海外トピックス

2004/5/6

vol.10 緑の暮らし グリーンビルディング(4)

プレィリークロッシング分譲住宅。コミュニティ内の湖ではヨット帆走やカヤックを楽しめる。アメリカ開拓時代の風景が意識的に残されている
プレィリークロッシング分譲住宅。コミュニティ内の湖ではヨット帆走やカヤックを楽しめる。アメリカ開拓時代の風景が意識的に残されている
プレィリークロッシングの家々を背景に…。テラスでくつろぐジェームスと隣人
プレィリークロッシングの家々を背景に…。テラスでくつろぐジェームスと隣人
有機栽培の畑を見回るシンシアと愛犬
有機栽培の畑を見回るシンシアと愛犬
コミュニテイの中心となるバーン(納屋)。サイロが今時珍しい
コミュニテイの中心となるバーン(納屋)。サイロが今時珍しい

ユニークな分譲住宅地:PRAIRIE CROSSING(プレィリークロッシング)

友人夫妻、シンシアとジェームスは8年前にシカゴからはるか北、車で1時間半のプレィリークロッシングというコミュニティに引っ越した。子供が生まれたため、より良い環境を考慮したのだという。シンシアは学校の先生であるが、植物、鳥、魚、動物などに興味を持っているので、自然に囲まれたプレィリークロッシングは彼らのライフスタイルにぴったりだ。娘のケイトレンは牧場で羊や馬と遊んだり、鶏の卵を鶏舎から集めたり、幼児期から自然の中でのびのびと育っている。

ところで、プレィリークロッシングは、アメリカでも非常にユニークな発想で作り上げられた革新的な分譲住宅地である。「住宅」という箱を建ててその商品を売るのではない。コミュニティ全体に「緑の暮らし」のコンセプトがあり、そのライフスタイルを売るのである。
1987年、この近辺の自然保護のために677エーカーの土地を買い取ったプレィリー保存協会グループが、数年後に都心から電車の乗り入れの計画を耳にしたときに、『NEW URBANISM』というコンセプトの画期的なコミュニティ建設を計画、土地開発業者と協力して建設、販売し始めたのである。この広大な土地に、通常なら2,400戸の一戸建て住宅が建つところを359戸に限定し、プレィリー(大草原)や湿地帯、湖であった部分をそっくりコミュニティ内に生かした。
夫と妻による建設チーム、George and Victoria Ranneyにより、フランク・ロイド・ライトでおなじみの中西部特有のプレイリースタイルで全体デザインが統一された。一戸当たりの販売価格は$300,000~$439,900というから平均5,000万円というところか? シカゴでの住宅価格としては決して安くはない。しかし前述のシンシアとジェームス夫妻(40歳代、高学歴、共働き、子供あり)あたりのように、都心に持っている家を売って買い換えるというなら手頃な値段といってよいだろう。建材などはエネルギー効率の良いものを使い、アメリカ連邦政府エネルギー庁の『グリーンな建築』とのお墨付き(?)で、従来の建材に比べなんと50%光熱費を節約できるというから驚く。建物の多くは前回述べたLEED (Leadership in Energy and Environmental Design) の基準に沿っている(www.prairiecrossing.com)。

インフラ整備で、先住民との摩擦も解消

プレィリー保存協会グループが解決すべき一番の問題は、359所帯が入居することにより、道路の渋滞やゴミが増える、学校が就学児童数が増加するなど、周辺一帯の先住民が持つ懸念であった。そのため、330人の生徒を収容する学校をコミュニティ内に建設し、都心からの電車乗り入れも実現することで、多くの人々が車の使用を避け電車通勤に切り替えるという結果を得ることができた。またリサイクルには最も力を入れ、住民との摩擦解消にも効果をあげた(Pioneer Press紙 1999/8/7)。

ユニークなのは、台所からの生ゴミをコミュニティ内で集め、腐葉土として再生、共同農場で野菜や花を有機栽培していることだ。作物はコミュニティの人々に販売されるほか、都心の朝市でも売られ、売り上げはコミュニティの収入になる。また、養鶏場では新鮮な卵が供給されている。味わってみたが、昔、親戚の田舎のおばさんがもみがらに包んで持ってきてくれ懐かしい卵の味だった。
コミュニティの中心となる「納屋(BARN)」ではさまざまな催しが行なわれる。ジャズ、フォークソングのコンサート、演劇やミュージカル、ダンスなど、子供達からお年寄りまで参加してにぎわう。夏は多くの人々がコミュニティ内の大きな湖で海水浴を楽しむが、その湖水の水は保護協会の協力により、浄化処理がなされているのだそうだ。

「器」は業者が、「中身」は住民の手で

典型的なプレィリークロッシングの住民とは、シンシアとジェームス夫妻のような人々だ。高学歴、40歳代、子供あり、共働き、地球環境保全や自然回帰に強い興味を持ち、内容の伴った充実した田舎暮らしを望む。 地球の環境保全を何とかしよう、と考えても個人では限りがある。その意味でこうしたコミュニティづくりは有意義な取り組みの一つと言えるのではないか。住民が環境保全を分かち合い、より健康的な暮らしを送り、さらには同じ考えを持つ人々同士、共同体としての意識も生まれる。コミュニティとして一つの哲学を持つことで、それに共鳴して新たな入居者もやってくる。「緑のくらし」の器は第三者から提供されたものであるが、中身は住民がつくりあげた、という点に、このプレィリークロッシングコミュニティの斬新さがあると思うのだが、いかがだろうか?

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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