記者の目 / 仲介・管理

2014/10/10

「団地再生」が各地で加速

URと民・学連携のリノベーションプロジェクトが続々

 全国の(独)都市再生機構(UR都市機構)の団地(UR賃貸住宅)では、リノベーションによる団地再生への取り組みが活発化している。さまざまな民間企業等のアイディアを取り入れ、従来の団地のイメージを払拭するリノベーション住戸を提案することで、若者を呼び込み、団地活性化につなげていきたい考えだ。  今回は京都と北九州の最新プロジェクトについて紹介しよう。

「洛西境谷東」団地外観
「洛西境谷東」団地外観
南北の部屋にあった押し入れをなくし、通路でつなげた「アトリエ de 境谷東」
南北の部屋にあった押し入れをなくし、通路でつなげた「アトリエ de 境谷東」
壁一面にはたくさんの収納を造り付け。その一部をデスク化した
壁一面にはたくさんの収納を造り付け。その一部をデスク化した
部屋の真ん中にあるキッチンが特徴的な「無限のハコ」
部屋の真ん中にあるキッチンが特徴的な「無限のハコ」
壁には棚を設けて間接照明を設置。棚はさまざまな用途に対応できるつくりにしている
壁には棚を設けて間接照明を設置。棚はさまざまな用途に対応できるつくりにしている
「洛西竹の里」団地の外観
「洛西竹の里」団地の外観
リビングダイニングに腰壁を設けた「視える、魅せる、見つける」。腰壁向こうはプレイルームとして位置付けている
リビングダイニングに腰壁を設けた「視える、魅せる、見つける」。腰壁向こうはプレイルームとして位置付けている
一段高くすることでより“とっておきの空間”を演出した
一段高くすることでより“とっておきの空間”を演出した
「城野団地」のリノベーション実施棟。アースカラーに大きなナンバリングがスタイリッシュな雰囲気を生む(写真提供:(独)都市再生機構九州支社)
「城野団地」のリノベーション実施棟。アースカラーに大きなナンバリングがスタイリッシュな雰囲気を生む(写真提供:(独)都市再生機構九州支社)
間取りは大きく変えず、設備の刷新、表面材の切り替えなどで変化を出している(写真提供:(独)都市再生機構九州支社)
間取りは大きく変えず、設備の刷新、表面材の切り替えなどで変化を出している(写真提供:(独)都市再生機構九州支社)
元押し入れだった部分を活用したロフトスペースはさまざまな用途で使える(写真提供:(独)都市再生機構九州支社)
元押し入れだった部分を活用したロフトスペースはさまざまな用途で使える(写真提供:(独)都市再生機構九州支社)
毎回大盛況となる「リノベーションスクール」。その一環として内覧会を開催した(写真は「第6回リノベーションスクール」の様子)
毎回大盛況となる「リノベーションスクール」。その一環として内覧会を開催した(写真は「第6回リノベーションスクール」の様子)
モビール作家・よしい いくえ氏がPR大使に就任。同氏が団地に暮らしながらその日常風景をブログで発信している
モビール作家・よしい いくえ氏がPR大使に就任。同氏が団地に暮らしながらその日常風景をブログで発信している

◆大学生の柔軟なアイディアを量産化

 洛西ニュータウン(京都市西京区)にある「洛西境谷東」(総戸数616戸、管理開始1979~80年)、「洛西竹の里」(総戸数570戸、同1983~84年)の2団地では、昨年より京都女子大学(京都市東山区)とコラボレーションし、リノベーション住戸を計画してきた。
 阪急京都線「桂」駅からバス便という立地もあり、高齢化が進んでいる団地で、エレベーターなしの棟では上階に空きが出ている状況だ。

 こういった問題を背景に2012年、同大学家政学部生活造形学科准教授の井上 えり子氏に学生による住戸リノベーションの協力を依頼。13年には(1)水回りの位置は固定、(2)コンクリート部分は施工不可、(3)リノベーション部分の予算は80万円といった条件で設計アイディアを募集した。コンペ後、そのアイディアを生かしたリノベーション住戸を8戸竣工。そのうち7戸について入居者を募集したところ、30~40歳代を中心に、平均倍率3.4倍、最高倍率8倍と、これまでにない高反響を得て、若い世代の流入につながった。そこから派生して通常の住戸にも申し込みが入るなど良い効果が生まれたという。

 今年は、昨年好評だったプランのうち「アトリエ de 境谷東」「無限のハコ」など、6プランを量産化していくと決定。各団地に3プランずつ採用した。8月にはまず全11戸を改修している。
 量産化に際しては、まずキッチンパネルを採用(1モデルを除く)。洗面所まわりの鏡・洗面器・タオル掛けの仕様の統一化、壁材や床材のメーカー標準品化などを行なっている。

◆少しの手入れで印象ガラリ。DIYの参考にも

 ここでは6プランのうち3プランを紹介したい。

 「洛西境谷東」では、3DK(61~64平方メートル)の間取りが改修の対象住戸となった。
 昨年一番人気を集めた「アトリエ de 境谷東」プランでは、押し入れを一部撤去することで南北の通路を創設、南側に残した和室以外は回遊できるようなつくりに。壁一面には造り付けの棚を設け、収納力を高めたほか、北側部屋の収納の一部はデスクを組み込むことで“アトリエ空間”のように使ってほしいという設計者の思いがある。

