記者の目

2024/4/3

不動産エージェント向け講習をのぞいてみた!

不動産業界で、会社員としてではなく、成果報酬(個人事業主として)で働く、「不動産エージェント」(詳しくは、月刊不動産流通2021年10月『特集:不動産営業の「エージェント制」』参照)。エージェント本人の魅力・力量を武器にビジネスを展開することとなるため、顧客を獲得するためには高い営業力・提案能力が求められる。エージェントファームではそうしたエージェントを育成しているのか? (株)TERASSに聞いた。

◆より高度なサービス提供につながるプログラムを提供

 2019年に設立された不動産エージェントファームであるTERASSには、現在約550名の不動産エージェントが在籍している。同社では売買仲介実務を3年以上経験していることを要件にエージェントを募集しているが、契約(業務委託契約)に至るのは、応募人数に対して約5%。相当な狭き門のようだ。
 厳しい選抜を突破した実務経験者であれば、実務は問題なくできるだろうから、特段の教育は不要な気もする。その点について聞いたところ、「初心者向けの実務教育のようなものは用意していませんが、さらにスキルを磨いてもらうための実践的な2種類のプログラムを提供しています」(広報担当・長尾隆之氏)とのこと。

 同社がエージェント向けに実施している教育プログラムには、「Top Agent Academy」と、「Wealth Management Academy」の2種類がある。

 「Top Agent Academy」は、主に実需物件の購入・売却の仲介のスキルアップにつなげるために用意しているもので、お客様の話の傾聴、課題の洞察・発見、解決策の提案に向けスキルアップできる内容だという。

 「十分なスキルを身に着けているエージェントは多いのですが、『前の会社のやり方を何となくやっている』という人や、『前の会社のやり方しかしらない』という人も多い。理論に基づき体系的に学んでいただくことで、どのようなお客さまに対してでも、どのような状況でも、成約率を高めると共に、課題解決につながる提案、お客様の満足度がより高まる提案ができるようにする。そのためのスキルを身につけてもらえる内容としています」(同氏)。

体系的に学ぶことで、契約率アップ、顧客の満足度がより高い契約実現につなげる(写真はイメージ)

 「Wealth Management Academy」は、投資用不動産の売買仲介を念頭に置いたスキルアップ講座。契約エージェントの中には、同社と契約するまで実需物件の仲介しか経験がない、という人もいる。そこで、収益不動産の売買を提案するためのスキルを身につけてもらうために開催している。「資産形成の観点から、不動産投資の相談もしたいというお客さまは多い。エージェントに相談して『住宅(自己居住用)しか取り扱ったことがない』というのでは、顧客を長きにわたりサポートしていくことは困難」(同氏)とのことから、そうした相談にも対応できるよう、知識・営業力を獲得できるような内容を用意している。1講座7日程度で設定され、エージェント同士のつながりをつくってもらうことも目的に、リアルでの開催にこだわっているという。

 いずれも有料で、エージェントは自身の営業能力向上のために“身銭”を切って参加している。

◆建築知識や会話術など幅広い内容のプログラム

 「Wealth Management Academy」のプログラムを見学させてもらった。今回は全7日・計21時間がワンセットの講習で、収益不動産の基礎から収益不動産融資、税務、提案など幅広い内容を網羅したものだという。記者は6日目の講座を見学した。

 当日の参加者は7名。「意外と少ないですね」との記者の問いかけに、長尾氏「一方的な聴講講義とならないよう、少人数制で実施することにこだわっている」とのこと。講師は、投資用物件の仲介を多数手掛けている田中 謙氏((合)田中不動産代表)が担当。

 この日は、建物の主な構造と耐用年数といった収益物件を取り扱う上では必須の知識等を振り返りつつ、顧客の収益不動産の提案につながるための傾聴や会話のノウハウなどを学ぶ内容で行なわれた。

 「通常の仲介は具体的な物件提案から入ることが多いが、投資物件では、収益不動産への興味獲得やクライアントグリップから入る必要がある」(田中氏)とのことで、経済動向、投資、金融情勢など、幅広い経済知識の必要性を訴えると共に、その知識に基づいた会話術なども伝授された。

経済の話題を取り上げながら、会話術を伝授

 相手をグリップするためのトークの工夫について、ロールプレイングも交えた実践的なトレーニングも行なわれた。

不動産投資への関心を高めるための会話術について参加者同士でロールプレイングも

 「例えば『どこどこの唐揚げ定食、今は1,500円だけど、前はもっと安かった。やっぱりインフレが進んでいるよね』といった具合に、話の入り口はたくさんある」

 「『現金1,000万円の価値は、10%インフレが進めば10%減る』といった分かりやすい話ができるかできないかでも、相手の見る目は変わる。経済の話ができるよう知識を得ておかないと、相手と話もできない」

 「富裕層の人ほど株式投資をしている。株式の話題で会話が成立するかどうかは、相手に選んでもらうためには重要。ミニ株でいいから自分で投資してみると、マーケットの味方が変わるし、話題がふくらむ」

 「投資に興味を持っていても、買い付けを入れることに抵抗を入れるお客さんもある。そこに営業をされたと感じさせるアプローチをすると、ますます逃げの方向に進んでしまう。そういう方には…」

 といった具合に、相手の信頼を獲得するためには知識を得ておく必要があること、相手の関心度合いを測る会話術、そうしたことを実践できるようにするために日ごろからどのようなことに気を付けておくべきか。雑談のタイミングも含めて不動産営業ではいかに幅広い知識が必要かということが伝えられていた。

 参加者はみな真剣な面持ちで、

 「収益物件の場合も基本的にローン特約は付した契約なのか?
 「収益の事前審査はあるのか? あるとしたらどのように進められるのか?」
 「投資物件の仲介での物件調査で見ておくべきポイントは?」

など、講師に次々にと質問を投げかけるシーンも見られた。また、ロールプレイングの後には、

 「〇×さんのこうした問いかけが参考になった」
 「相手を不快にしないこうした問いかけ方はぜひ取り入れてみたい」
など、すぐに実務に取り入れようとしている姿勢がうかがえるコメントが聞かれた。

実物件を使った提案の宿題も出されていた

 ◇ ◇ ◇

 高い報酬を得て華々しく活躍するエージェントの様子を見聞きし、羨望のまなざしで見ていたが、そうした人は忙しい時間の合間を縫って自己研鑽、知識習得に励んでいて、その成果としての営業成績なんだろう、と痛感した。
 アメリカでは、不動産仲介に従事する人への社会的信用度が高いと聞く。質の高い不動産仲介サービスを提供する人が増えていくことで、日本でも不動産仲介業に対するイメージ・意識が向上していくはず。そのように感じた。(NO)

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