記者の目 / その他

2018/9/18

不動産オーナーの「嫁」「婿」探し

 2000年代から拡大の一途をたどっている「婚活ビジネス」市場。リクルート ブライダル総研の調査によると、17年の婚姻者のうち、婚活サービス(結婚相談所、婚活サイト・アプリ、恋活サイト・アプリ、婚活パーティ・イベントの4サービス)を通じて結婚した人は10.4%。独身者の婚活サービス利用経験率は過去3年で最も高く、18.1%に上ったという。不動産業界でも、婚活支援の動きがみられる。不動産オーナーの息子・娘のパートナー探しをサポートしている「H&H Connections」(東京都渋谷区、代表取締役:松村幸子氏)がその一例だ。同結婚相談所を立ち上げた代表の松村氏に、不動産業界の婚活事情について聞いてみた。

◆不動産オーナーからの相談が増え…

 松村氏は21歳で結婚、3人の子宝に恵まれた。子育てが一段落した頃から、タウン誌の編集等に従事するも、05年に縁あって、地元の不動産会社・三光ソフラン(株)に入社することとなった。その会社では、不動産オーナーへのサービス提供部門を10年にわたり担当。ここでの経験が、結婚相談所の立ち上げに大きく関わってくる。
 その後、母親の介護のため会社を退社、母親を看取り、15年にマリッジカウンセラーの資格を取得した同氏。知人の個人結婚相談所や大手結婚相談所で経験を積み、17年10月「H&H Connections」を設立した。

 「実は、不動産会社で勤務していた頃、オーナーからよく『息子に嫁がいない』『いい人はいないかね』といった相談を受けていたんです。子育てが落ち着いたら、自分で何かをやりたいと思っていたこともあり、お世話になった方たちに恩返しができればと起業しました」(同氏)。

◆会員はわが子のようなもの、全力で結婚を後押し

 成婚までは、無料カウンセリング→入会→相手探し→交際→成婚といった流れになる。
 結婚相談所がインターネットの婚活サイトなどと圧倒的に違う点は、さまざまな本人確認の書類提出が必要なことだ。「独身証明書」「収入の証明書」「学歴の証明書」「住民票」「資格証明書」「写真」の提出により、身元がしっかりしていることを確認できる。

 肝となるのは、相手探しとマッチングだが、同社の会員はまだ14人。その数ではパートナーの選択肢がだいぶ狭まってしまう。そこで、なるべく多くの人と出会う機会を増やすため、個人で経営する結婚相談所の場合は大抵、連盟組織に加盟する。同社は、全国800の結婚相談所と連携し、会員数約3万8,000人を抱える「良縁ネット」に加盟している。

良縁ネット会員用の画面。気になる人を登録したり、プロフィールのメッセージを編集できる

 オンラインの会員向けシステムから好みの相手を探し、交際へとつなげていくという仕組み。ときには、交際の機会をなかなかつくれない会員のため、相談所の担当者がプロフィールを持ち寄り、うまくいきそうな相手を選び合うこともあるそうだ。そのほか、婚活パーティやイベントなどに参加して、相性のいいパートナーを見つけていく。

 「恋愛ができる人は、ビビッと『この人だ!』と直感で分かるものですが、相談所にいらっしゃる方はそれがなかなかピンときません。中には、交際経験のまったくない方もいらっしゃるので、わが子のように『何とかしてあげたい!』と、全力でその方に合うお相手を探してしまいます」と同氏。
 「パートナー選びは、常に相手の気持ちを推し量って行動することが大切。これは、不動産会社でオーナー対応をしていたときに身に付けたことですが、現在の仕事にも大きく活かされています。100%信用で成り立っているというのも似ていますね」(同氏)。

◆男女で異なる「相手に求めるもの」

 同社の会員は、親会社(三光ソフランホールディングス)からの紹介がほとんど。年齢層は30~50歳代が中心だという。
 父親がオーナーで、息子はサラリーマン。息子は仕事に忙しく、気付けば40歳半ばを過ぎて独身、さらに相続問題などが発生すると、親は俄然焦ってくる。「息子に早く嫁を!」と、本人より親のほうが真剣で、親同士が子供抜きで見合いをすることもあるそうだ。

 ここで、結婚相手に求めることについて聞いてみた。

 40歳前後の女性は、自分で稼げて収入もそこそこあるため、年下あるいは同年代の男性を選ぶそう。「相手に資産がなくても、私が稼ぐから大丈夫」らしい。
 また、最近入会したという50歳代の女性は「将来は甥っ子、姪っ子に面倒を見てもらえばいい」と、婚活をする気はまったくなかったという。それが、知人に進められて参加した婚活パーティで同年代の女性と情報交換をしていく中で、「家族を持つ甥っ子や姪っ子が面倒をみてくれるわけがない」「将来的に1人でいるよりも2人のほうがいい」ことに気付き、今は積極的にパートナー探しを行なっているのだとか。

 一方、50~60歳代の男性は「子供を持ちたい」と婚活を始める人が少なくないらしい。「まずは素敵なパートナーを見つけるのが先決。子供がほしいからという理由が先行してしまうと、マッチングは難しいですね」と松村氏。
 不動産オーナーは資産家が多いため、「奥さんになった人に贅沢をさせてあげられる」ことをアピールする人も。しかし、「今の女性は『お金があるから幸せ』と思わない人もわりと多いんです。感情面での幸せを重視したほうがうまくいきます」(同氏)。

 では、どういうタイプが成婚に至りやすいのか。
 それは、婚活サービスの利用頻度が高く、「真剣に」「積極的に」「目標を持って」婚活に臨んでいる人だという。婚活サービスに「ただ登録をして待つ」だけでは、成婚には近付けない。

 「良縁ネットで交際を申し込めるのは、1ヵ月最大で20人。すべて申し込んだとしても、交際が成立するのはせいぜい2~3人なんです。それでも挫けず前向きに取り組むことが、婚活成功のカギだと思います。たとえ交際に至らなくても、イベントなどでとにかく人と会うことを繰り返していれば、自分が変わるし、女性(男性)への理解も深まり、失敗も反省できます。何より、自分自身が婚活モードにならないと、人もいいご縁も寄ってきません」(同氏)。

◆◆◆

 今回の取材で、「息子が結婚しない」「いい相手が見つからない」「娘は結婚に興味がない」といった悩みを抱える不動産オーナーが多いことに驚いた。

 少し前まで、「結婚できない人が利用する」「結局はお見合い」「変わった人しか登録していないのでは…」というのが、結婚相談所に対するイメージだったのではないだろうか。「結婚相談所を利用する」=「恥ずかしい」ことだったのかもしれない。
 しかし、結婚相談所に登録している人は「真剣に結婚がしたい」人なので、街コンや相席居酒屋に来るようなひやかし客はいない。また、身元がしっかりしているという点で「結婚に向いている」人が多くいるということだ。

 同相談所のサポートにより、これまで交際経験のなかった男女が真剣交際を始めているそう。また、某不動産会社社長は再々婚の壁を乗り越え、6歳下の初婚の女性と成婚に至ったということで、両家・両親へのご挨拶、顔合わせ、お式のサポートなどで大忙しとのことだ。オーナーの心配の種もなくなり、賃貸経営も安定することだろう。
 悩める不動産オーナーのさらなる救世主となれるのか、同社の今後の動向に注目したい。(I)

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