 また、「無限のハコ」プランは、南側3部屋をすべてつなげて1LDKにした。中心部分にあるキッチンスペースを上手に活用しながら、LDKをライフスタイルの変化によって使い分けていくことを提案している。
 壁には造り付けの棚を設置し、間接照明を仕込んだ。今回の量産化に当たり、キッチンはほぼキッチンパネルを採用しているが、同住戸に関しては部屋の顔となるため、タイル貼りにこだわっている。

 一方、「洛西竹の里」では、3LDK(81平方メートル)の住戸を改修。こちらも南側の居間と和室を一続きにして洋室化する手法を採っているが、プラン「視える、魅せる、見つける」では、あえてその境目に腰壁を創設。ゆるやかにつながりながらも一定のプライバシーは確保する提案だ。腰壁の内側の床を一段高くしており、より特別な空間を演出している。押し入れだった部分も取り払い居室と一続きにすることで、広がりを出した。
 壁紙も大胆に柄・色物を採用しており、遊び心のある空間に仕上がっている。

 家賃は6万6,900~8万5,800円で従前より多少高めの設定としている。
 9月6日より一般向けに公開。内覧会には約100組が集まり、同月29日には8割入居者が決定している。

◆九州初の民間との団地リノベ実施

 九州初となる民間企業との連携リノベーションプロジェクトも発表された。団地リノベーションの先駆けとなった「観月橋団地」(京都市伏見区)をはじめ、団地再生を数多く手掛ける(株)OpenA、メルカート三番街など小倉魚町商店街の再生に関わる(株)らいおん建築事務所、そして「リノベーションスクール」の企画運営を行なっている(株)北九州家守舎が参画するプロジェクトだ。

 JR「城野」駅徒歩約11分に立地する築50年超の「城野団地」(北九州市小倉北区、総戸数268戸、1959年竣工)が舞台。同エリアは北九州市より「城野ゼロカーボン先進街区」に指定されるなど、新たなスマートシティとして注目の集まるエリアだ。

 同団地は、庭付きのテラスハウスや階段室型住棟など、昔ながらの住環境が今も残っていることから、あえて既存の間取りを最大限に活かし、ルームシェアや土間、広々ワンルームなど全7プランを用意した。空間デザインを工夫することで、合理的な居住スペースの使い方や、現代の生活スタイルにあった暮らし方を提案していく。
 木製サッシをアルミサッシ(ペアガラス)に換え、開口部の断熱性を向上。また、同時に屋根面の断熱性を向上させる工事も行ない、快適性を高めた。

 外壁も全面塗り替え。団地の植栽、足立山などの自然が生える色彩にこだわった配色を採用した。

 間取りは1DK~3DK、専有面積は26.02~48.88平方メートル。9月15日には4戸(26.02~42.71平方メートル)の先行募集を開始し、すでに受け付けを終了している。賃料は3万8,000~4万6,500円。10月18日より入居開始予定だ。

◆北九州の大人気リノベイベントに紐付け

 同プロジェクトのユニークさは北九州の人気イベント「リノベーションスクール」内に内覧会を組み込んだこと。同イベントは北九州市小倉北区魚町エリアを拠点に、全国より受講者を集め、リノベーションの専門家等のサポートのもと、遊休不動産の再生方法を検討し、提案するというもので、これまでに7回開催し、毎回数多くの人が集まっている。ここ数回は講習だけでなく、「リノベ祭り」と銘打ち、リノベーションに関するさまざまな企画を同時開催することで、周辺住民なども巻き込む、一大イベントに醸成している。
 その中で先行内覧会を2日かけて開催。人気イベントの一環ということもあり多くの人が集まったようだ。

 また「団地R不動産」の取材記事や北九州を拠点に活動するモビール作家・よしい いくえ氏によるブログなどを通じて、プロモーションを図っている点にも注目だ。特によしい氏のブログは実際にリノベーション団地で暮らしながら気付いたことなどが等身大で描かれており、団地暮らしの良さや楽しみ方などがユーザー目線で伝わってくる取り組みだ。

◆高齢者への取り組みも注目

 UR賃貸住宅では、今後も民間企業等と連携しながらの団地再生プロジェクトが続々と登場する予定。首都圏・関西圏で活発だった同取り組みは地方へと波及しつつあるようだ。

 また、団地再生では、若年世代を呼び込む一方、従来からの高齢居住者へのサポートも重要となる。URでは築年数が経過した団地を中心に地域福祉医療拠点づくりを進めているが、大規模な改修に至らずとも多世代が豊かな暮らしを実現できる施策も求められている。

 民間との連携では歴史の古い「無印良品」((株)MUJI HOUSE)との団地再生プロジェクトの中では、昨年、多世代で楽しめるコミュニティカフェのオープンに至っており、住民主導の活性化策が続々生まれている。そのほか、最近では松竹芸能(株)との健康増進プログラムの実証実験や、武庫川女子大学(兵庫県西宮市)との空き店舗を活用したコミュニティ活性化策など、新たな取り組みも始まった。

 若者を呼び込むだけでなく、いかに世代間交流を図って、真に豊かな住宅地として活発化していくか。今後もURの団地再生プロジェクトに注目だ。(umi)

***
【関連ニュース】
京都女子大学との団地再生。学生提案のリノベ住戸を量産化へ/UR都市機構(2014/08/12)
九州初、民間企業との団地リノベプロジェクトが本格始動/UR都市機構(2014/08/11)

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