海外トピックス

2010/4/20

vol.153 風力発電は全米のエネルギーの20%をまかなうか?

牛や馬がのんびりと草をはみ、大豆畑などが広がる農村地帯が変貌しつつある(イリノイ州中央部、以下同)
牛や馬がのんびりと草をはみ、大豆畑などが広がる農村地帯が変貌しつつある(イリノイ州中央部、以下同)
何百と風車が林立し、ドライブ中、行けども行けども風車が絶え間なく続く
何百と風車が林立し、ドライブ中、行けども行けども風車が絶え間なく続く
道路に沿っても風車が連なっている
道路に沿っても風車が連なっている
十字架をいただく教会の後ろに風車がまわり、妙なコントラストだ
十字架をいただく教会の後ろに風車がまわり、妙なコントラストだ
風車の大きさは右の人物でおわかりだろうか?
風車の大きさは右の人物でおわかりだろうか?

風力発電量世界1のアメリカ

昔、サンフランシスコ北方を旅した時、丘陵にたくさんの巨大な風車が建ち並んでいた、その非日常的なイメージが異様な記憶として強く残っている。従来の自然の風景から比べれば見慣れない景観だったのだろう。 20年後…、イリノイ州中央部の高速道路を先日ドライブし、何百もの風車が林立してすっかり変貌してしまった“田園風景”に改めて驚かされた。いまやカリフォルニア州、テキサス州に続き多くの州が風力発電に取り組んでいる。 アメリカは世界第1の風力発電出力量を持つのだそうで、特に合衆国エネルギー省が「2030年までに電力需要の20%に相当する290GW(ギガワット)を風力発電でまかなう!」という目標を2008年に発表して以来、風力発電建設が各州で増加、反対派賛成派による議論も盛んである(http://en.wikipedia.org/wiki/Wind_power)。

規制は緩いものの、課題もいろいろ…

風力発電とは、風を利用して電気を起こす仕組みで、変電蓄電し送電してエネルギーとして使われる。アメリカは平坦な土地が充分にあり、風も強過ぎず弱過ぎず吹くため、風力発電には向いているようだ。建設時に設置費用はかかるが、羽などの機器は20年から30年の寿命があり、メインテナンスも膨大な費用がかからないためか、広く導入されている。 羽が回る音がうるさくて病気を引き起こす、その土地の棲息達に影響がある、景観が損なわれる、鳥がぶつかる、風車が強風で倒れると危険、などが反対派の声。風力発電に関する法規は国、州、地方自治体などで充分制定されておらず、早急な対応と処置が望まれている。 それにしてもアメリカ人達は、そういった困難をものともせずに面白いアイディアを出し、それを実行してゆく粘り強さがあるようだ。

教育予算削減で、学校が風力発電に取組み

2009年、不況によりイリノイ州の教育予算が大幅にカットされ、何百人もの公立小学校、中学校、高校教師が解雇され教育現場は危機に陥った。打開策としてシカゴから西の3つの学校が協力し校庭に風車を設置。そこから収入を得る計画を立てた。風力発電で作られる電力を電力会社に供給し、その収入を学校の電力費用に当てようという大要。 しかし、風力を計測するタワーを建てる許可が出たという段階で州や郡など役所の規則が絡み合い足踏み状態。あきらめず3つの学校区が頭をひねった結果、必要額45億円の半分を昨年制定された景気刺激対策の一環としての国債“Build American Bonds"でまかなおうというアイディアを捻出。風力発電で起こした電力を企業や個人に30年間の国債として売ろうという計画である。あとの必要額の半分は個人の投資家を募る。 また、風力発電会社を招致すれば、年間90万円から130万円のプロパティタックス(固定資産税)が発電会社から州に支払われ、その税の60%から70%の金額が学校区に振り分けられることになるという。学校教師父兄にとって風力発電は朗報と言えよう(Chicago Tribune newspaper 4/03/2010)。

洋上風力発電が諸問題の打開策になるか

巨大な風車は他人事であった。ところが、わが家から10分足らずの隣町エバンストンで風車建設が予定されているというニュースが…! 混み合った都会のどこに風車が建つのだろうか? エバンストンは有名なノースウェスターン大学があるこじんまりした小さな町で、その大学キャンパスはミシガン湖岸に面し、ジョギングや散歩をする人々で賑わい、湖ではカヌーやヨットなどの練習が行なわれている。ニュースによれば、その湖岸10キロメートルから14キロメートル沖に風車を建てる案がエバンストン市に承認されたという(Fox Chicago News www.myfoxchicago.com) 。 反対派がよく主張する意見のひとつに、風車が建つと近隣が周波音で迷惑という公害論があるが、遥か洋上に建てれば問題はないだろう。巨大な風車が目障り、とも言われるが、かなたに林立するので圧倒される感じは消える。魚類に周波がどのような害を及ぼすかは不明だ。このような洋上風力発電の施工はアメリカでは初めてだが、各国ではすでに行なわれており、デンマーク、英国等欧州全域に多い。洋上風力発電は、土地が狭かったり混みあっている場所には確かに実際的な方法だ。

時代はクリーンエネルギーへ

一方、送電線設備の極端な不足は、将来風力発電が従来のエネルギーに取って代わるためには解決されねばならない問題である。多くの風力発電開発会社が現在架設されている送電線設備を使用するために順番待ちの長い列。回路をさらに増やしたり、パワーの増強なども必要だ。発電所側では2014年までまでには見通しがつくと言っているが(Chicago Tribune newspaper 3/28/2010)、誰がそれらの費用を払うかという段になるとあいまいになってくる。 イリノイ州中央部、風車が何百も林立する農村地帯で見かけたおじいさんや子供達にこの変化をどう思うか聞いてみた。「収入が入って助かる」「音はそれほどは気にならない」「目障りな感じがする」等。 風力発電そのものに対しての批判や意見は聞かれなかったが、畑を耕す労働をせずに収入を得られるのは老齢化してゆく農村の人々にとっては助かるのかもしれない。 何百となく建ち並ぶ風車の景観は、さまざまな問題が横たわるにせよ、クリーンエネルギーとして、供給が風力発電へと変換しつつある大きな流れを感じさせた。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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