記者の目 / 開発・分譲

2018/4/10

目指すは“公園”のようなオフィス

“コミュニケーション”の活発化で企業体力を上げる

 丸の内、大手町といった都心部に多数のビルを運営する三菱地所(株)が、新しいオフィススペースを創出し、本社を移転した。同社の30歳代、20歳代の“次代”を担う社員が中心メンバーとなりプランを立案、実現させたオフィス。それは、コミュニケーションを活性化させ、生産性の向上を図る場所であり、思わず会社に行きたくなるような魅力的な場所でもある。

◆部署の“壁”をなくす

 移転先は、昨年竣工した、地上29階地下5階建ての「大手町パークビルディング」(東京都千代田区)の3~6階。新オフィス創出にあたって「Borderless!×Socializing! from MEC PARK」をコンセプトに決定。自然に人が集い、つながり、そして役職や性別などにとらわれずに意見交換ができる、そして健康的に過ごせる“公園”のようなオフィスを実現させようということで、このコンセプトが誕生したという。

 足を踏み入れて最初に感じたのは、その開放感だ。通常、オフィスは部署ごとに部屋が設けられているが、そもそも空間を仕切る壁がない。

執務スペースの一部。部署を仕切る壁がない

 「以前は本社機能がビル内の複数階に散らばるように配置されていましたた。そのため、他の部署に気軽に顔を出せる環境ではなく、他の部署の事業に個人的にアイディアを出す、そこのメンバーと意見交換をするということが非常にしづらかった。そうしたさまざまな“ボーダー”をなくすにあたり、部署を仕切る壁は不要であると考えたのです」と語るのは、新オフィス開発を手掛けたグループのリーダーである、同社総務部ユニットリーダー兼ファシリティマネジメント室長の竹本 晋氏。

 そして、一般的な企業で採用されている個人デスク制を撤廃、グループアドレス(エリアを決めてデスクを共用する方法)制とした。「今回の新オフィスを検討するにあたり、全社員を対象に行動調査を実施したところ、自席での作業は生産性が低いと考えている社員が非常に多いということが判明したのです」(同氏)。確かに、集中したいときに雑務の要望が来て集中できない、よいアイディアを生み出したくてもなかなか浮かんで来ない、メンバーと会話してコミュニケーションをとりたくても、遠慮してできない…など、どの行動を取りたくても、その行為にそぐわないのが個人デスクであるかもしれない。 

 共用のデスクは、大テーブルのようなものから、ファミリーレストランにある4~6人が向き合えるタイプ、立って執務できるハイチェアタイプ、集中作業に適したものなどまで、さまざまなデザイン、機能性のものが用意されている。そして、それらを非整形に配置することで、随所で人の出会いを創出、コミュニケーションの形成をサポートしている。

デザインや形がさまざまなデスクが配置されている
ファミレスタイプの席(左)や個人で使用できるブースタイプなど、仕事の内容や気分などによって自由に使用できる

 さらに各フロアには、「PERCH(パーチ・止まり木の意)」というスペースも用意。

各フロアに設けられている「PERCH」

 共用する文房具や回覧する雑誌などを配置しているほか、スナックや飲み物なども販売している。ここもコミュニケーションの活性化を期待し、設けられた。文具を取りに行きがてら、顔を合わせた人と会話をすることで、リフレッシュとコミュニケーションの活性化を両立する場となっている。

共用の文房具などを配置すると共に、菓子や飲料の購入もできる

 会議や打ち合わせスペースも変化。秘密保持の必要のある会議に使用できるような個室タイプももちろん用意されているが、会議や打ち合わせに参加するメンバー以外の人が意見しやすい、オープンな打ち合わせスペースを各所に設けた。さまざまな意見を集めた方が、さらによい提案や成果につながる。それを支援するのがこの打ち合わせスペースなのである。

執務スペースの間に、さまざまな打ち合わせ・会議スペースを用意
会議スペースにはモニタを用意。スペースの周りにはメンバー以外が着座できるようなスペースも設けている

◆よい仕事をするためには、よいリラクゼーションが必須

 「24時間戦えますか」のコピーが流行したかつての時代とは変わり、今はよき成果を出すためには、よき休養、よきリラクゼーションが欠かせないとの意識が浸透してきている。6階には、「コンセントレーション&リラクゼーション」をテーマにした「GLAMPLE」と名付けたスペースが用意された。

 靴を脱いでくつろげる小上がりや仮眠室、カーテンで仕切られたスペースなどを用意。休憩、食事など、多用途に使用できるほか、くつろいで気分転換を図ることで、仕事の効率が上げられるようにとの期待が込められた場所だ。なお、電話や声かけなどにわずらわされない集中ブースも、このフロアに設けられた。

仮眠ブース(左)や、靴を脱いでくつろげる小上がり(右)も用意

 さらに画期的な取り組みが、カフェテリア「SPARKLE」だ。社員向けに食事を提供するスペースだが、昼食の提供を主目的とする“社員食堂”ではない。「人が気軽に集まり、美味しくて健康的な食事をしながら英気を養い、語り合うことでさまざまなアイディアにつながる場所として設けました」(同氏)。

 その効果が促進されるよう、朝は7時半から8時まで無料で朝食を提供。早朝出勤する社員をサポートするほか、日中は執務スペースや打ち合わせスペース、語らいのスペースとして利用できる。さらに17時からは、アルコールも提供し、良好なコミュニケーション形成に役立てる。「社員が同伴すれば、社外の人の利用も可能です。社内・社外含めて、この場に多くの人が集い、出会うことで、イノベーションが発生することを期待しています」(同氏)。

◆新オフィスでのトライアルをまちづくりに生かす

 新オフィスは、さまざまな先進的な技術の実証実験の舞台としても活用していく考えで、取引先企業の先端技術や新サービスを積極的に導入し、効果を確認していく計画だ。

 エントランスには、(株)日立製作所が開発したサービスロボット「EMIEW3」が配置され、来客への挨拶、指定の会議室案内を担当。オフィス空間におけるロボット活用の可能性を検証している。

サービスロボット「EMIEW3」。挨拶を交わしたり、会議室を案内したりする

 また(株)Liquedが開発した指紋決済サービスを導入し、社員の入退出管理や食堂等での決済に活用している。「ICカードなどの携行の必要がなく、しかも銀行口座からの直接引き落としが可能なシステムなので、手数料もかからない。社員からは非常に好評です」(同氏)。

食堂やパーチでの支払いは指紋でOK

 その他、社員の位置や食堂・オープンスペースの混雑状況をスマートフォンで確認できるシステムなども導入、業務効率向上につなげている。これらの成果を確認した上で、テナント企業などに導入を提案していく計画だ。

 そしてこうした先進技術導入を生かしながら、新オフィスでさまざまな“実証実験”を重ね、その知見を同社のビル賃貸事業、まちづくり事業に生かしていく考えだという。

◆◆◆

 企業にとってのオフィスは、人という重要な経営資源を採用するためにも、そしてそうして採用した人材に能力を発揮してもらうためにも、非常に重要な場であり、その認識は着実に広まっている。
 今回紹介した同社の新本社は、それをまさしく体現した場であり、同社における働き方を大きく変える礎となることだろう。
 このようなオフィスで働ける同社社員の方を、非常にうらやましく思うとともに、このようなオフィスが日本社会でもっと増えていけば、日本企業の競争力を増すことにもつながるのではないか、と強く思った。(NO) 

【関連ニュース】
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三菱地所が本社を移転(2017/12/7)
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