記者の目 / 開発・分譲

2018/5/18

ミクストユースのまちづくり

「東京ミッドタウン」最新版、「日比谷」に見る進化

 本サイトや「月刊不動産流通」で既報の通り、三井不動産(株)が手掛ける複合再開発「東京ミッドタウン日比谷」(東京都千代田区、以下「日比谷」)が、3月29日華々しく開業した。六本木の「東京ミッドタウン」(東京都港区、以下「六本木」)以来、10年ぶりの「東京ミッドタウン」は、同社が標ぼうする「ミクストユースのまちづくり」の最新版。それは、同社の各事業部門の最新ノウハウがすべて注ぎ込まれた「ショーケース」でもあり、来街者が楽しめるのはもちろん、同業者も注目の施設だ。

「東京ミッドタウン日比谷」全景

◆自社事業の最新ショーケース

 「日比谷」は、敷地面積約1ha、三井グループ保有の「日比谷三井ビルディング」「三信ビルディング」跡地の再開発。地下鉄「日比谷」駅に直結。建物は、地上35階地下4階建て、延床面積約18万9,000平方メートル。地下1階~地上7階が商業施設(延床面積1万8,000平方メートル)。11~34階がオフィスとなる。

 同社の「東京ミッドタウン」はどのようなものなのか?。そのカギとなるのが、同社が「ミクストユース」と呼ぶまちづくりの手法だ。単純に訳せば「複合用途」だが、土地や建物を「オフィス」「住宅」「商業施設」「ホテル」などの単一用途として開発するのではなく、複数の異なる用途を持たせることを指す。異なる用途の施設ができることで、施設そのものが「まち」として機能し、さまざまな人々が利用することで、まちに新陳代謝が起きる。
 「六本木は7haもの広さがあり、ひとつの街が作れると考えた。そこで、当社の各事業部署の総力を注ぎ込み、ミスクトユースの街づくりを目指した、いわば当社事業のショーケースでもあった」(同社日比谷街づくり推進部長、山下和則氏)

六本木の東京ミッドタウンのような面的広がりはないが、建物内の至る所にオープンスペースや緑化が施され開放感がある。こうしたスペースは、自由なワークスペースとしても位置付けられる

 「日比谷」は六本木ほどの開発規模はなく、オフィスビルに建て替えるだけでも済んだはずだ。だが、「日比谷公園や皇居の豊かな緑があり、大手町や東京、銀座に近接するなどポテンシャルが高く、この開発を起点に、エリア全体の価値を高めていけると考えた。その手法は、東京ミッドタウンと同じ」(同氏)ということから、その名を掲げることになったという。
 では、10年分の「進化」はどこにあるのか?

◆エンターティメントの街の復権

 「東京ミッドタウンは、一つとして同じまちづくりはない。日比谷は第二弾でもなければ、六本木の続編でもない」(同氏)というように、六本木にはない、日比谷ならではのテーマが「エリアの潜在力を生かした新たな価値創造」だ。
 日比谷の「潜在力」とは、すなわち「歴史」。中でも、東宝が本拠を置き、宝塚の東京の拠点もあるなど、エンターティメントのまちとしての歴史に、同社は注目した。「再開発にあたり、地元企業や町会と話し合う中で、日本有数のエンターティメントの聖地を再生したいという想いに触れ、当社とエリアの価値向上というゴールが共有できると考えた」(同氏)

東宝の「日比谷シャンテ」との間を、区道付け替えによる広場としており、ここで周辺企業とも連携しながらさまざまなイベントを展開する

 地元の関係者とともに、地元の歴史を掘り起こしてまちを再生するという手法は、同社が日本橋の再開発で大々的に取り組んできたものであり、日比谷でもそのノウハウが発揮される。施設内には、シネマコンプレックスが入居。区道を付け替えて作り出した広場では、常時イベントが催される。こうしたイベントは、同社や周辺企業や町会で結成したTMO(エリアマネジメント組織)を通じ、街全体へと広げていく。東宝も、隣接する商業ビル「日比谷シャンテ」をミッドタウン開業に合わせリニューアルするなど、企業の垣根を超えて日比谷を盛り上げようと意気込んでいる。

