記者の目

2015/7/3

“分譲”団地を蘇らせる!!(1)

若年層流入で活性化を

 全国にある多くの団地が老朽化や高齢化、空室化など多くの課題を抱えている。また、ストック活用の流れを受け、近年、全国各地で産官学民連携の団地再生の取り組みが加速しており、当コーナーでも過去に複数回紹介してきた(過去記事12)。しかし、その対象の多くは「賃貸」。そんな中で「分譲」団地再生の必要性を感じ、いち早く着手した事業体がある。建築家やデザイナーが中心となって発足した「団地再生事業協同組合」(東京都港区、理事長:金丸典弘氏)だ。  そこで、同組合の取り組みを2回にわたって紹介。1回目では、同組合の発足の経緯、分譲団地再生の課題などについて紹介する。

豊かな環境や贅沢な住棟配置など、団地の良さを生かし、再生を図ることで若者を呼び込む(写真はイメージ、写真提供:団地再生事業協同組合)
豊かな環境や贅沢な住棟配置など、団地の良さを生かし、再生を図ることで若者を呼び込む(写真はイメージ、写真提供:団地再生事業協同組合)

◆「団地の良さ」に着目

 同組合が発足した経緯には、金丸氏((株)アーキモール代表取締役)がある顧客から団地の売却の相談を受けたことにあった。早期に現金化したいという要望に沿い、同社で買い取り、リノベーションを行なって、内覧会を行なったところ、多くの反響があり、2日間で購入希望者が3~4人現れたという。「リノベーションを実施している分、団地の相場価格よりもかなり高い値付けでしたが、反響の高さに驚きました」(金丸氏)。また金丸氏自身が幼少期に団地暮らしで育ったこと、現在も両親が団地住まいであることなどもあって、団地の良さを改めて考え直したという。「団地は一般的なマンションにはなかなかない優れた住環境やコミュニティが長い年月をかけて形成されている。また建物自体も壁構造が多く耐震性にも優れている。そういった既存の良さを生かし、新たなアイディアを導入することで、若い人を団地に呼び込み、団地活性化や不動産流通促進といったことにつなげていけるのではないかと考えました」(同氏)。

 2013年1月、本格的に団地再生事業に着手するため、団地に縁のある建築家やデザイナーらと共に組織を立ち上げた。
 現在は、団地再生のプランニングから、建物検査、設計、施工、プロモーションなど多岐にわたって活動している。

◆「合意形成」が最も重要

 さまざまな建物が共存する団地の中で、同組合は分譲タイプの共同住宅の再生にこだわっている。中でも空室が顕著な、築年数が経過し、エレベーターのない共同住宅の「上階」に注目している。金丸氏は「立ち上げ当時、すでに各地で団地再生の動きは始まっていましたが、いずれも賃貸ばかり。分譲はほぼ手付かずの状態だった」と話す。

 分譲団地の再生が進まない最たる理由は「入居者の合意形成が難しい」こと。「賃貸の場合、オーナーの判断でさまざまな取り組みができますが、分譲は居住者の合意形成がないと進めることができないことから、 これまで着手する事業者がいなかったのだと思います」(同組合理事・須貝重義氏((株)シグアーキデザイン代表取締役))。さらに、エレベーターなしの築古団地の上階となると、リノベーションするにしても金融機関からの融資が厳しい点もネックとなっている。

 しかし、だからといって放置しておけば、従来のままではゴーストタウン化も免れられない。分譲団地の将来の明暗を分けるのは入居者にそうした危機感や再生への参加意識を持ってもらえるかどうかにかかっている。「われわれの役割は、長期間見据えた活動プランの提示など、さまざまなアイディアや企画を提案しながら、管理組合に納得してもらい、合意形成が円滑に進むようにすることです」(金丸氏)。分譲団地再生は団地入居者のキーパーソンと手を携えながら、じっくり進めていくことが基本となる。
 空き団地を変化させていくことで、上階に住む高齢の入居者の売却や住み替えを促進し、そこにまた若年層を取り込むという循環を生む。そうして、世代構成バランスを整えていくことを目指している。

 このような思いで現在3団地で実際にプロジェクトを進めている同組合。次回では同組合がこれまでに手掛けてきたプロジェクト内容や今後の展望などについて紹介する。(umi)

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