記者の目 / その他

2017/11/28

相続物件を浜松初のシェアMに

賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part.17

 必ずしも好立地ではない賃貸物件を相続したら…。売却、建て替え、用途変更による有効活用などいくつかの道が考えられるが、今回、取り上げる「365BASE」(浜松市中区)は、浜松市で企業の社員寮として建築された物件を相続で取得したオーナーが、周辺ではまだ珍しいシェアマンションをベースとした複合施設に再生した事例。20歳~30歳代をターゲットにアウトドアライフの提案を打ち出し、満室に近い稼働率をキープしている。

◆商品開発の経験から“競争相手のいない”物件に

 「365BASE」は、“アウトドア好きの秘密基地!”がコンセプトのシェアマンション。「365BASE」(50戸)と「365BASE Annex」(22戸)の2棟で構成する物件で、遠州鉄道「助信」駅徒歩4分に立地している。
 「365BASE」は鉄筋コンクリート造3階建て。専有部は間取り1Rが中心だが、“西海岸アウトドアスタイル”をテーマに、共用施設を充実させているのが大きな特長。ボルタリングスペース、音楽スタジオ、イベントなどに利用できる共用リビングほか、キッチンスペース、ジェットバスなどを設置している。
 「365BASE Annex」は鉄骨造3階建て、専有部間取りは1R。女性をターゲットに“地中海ボタニカルアウトドア”スタイルでリゾート感を演出させた共用リビングなどを設けている。

「365BASE」エントランス外観
浜松をイメージした地図を壁面いっぱに描いたエントランス
ボルダリングスペース(1階)

 オーナーの古橋氏は、以前関東で大手衣料品会社に勤務していた頃、独立を志し、実家の不動産業を継ぐことを決意した。浜松市内に戻り、大手不動産会社で修行を開始。半年ほど経った2012年10月に、祖母が所有していた、賃貸物件を相続で引き継いだ。

 同物件は、ある企業専用の社員寮として1994年に建築したもので、1Rが中心の50戸と24戸の2棟。うち1棟(24戸)は同氏が相続した時点で残り数ヵ月で契約終了を予告されていた状況だった。同氏は、同物件の専有部(1R、3点ユニットバス)の条件では多くの入居者を獲得することは難しいと考え、大手衣料品会社で商品開発に携わっていた経験を生かし、まずは浜松で競争相手がいないターゲットと商品ポジションを狙おうと、綿密に分析したという。
 「限られた資金でいかに勝てる物件をつくるか。半年ほどじっくり思案しました」(同氏)。
 結果、導き出した答えが、ターゲット年齢層20~30歳代、実家暮らしをしている女性を惹きつけ“一人暮らしも楽しそう”と思わせるような物件だった。

 当時、物件をシェアする男女の共同生活のドキュメンタリー番組がはやり、シェアハウスの認知度が広がりつつあったこともあり、考えた末に若い女性同士のコミュニティがつくれるような共用設備を設けたシェアマンションに再生することにした。
 前職の会社での賃貸管理業務で、ユーザーから受けるクレームの6~7割が「隣がうるさいから注意して欲しい」という内容だったことも影響していたという。「“うるさい”というクレームが出ないような、入居者間の壁を取っ払った賃貸物件をつくりたかったのです。正直、本当にうまくいくのか不安な面もありましたが、“勇気をもって浜松初のシェアハウスをつくろう”、その思いで突き進みました」(同氏)。

「365BASE」共用リビング(1階)
アウトドア用品のレンタルも可能

◆解約を機に2棟を一体化。アウトドアをテーマに

 24戸中2戸を共用リビングに転用し、約300万円かけてリノベーション。住戸を減らして共用部に付加価値を持たせた分、賃料は相場より5,000円程度高めに設定。13年1月よりシェアマンション「CHERRY COURT」として募集を開始した。

 ところが、入居者募集開始当初は2戸しか埋まらず、しかも2人とも想定と違う“男性”。以後4ヵ月、何の反響もない状況が続いたという。
 「浜松ではまだ早かったか…」、そう思い始めた矢先に、転機が訪れた。4ヵ月後に初めての女性が入居し、それを機に入居者の友人たちを招いてイベントを開催したところ、来てくれた人々が口をそろえて「こんなところあったんだ。住みたい!」と好反響。
 それに勇気を得て、翌月、同様に友人たちを招き約60名が参加する流しそうめんイベントを開催した。その後は定期的に自然発生的にイベントが開催されるようになり、その様子をSNSで発信。入居希望者は徐々に増加していき、最初のイベントから約半年で満室になった。「実際にここを見て感じてもらった人の伝える力の強さを実感しました」(同氏)。