◆ビジネス連携で大企業を活性化する

 一方、各事業の「ショーケース」としての見どころは、建物6階、9階、11~34階を占めるオフィス。右を向いても左を見ても「働き方改革」の時代、10年前ならともかく、いまやただ広くて利便性が高いだけのハイスペックオフィスは求められていない。「これからのオフィスのあり方については、タスクフォースを作って数年来検討を重ねてきた」(同氏)。

ワーカーが自由に利用できるジムスペース
スカイラウンジとスカイガーデンは、ワーカーのためのサードプレイス
ビジネス連携拠点「BASE Q」は、大企業とベンチャーを結び付け、イノベーションを促す交流施設

 日比谷には、オフィスのデスクを離れた自由な働き方を支援するため、ワーカーが自由に使える空中庭園「スカイガーデン」やカフェとコンビニを併設した「スカイラウンジ」を「サードプレイス」として設けている。フィットネスルーム、仮眠室、女性用パウダールームなどのリフレッシュ施設も完備し、「今後もアップデートを続けていく」(同氏)

 6階に設けたビジネス連携拠点「BASE Q」は、他所にはない取り組み。将来の有望なビルテナントの育成としてベンチャーやスタートアップを支援する取り組みは、同社始め同業他社でも手掛けているが、「BASE Q」は、ベンチャービジネスの活性化ではなく、重厚長大で進化の止まった大手企業の新規事業担当者とベンチャー企業やNPOを結びつけ、新たな価値創造や社会課題の解決を図るという点で独創的だ。「産業構造が大きく変化する中で、こうした取り組みが日本社会と経済のためには必要だと考えている」(同氏)

◆「コト消費」に応える商業施設

 最後に、誰もが興味津々であろう商業施設部分を「ユーザー目線」で紹介したい。

 商業施設は地下1階~地上7階、延床面積は約1万8,000平方メートル。全60店舗という構成。日本初出店が6店舗、商業施設初出店が15店舗、新業態が22店舗というように、今流行りの「コト消費」志向に合わせ、話題づくりに事欠かないセレクトだ。

日比谷テラスと名付けられた商業ゾーンのエントランスは、3層吹き抜けの大空間
ブランドショップの買い回りというより、新業態店舗を多数そろえ、ユーザーの「コト消費」意欲を満たす

 アパレル、雑貨、インテリアなどのショップはもちろん楽しめるが、店舗の半数以上が飲食系という、エリア随一の「グルメビル」として楽しむのが一番だ。隣接する銀座エリアのように仰ぎ見るような高級店が並んでいる、というわけではなく、夜でも1人3,000~4,000円前後で楽しめるようなカジュアルな店も多い。

 筆者のオススメは、地下1階エリア。地下鉄からのアプローチと併行するように設けられた「HIBIYA FOOD HALL」には、オイスターバーやBBQレストランなどさまざまなジャンルの呑み喰い処が並んでおり、“終電”ギリギリまで楽しめそうだ。ショップでは、1階の「LEXUS MEETS」がいい。トヨタのプレミアムカーブランド「LEXUS」のアンテナショップで、超高級車のLEXUS全車種に無料で試乗できる。1,000万円超のプライスタグが付くLEXUS車を眺めながら珈琲等が味わえるカフェやグッズショップも併設されている。

駅直結の「HIBIYA FOOD MALL」
カジュアルな飲食店が並び、気軽に楽しめる

◆◆◆

 東京ではいま、熾烈な都市間競争が繰り広げられている。日比谷の周りも強敵揃いだ。通りを隔てた北側は三菱地所の城下町「丸の内」、「八重洲」はJRグループ等が再開発を進め(同社も参戦する)、「日本橋」では同門対決。西側には森ビルのお膝元「虎の門」があり、リニア開業を睨んだ「品川」の再開発も脅威だ。最大のライバルは、日比谷に隣接する日本最大の繁華街「銀座」だ。これらの競合に伍して日比谷がどう成長していくか?開業1ヵ月待たずして来場者200万人を突破したという同所の今後が楽しみだ。

開業初日は、入場を待つ人々でごった返した

 最後に。関係者によると、すでに次なる「東京ミッドタウン」も検討されているという。そのまちがいかなるものになるのか?六本木・日比谷とはまた違ったまちづくりをみせてくれるのであれば、ビルやマンションだけでなく、グローバルな「シティセールス」も夢ではないだろう(J)

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