



移民多い都市では、不動産エージェントもバイリンガル
不動産ビジネスはアメリカではかすかな翳りを感じこそすれ、市場全体はまだまだ力強い。その推進力としての新しい波、一世移民たちが家を郊外に求め始めた事は大きな動きとして見逃せない。移民により成り立っているアメリカだから当然ではあるが、シカゴ郊外の新築一戸建て住宅購入者の20%が外国生まれの移民たちで占められる、という事実には驚かされる。 不動産エ-ジェントはこの動きにさまざまな反応を示す。なんと言ってもバイリンガルをかかえる多くのエ-ジェントが見られる。ボーリングブルックの大手不動産エ-ジェント、バード&ワーナーのバラヤス氏はメキシコ生まれなので、ヒスパニック系の潜在購買層とスペイン語で交流する。氏の顧客の50%は英語を話せないそうだ。「メキシコ人は伝統的に祖父代々の家に住むし、つい最近まで銀行で融資を受けるなどの習慣がなかった。だからアメリカにおいての家購入のすべてのプロセスを顧客にはじめから終わりまでよく説明し、納得してもらわなければならない」とバラヤス氏。(5月11日シカゴトリヴューン紙以下同)クレジット歴浅い移民には、ローン金利も高め
確かに家のセールスの場においても異文化の衝突がある事だろう。融資を銀行から受け、ローンを組む際にクレジット(個人の信用度が点数で示される)が問題になるが、移民一世はクレジットの歴史が浅く、従ってよい利率で借りられない。さらに多くの移民一世達は銀行を信用せず、現金をベッドの下に隠すなどする為(私の友人ピートの父親-ロシアからの移民-は家に密かに隠しておいた330万円の現金を先日盗まれてしまった)、よけいにクレジットの点数を稼げないせいもある。しかしバリー・ジガス氏( Washington, D.C.の大手 National Community Lending Center for Fannie Maeのsenior vice president)は、従来の方法にこだわらず、きちんと家賃や光熱費などをはらっているかどうかで信用度を評価する事は可能である、と述べる。グレン市のサウスゲートではなんと60%のタウンハウスが移民一世により購入された。この動きは異文化に対する理解を深めざるを得ないだろう。メキシコ人のあとにはメキシコ人が…
シカゴ近郊で最大のハウスメーカーのレイクウッドホームズでは家の購入時にかかる費用計算や説明を12ヵ国語で印刷し、ウェブサイトも英語に加え、スペイン語でながし、ヒスパニック系の雑誌にも広告を出している。いったんメキシコ人が引っ越してくれば、あとを追って、あとからあとからメキシコ人達が続いてやってくるそうだ(5月11日シカゴトリヴューン紙)。そして新しいコミュニティを形作ってゆく。異文化の理解とコミュニケーションは今後ますます重要になるだろう。民族により宗教もそれぞれ異なる。例えばサミットホームズ社のア-ベン氏は、ヒンズー教の顧客が家を購入し、締結の際に伝統的なヒンズー教に従い、儀式を執り行なった様子を説明するが、家だけでなく融資などの際に異文化がさまざまな問題をもたらす場合もある。例えば「イスラム法では抵当に対しての利子を支払うとか、負債とかは悪しき事なので、とくに敬虔なイスラム教信者にたいしては従来の融資と異なる方法で特別な契約書を作成しなければばならない時もある」とブラッドジャーマン氏(Freddie Mac. WashingtonD.C.の巨大な融資会社)は説明する。
アメリカはサラダボールの国である。「人種のるつぼ」とよく例えられるが、必ずしも個々の民族は溶け合ってはおらず、それぞれの民族同士が固まって住み、互いの民族性を主張している。異文化の理解とコミュニケーションと一言でいっても、そう簡単ではないが、不動産ビジネスは個々の努力により、人々が抱くアメリカンドリームのひとつ、「郊外に芝生のある広い家を持つ快適な暮らし」実現に力を貸すことが出来るだろう。私には不動産ビジネスはアメリカンドリームの大きな部分を担っているような気がするのである。

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。