



向こう三軒両隣り
住居を定める時、人はどんな条件を念頭において選ぶだろうか? 家探しは、「1にロケーション、2にロケーション、3にロケーション」といわれる。ロケーション、つまりその地域がどんな場所にあり、どんな人々がその地域に住んでいるかは非常に大切な要素だからであろう。 アメリカ社会は個人主義が原則で、隣近所の人々にはあまり注意を払わないのではないか? と私は以前考えていたのだが、そうではなかった。その地域全体の評価が上がれば、自分の家の評価額が上がる、という合理的な考えに基づき、地域の人々は自分が住も地域をより良くする努力を惜しまない。例えば、自分の家の前庭が草ぼうぼうであれば隣人に注意される時もある。コミュニティによっては外装のペンキの色や窓の形にまで制限があり、評議会の賛同がなければ改装もままならないこともあるという。コミュニティは個人個人がつくりあげていく、という自覚が強く、相した理由から、それぞれのコミュニティにおける市民運動も非常に盛んであるようだ。家探しには時間をかける事が大切
では、家を選ぶ際、どうしたら自分に適したロケーションを選ぶことができるのだろうか? 交通、学校、買い物などの利便性はもちろん、どんな人々がその地域に住んでいて、その地域全体がどんな環境にあるかなどのリサーチが必要である。 アメリカは多民族国家であるから、コミュニティの人種の兼ね合いもある。新聞に掲載される地域ごとの土地評価額を調べたり、友人、親戚、知り合いなどに地域の評判などを聞いてみることも時には大切だ。 そして何より、実際にその地域に行ってみること。例えば、昼間はのんびりしたところでも、朝夕は車の往来が激しいとか、夜は危険地帯に変わるということもある。異なる季節、時間、曜日目星をつけた地域にアパートを借りて数ヵ月住んでみるという念の入った人もいる。 家を買ってから、どうもこの地域は肌合いが合わない、というのでは遅すぎる。多くの友人達は、それだけ事前調査をしてからやっと不動産エージェントに連絡をとるなど、家探しに驚くほど時間をかけている様子がうかがえる。E-メールリストグループ
最近、地域によって「E-メールリストグループ」と呼ばれるオンラインサービスが盛んで、友人のシンシアが住むプレイリィ クロッシング(イリノイ州グレイスレイク市)というコミュニティでは200人以上が参加するE-メールリストグループがある。 イベント情報、修理や大工仕事などの依頼、ベビーシッター募集、図書館の時間変更のお知らせ等、地域内の案内が日々インターネット上に「回覧(掲載)」される。おしゃべりや意見交換のコーナーもあり、この「回覧版」に参加することで、情報を得るばかりではなく、その地域の住民としての連帯感が持てる、という利点がある。 シンシアは、「人々が寄り合う昔ながらのカフェがE-メールリストグループに形を変えた」のだという。しかし誰もがこの「寄り合いカフェ」に参加できるわけではない。イリノイ大学スティーブ・ジョーンズ教授は「アメリカ全人口の約40%はインターネットにアクセスする余裕のない低所得層や少数民族、高年齢層である」と指摘。将来、貧富の格差が情報取得の格差をさらにひろげるのではないかと懸念する。ジョーンズ教授は、老人ホームなどからもインターネット利用を容易にするような援助をし、より多くの人々が情報を共有できるよう働きかけているという(シカゴトリビューン紙5/18/03)。 シカゴ市内でも、すでに何ヵ所かのE-メールリストグループが組織されてきているが、近頃では、不動産エージェントが地域内で家を探す顧客のために、このリストに注意を払うようになってきたことは注目に値する。というのも彼らがそれだけコミュニティの重要性を認識しているからだろう。
コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。