海外トピックス

2009/6/4

vol.132 シカゴバンガロー

シカゴ市には多くのバンガロー様式の住居が使われている。がっしりとした構えで一戸建てが特徴(イリノイ州シカゴ市 以下同)
シカゴ市には多くのバンガロー様式の住居が使われている。がっしりとした構えで一戸建てが特徴(イリノイ州シカゴ市 以下同)
屋根に突き出した屋根裏部屋と地下室。屋根裏を持ち上げて2階建てに改造することも多い。美しい煉瓦作り
屋根に突き出した屋根裏部屋と地下室。屋根裏を持ち上げて2階建てに改造することも多い。美しい煉瓦作り
90年前の職人の技が偲ばれる煉瓦とタイル。それぞれの窓もスティンドグラスのオリジナルであろう
90年前の職人の技が偲ばれる煉瓦とタイル。それぞれの窓もスティンドグラスのオリジナルであろう
オリジナルの窓や花を飾るための石の支えなどが使われている
オリジナルの窓や花を飾るための石の支えなどが使われている
ミラー夫妻は、外見はそのままに、台所と客用の部屋を合わせて倍の大きさのキッチンスペースに広げた。全て最新の器具である
ミラー夫妻は、外見はそのままに、台所と客用の部屋を合わせて倍の大きさのキッチンスペースに広げた。全て最新の器具である

第一次大戦後、人口が急増。一気に10万戸の住宅が

アルカポネが跳梁したシカゴの街、第一次世界大戦が終わり、華やかなローリング・トウェンティーズに突入した時代…。人々が都市に流入し人口が急増した。国内ばかりか外国からの移民も大勢やってきて、主に工場労働者だが、彼等のために約10万戸もの住居が建てられた。シカゴ市はパンク状態。溢れた新設工場は隣のインディアナ州にまで広がる勢いで、シカゴは活気に満ちて華やかな時代であった。 これらの工場労働者家族のために建てられた住居を後年「シカゴバンガロー様式」と呼ぶが、外見の麗しさよりは質実剛健、実用的な作りが特徴である。それにしても10万戸が一時に建てられたのだ!しかも、決して間に合わせのいい加減な作りでなく、当時の腕が立ち、誇りを持った職人達が豊富な石や良質な木材、手焼きの煉瓦やタイルなどの建材を使って丁寧に1戸1戸建設したのは驚嘆に値する。

アート&クラフトの影響で、装飾にもさまざまな工夫

シカゴバンガローの特徴は、まずがっしりとした全体の構えであろう。1871年の大火でシカゴ市中の家々が焼き尽くされた後、市の耐火対策により住宅の建材は木造から煉瓦へと劇的な変化があった。煉瓦構造は耐火ばかりか耐寒にも万全である。 さて、シカゴバンガローにはさまざまなバリエーションが見られるが、玄関が通りに面した1階建てが基本スタイル。しかし大半のバンガロー様式は屋根裏が突き出ているため、「平屋」というよりは「中2階建て」と言った方が適切かもしれない。窓が多く当時のアート&クラフト運動を反映してか、外回りや内部装飾には工芸家によるステンドグラスや精巧な石細工、手焼きのタイルなどが施され、それらオリジナルの工芸が現存する建物も少なくない。 リビングルーム、食堂、キッチン、トイレ&洗面所、2BR(寝室)、屋根裏と地下室、というのが典型的な間取り。豊富に木材が使用されているためか、内部は暖かく居心地が良い雰囲気を醸し出している。

外観そのままのリフォーム“ガット・ハリブ”で、住戸内は現代風

家は90年も経つと当然傷むし、第一、暮らし方が変化する。例をあげると、90年前には電気の使用量は今よりは遥かに少なかったが、現在の需要に合わせると電気の容量もコンセントも増やさなければならない。昔は客間が広く取られたが、現在では客間よりもむしろ家族が寛ぐスペースを多く取る間取りが望まれている。 一番の変化は台所。大きな冷蔵庫、冷凍庫、皿洗い機、ブレンダー、コーヒーメーカー、オーブンやら電子レンジがどっと増え、当時の小さな台所スペースでは収納は不可能。2倍以上大きいスペースが必要となる。さらにここ数年、「アイランド」といって調理台を台所の真ん中に持ってくるデザインが主流で、流しやオーブンをもうひとつ余計につけたアイランドも少なくない。そうなると台所スペースだけでは収まらず、隣の部屋(多くはフォーマルな食堂だが)をつぶして広い台所にするケースが多い。従って90年間に何度も改築、改装を重ねることとあいなる。外観をそのままにし中味をすっかり新しく暮らし易く変えてしまう改造法がとられ、それを“ガット・リハブ”と呼ぶが、ガットとは内蔵、はらわたのことで、中味をごっそり取り去りリハブ(rehabilitation)するという意味である。 大多数のバンガロー様式の家は“ガット・リハブ”が取られているから、それだけ大幅に改造を重ねてはいても、通りから眺めると内部の変化がうかがえない。

インド・ベンガル地方の一戸建てが「バンガロー」の語源

バンガローとは元来インドからきた言葉でベンガル地方の小さな一戸建ての住居をさし、バンガロー様式の住居はイギリスを経てアメリカにもたらされた(en.wikipedia.org/wiki/Bungalow#Chicago_Bungalow)。 “バンガロー様式”は西海岸から東部に渡って全米各地に見られるが、シカゴにはいまだに特徴あるスタイルが集中的に残っている。当時市が一斉に区画を定めたので、住居面積はその区画に収まるべく小さく、111~140平方メートルで(Chicago Tribune newspaper 5/24/09)、現在の標準から考えると小さい。しかし、横に広げるには敷地に限界があるので、2階建てに増築するか、あるいは隣を買い取って倍に広げるか。シカゴ市の建築基準に沿って改築するには、その構造的な狭さがバンガロー様式の弱点とも言える。

バンガロー保存・修復には、市から補助金が

シカゴ市では古くなったバンガローを取り壊し、更地にして新しく建て直すよりは、現存するバンガローを保存することを奨励している。そのために市民に改造、修復する際の補助金を出しており、その修復内容により金額はまちまちだが、友人は屋根全体を持ち上げて2階を作り、20万円もらったという。ペンキ代をカバーする程度かもしれないが…。 また、非営利団体のシカゴバンガロー歴史保存協会では、セミナーを催し、金銭補助や建築基準、法律的な問題に関するアドバイスを行なっている。歴史的な住居をそのまま保存するのではなく、中味は現代の暮し方に合わせて改造し、外見はできる限り残していこう、という景観にかかわる努力が伺われる。 風土にあった建物で暮し方の変化に対応できる構造、100年近い風雪に耐えてきたシカゴバンガローの質実剛健な住居は未だに約8万戸が現存して、それはシカゴ市一戸建ての約3分の1を占め(www.chicagobungalow.org)、シカゴの町全体の印象をしっとりと落ち着いた町並みにまとめあげている。

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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