 ところが、ようやく軌道に乗ったかに見えた2015年に、もう1棟の社宅で契約解除の予告が届いてしまった。しかし前例から“SNS世代をターゲットに、面白い物件をつくれば情報は自然に拡散する”と考えた同氏は、逆境を好機と捉え、アウトドアをテーマにしたシェアマンション「365BASE」に再生することを決意。「浜松といえば、まず“音楽”や“バイク”が浮かぶのですが、戸数が多いのであまりニッチ過ぎると失敗する。アウトドアであれば、登山やサーフィンから、BBQなど、裾野が広く、幅広い年齢層も取り込めるのではないかと」(同氏)。

 また、50戸を全部賃貸で埋めるのは難しいと考え、事業用区画も用意し、募集をスタートした。当初の反響はいまひとつで、竣工後の入居率は50%程度だったが、FBやインスタグラムで積極的に物件情報を発信。マスコミに取り上げられたことなどもあり、次第に浜松での知名度が上がり9ヵ月後に満室となった。以後も好調だったため、16年10月には「CHERRY COURT」と併せて2棟で「365BASE」とすることに。「CHERRY COURT」の共用リビングを“地中海アウトドアスタイル”をコンセプトにノベーションし、「365BASE Annex」としてスタートさせた。

「365BASE Annex」共用リビング(1階)

◆住む人、働く人、泊まる人、さまざまな人が集う“村”に

 現在、2棟の年間稼働率93~95%前後と高稼働を維持している「365BASE」だが、同氏はこれに飽き足らず2017年8月より、うち3戸を簡易宿泊所「アウトドアホステル」(ドミトリー含め定員合計14名)として、ゲストハウス運営にも乗り出した。スタート当初より稼働率6割をキープしており、需要の高さを見込んで近々拡張する計画だという。
 「住む人、働く人、泊まる人、さまざまな人が集う“村”にしようと考えたのです」(同氏)。
 今後は、入居する事業者をつないで何か新しいことを始めるなど、さまざまな人が集うことによる新たな付加価値が産み出せないか検討していく。同時に、9月からは入居者がイベントやキャンプの際に利用できるレンタカーサービスなどもスタート。より入居者サービスを充実させていく予定だ。

昼間はオフィス利用者が仕事の打ち合わせに、夜は賃貸入居者のくつろぎ
の場にと、さまざまな人が集うことで共用スペースの利用の幅も広がっている

◆◆◆

 取材に訪れた際、浜松の市街地から数駅離れた静かな住宅地ということもあり、確かにユーザーからすればこの意外性は“誰かに伝えたくなる”だろうと感じた。今後、ゲストハウス運営を拡大することで、さらに多くの人々の目に触れ、情報が拡散すれば、また違う展開の可能性が見えてくるのかもしれない。その段階で、次はどんな物件に進化していくのか、今後に期待したい。(meo)

【シリーズ記事】
賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part.16 魅力ある“共用部”で単身入居者の心をつかめ(2015/12/4)
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賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part.13 エコを本気で考えた!(2014/11/14)
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賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part.10 築約40年木造物件、満室運営実現への努力(2012/2/28)

この記事の用語

シェアハウス

複数の居住者・家族が一定の生活空間を共用する住宅をいう。一般に、台所、浴室、居間などを共用し、居住者同士のコミュニケーションが生まれることとなる。賃貸住宅として供給されているが、居住スタイルの選択肢の拡大に応える住宅形態のひとつである。

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2024/3/7

「海外トピックス」を更新しました。

飲食店の食べ残しがSC内の工場で肥料に!【マレーシア】」配信しました。

マレーシアの、持続可能な未来に向けた取り組みを紹介。同国では、新しくビルを建設したり、土地開発をする際には環境に配慮した建築計画が求められます。一方で、既存のショッピングセンターの中でも、太陽光発電やリサイクルセンターを設置し食品ロスの削減や肥料の再生などに注力する取り組みが見られます。今回は、「ワンウタマショッピングセンター」の例を見ていきましょう。