



「家回帰現象」高まるアメリカ人
最近、住宅セールスとアパート賃貸におけるセールスポイントで注目されているのが「台所」だ。その一番の理由として、「家回帰現象」があげられる。これまでディナーといえばおしゃれな高級レストランに出かけていた人々に、景気の停滞で出費をおさえる必要が出て来たことがひとつの要因。また、テロ攻撃の危険を避け、外出、旅行よりも家で楽しもうとする人々が増えたことなども理由にあげられる。来客にもっともアピールするのが「台所」
ではなぜ「台所」か? 人々はそれほど料理に関心があるのだろうか? 実はそうではない。台所は他の部屋に比べ、お金をかければかけただけの素晴らしい効果をアピールできる場所なのだ。ステンレス製の冷蔵庫(Sub-Zeros社製)や皿洗い機、6つのガスバーナーのレンジ(Viking社製, Garland Stoves社製)、本物のマーブルでできたカウンタートップ、アイランド(島)と呼ばれる台所のまん中に置く調理台など、魅力いっぱいの品々が勢揃い。台所が家の中心に
従って住宅セールス、アパート供給をする場合、間取りも変化しつつある。従来の居間にかわり、台所が家族や友人達との団欒の場になりつつある。中には何と居間が消失する物件も出てきた。NAHB(National Association of Home Builders)の調査によると、全体的に居間の床面積がますます小さくなり、台所にその分が付加されているようだという(シカゴトリビューン紙1月19日)。50's、60'sには(昔のアメリカのテレビ映画でおなじみであるが…)家族は居間に集まり、テレビを一緒にみたりレコードを聴いたりしたものだが、現在では個々の部屋にテレビもプレーヤーもあり、家族にとっての居間の必要性が失われつつある。 また、カジュアルな暮らしを好む傾向も出てきた。友人を招待する時も気楽にくつろげる台所で料理をつくりながら共に楽しむ人が多い。そんなことを考えながらマンションセールスの広告をながめると、台所が注目を浴びているという事実に納得。実際に台所が中心にレイアウトされており、居間のスペースは狭くなり、排除されている物件もある。そして台所の贅沢な仕様も目をひく。台所とダイニングルーム(食堂)は昔は別々の部屋として区切られていたが、新しいタイプとしては一緒の空間に設けられている。「主婦の城」から「家族団らんの場」へ
台所は主婦の城であったのは昔の話。働く女性が増えた現在、家族の誰もが家事を分担する。スーパーマーケットではすでに洗って切ってある野菜やオーブンに入れて焼くだけの肉料理が売られている。半調理品も豊富だ。冷凍食品は考えられるすべての食品が揃っている。だから男性でも子供でも、実に簡単に料理が仕上がる。だれもが忙しい現代において、実際のところ家族全員が顔をあわせるのは台所だけかもしれない。家の間取りにも社会の変化が反映されていて興味深い。
コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。