ニッセイ基礎研究所金融研究部門不動産研究部長・松村 徹氏は26日、不動産投資レポート「東日本大震災の不動産市場への影響」を公表した。独自に実施したアンケート結果も踏まえ、現時点での不動産市場見通しを整理したもの。
今回の震災が地震と津波被害の大きさ・悲惨さに加え、福島原発事故による放射能汚染と事故処理の長期化、首都圏の電力供給問題が、回復基調に戻りつつあった日本経済を下押しする大きな圧力となっていると指摘。日本経済への影響は、局地的な被害に止まった阪神・淡路大震災とは比較にならないほど大きいと考えられることから、同社では2011年度の実質GDP成長率を前回の1.7%から0.1%へ、大幅な下方修正を実施。
11年後半以降は生産活動の回復や復興需要による下支えで景気の持ち直しが期待されるものの、不安定な政治状況の下、原発事故処理と電力供給問題の長期化が必至なだけに、本格的な景気回復への道のりは遠いと指摘した。
不動産のセクター別動向については、オフィスでは制震構造や免震構造、非常用発電システム地盤の強固さなどへの注目度が高まり、今回の震災を教訓にオフィスビルの選別がさらに進む可能性を指摘。防災性能の高いビルと耐震性能の低いビルとで、市場の二極化が加速すると予想している。
賃貸マンションについては仙台市内で賃貸住宅の需給が逼迫していることや被災企業の西日本への人員シフトに伴う短期契約入居希望者が急増したこと、JREITや大型私募ファンドが保有する賃貸マンションでは大きな被害もなく高い稼働率維持できていることから、震災の影響はもっとも小さいと分析した。
物流施設については、東北地方や東京湾岸部などの被災施設から緊急避難的な代替需要の発生により東京圏での空室率が大幅に低下したこと、物流機能所有と経営の分離という市場トレンドに変化はないことから、特に大型物流施設においては、景気が持ち直しさえすれば、早い市況改善が期待できるとしている。
不動産投資市場・JREIT市場は、西日本への工場分散・住民移動が続くことにより、東日本の地価下落が相対的に大きくなる可能性を指摘。今回は震災リスクの小さい物件への投資や地方分散効果による収益安定性というJREITの特性が評価されたが、今後は 過度の東京集中を見直す動きが出てくる可能性を示唆した。
最後にこの未曾有の危機はマイナス面だけではなく、急速な高齢化で社会保障や財政面などに制度疲労を起こしている古い日本をリセット、次世代に引き継ぐべき新しい日本に再生するまたとない機会を与えられたと前向きに考え、大胆な日本再生プロジェクトの始動を期待する、とまとめている。