水準の評価を取得するなど、住宅としての基本性能も高めた。炭素貯蔵量は20.5t、スギ41本分に相当する。建築費は坪単価約140万円前後だといい、建築費が高止まりする中では、大手住宅メーカーとも勝負できる価格帯だ。

築160年の古民家からピックアップした柱や梁を活用。曲がりや含水率なども計算した上で利用している。意匠的にも重厚感を演出できた
建具のほとんどが無垢。職人仕事が随所に光っている

◆家主や地域の記録をまとめた「家史」

 同プロジェクトは、古民家に住んでいた人の記憶も継承するのがコンセプトだ。その取り組みは古材の活用だけではない。古材をピックアップした古民家の元の持ち主のインタビューや、建っていた地域、その古民家の歴史などを一冊にまとめた「家史(いえし)」を新しい施主と元の家主に贈呈する。

 解体される住宅の記憶を残すというこうした取り組みは、全国各地で商慣習として行なわれているケースがみられる。大手住宅会社では、ポラスグループが行なっている建物の解体に際して神事等を行なう「棟下式」においても過去にその家で撮影した写真をアルバムにまとめ、家主に贈呈している。今回の取り組みは、古材の譲り手と、その古材を活用して家を建てた施主をつなぎ、元の古民家の記憶をしっかり継承する意味を持たせたかたちだ。

 反響はまだ片手で数えられる程度だが、「一般的な新築住宅を求めているお客さまはこの家には関心を持たないかもしれない。古民家暮らしに興味がある方には強く響くでしょう。実際に、具体的な商談が進んでいるお客さまも1組いらっしゃいます」(同氏)。

◇◇◇

 築年数を重ねた住宅には、その家に住んでいた家族の記憶も染み込んでいる。今回のモデルハウスに活用した古材にも、誰かが背丈を図った跡が残されており、そうした住まいに込められた思い出もまとめて次の持ち主に引き継ぐという意気込みが感じられた。

 土地と建物の流通としては、従来の手法とは異なるものだが、こうした考え方が新たな既存住宅流通の形として登場したことに、不動産流通の可能性を見た気分だ(晋)。


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