




官民一体となった「緑」への取り組み
アメリカの人々は環境問題について実際にどう受け止め、どのような活動をしているのだろうか? 調べてみて驚いたのは、「green(みどり)」が単なるイメージやムードではなく、政府や企業、民間一体となったひとつの社会現象になっていることである。皆で環境問題を討議し、取り上げられたテーマについて現実に取り組む組織までつくりあげている。このアメリカ人達の実行力には恐れ入る。エネルギースタープログラムで、環境共生住宅が10万件
このようにしてつくられた中に、アメリカ政府が大々的に後押しをしているいくつかの組織がある。1994年に環境保護庁(Environmental Protection Agency)が展開したエネルギースタープログラムはその代表的なものだ(www.energystar.gov)。 「地球の環境を守る」というアイディアに賛同する企業や組織が参加。それぞれが製品やプロジェクトなどについて申請書を提出した。エネルギースター審議会では、これら応募の内容を自主基準によって審査する。その審査を通れば企業や組織はエネルギースターのマークをその製品やプロジェクトに使用できるというわけだ。 一般消費者は、購入する製品にエネルギースターマークがついていることで、光熱費節減を判断できる。アパート賃貸や分譲住宅、一戸建ての家などを探す際、このエネルギースターマークがついているかどうかで環境保全の目安にもなる。 また、エネルギースタープログラムに沿って光熱費節減をした場合の割引や払い戻しなどの特典も付加されたことで、1994年以来、エネルギースタープログラムの基準に合格した住宅が全米で約10万件建てられたという(Wall Street Journal紙、2/9/03、Jim Carlton氏)。毎年開催の「グリーンビルディング会議」も盛況
合衆国グリーンビルディング審議会(U.S. Green Building Council) という団体がある(www.usgbc.org/) 。10年前に立ち上げられた民間による組織であるが、この組織はLEED部門 (Leadership in Energy & Environmental Design program)と、グリーンビルディング国際会議部門(Green Building Conference)とに分けられる。 LEEDは、グリーンビルディングとしての基準を細かく定め、一般応募されたグリーンビルディングプロジェクトを点数により認可し賞を与えるもの。もうひとつのグリーンビルディング国際会議というのは、3年目を迎える新しい試みであるが、毎年場所を変え3日間行なわれる。国際会議と博覧会を兼ね、昨年は22ヵ国から約5,200人の参加者、400のブースが出展された。実際の商談も多く行なわれ盛況だったという(ペンシルベニア州ピッツバーグ市)。 参加者は建築家、建築土木技術者、建設開発業者、政府関係者、マネジメント業者、土地開拓業者、建築関連製品製造業者などで、グリーンビルディングによるデザインや構造の手法、財政から建物のマネジメントまでの広い分野にわたり学ぶ。アメリカのこういった会議にはつきもののグリーンビルディング視察や庭園ツアー、懇親を深めるパーティもいくつか計画された(http://2003.greenbuildexpo.org)。2004年はオレゴン州ポートランド市で秋に開催の予定である。海軍宿舎には廃材を利用
さて、前述のLEEDによる基準に合格、環境支持デザイン賞、2001年エネルギー節約ショウケース賞、ホワイトハウスクロージングサークル賞など数々の環境保全の受賞に輝くアメリカ合衆国海軍の宿舎施設を訪ねてみた。このアメリカ合衆国海軍基地はイリノイ州北方、ウィスコンシン州に近いミシガン湖畔に位置する。正門は当然警戒が厳重であるが、基地内は若者が中心のせいか、いたってのんびりしていた。広大な基地内に点在する水兵のための教育施設、体育館、劇場、運動場などを左右に眺めながら10分も車で走ると、古いレンガ作りの記念建物の隣に1,850人の水兵を収容出来る7つの寄宿舎に着く。これらはたしかにしっかりした建物群ではあるが、建物の内部に入ると、どの部屋も何一つ華やかさはなく(軍の施設だからわからないでもないが)、殺風景といってもよいくらいだ。 Wight & Company(建築設計)、The Steinberg Group(デザイン設計)により1999年に完成した。取り壊した建物の建材(公害を最小限におさえたもの)を再利用し、材料調達のうち31%は近隣から調達。モニター装備を採用し、光熱費と水の使用度を最小限に抑える。屋根は暖房費削減のためアルミを使用していた。 アルミ屋根では夏は熱くなるのではなかろうかと尋ねてみたが、比較できるはっきりした記録がなく残念であった。総工費は6,624,000,000円。あとはコスト面が課題
個人のグリーンビルディング注文建築はその人の意思を反映する。光熱費削減という点からも実際的だ。「緑の暮らし」は将来もっと広がっていくのではないだろうか。 また、上記の海軍宿舎のようにアメリカ政府による環境保全の取り組みも、将来の方向として勇気づけられる。 一方、民間企業ではどうであろうか? 初期建築コストの高さが一番のネックになっているように見受けられるが…。追って次回にレポートする。
コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。