海外トピックス

2010/5/7

vol.154 人生の変化に柔軟に対応できる2フラット住宅

マーカス・ドナー家の2フラット住宅。もうすぐ色とりどりの花々が前庭にもバルコニーにも咲き乱れ飾られる(イリノイ州シカゴ市 以下同じ)
マーカス・ドナー家の2フラット住宅。もうすぐ色とりどりの花々が前庭にもバルコニーにも咲き乱れ飾られる(イリノイ州シカゴ市 以下同じ)
ひとつの建物で入り口は共用だが、1階と2階は完全に分かれている2フラット住宅構造。カーペット、壁布、絵、カーテンなどすべてミシェールが選んだもの。古い建物に合わせクラシックで洗練された雰囲気を醸し出している
ひとつの建物で入り口は共用だが、1階と2階は完全に分かれている2フラット住宅構造。カーペット、壁布、絵、カーテンなどすべてミシェールが選んだもの。古い建物に合わせクラシックで洗練された雰囲気を醸し出している
中央は母屋から続いて増築したマーカスのスタジオ。庭には椅子やテーブルがセットされ(左端のガレージに隠れて見えないが)、夏は戸外でくつろいだり食事をする。ガレージの前は野菜畑
中央は母屋から続いて増築したマーカスのスタジオ。庭には椅子やテーブルがセットされ(左端のガレージに隠れて見えないが)、夏は戸外でくつろいだり食事をする。ガレージの前は野菜畑
マーカスのスタジオ。現在“マルチ” ルームで子供達の誕生日に友人達を何十人もよんだり、パーティなどにも使われている。隅にはマーカスのコンピューターが置かれ、仕事コーナーになっている。左側はバストイレの洗面所
マーカスのスタジオ。現在“マルチ” ルームで子供達の誕生日に友人達を何十人もよんだり、パーティなどにも使われている。隅にはマーカスのコンピューターが置かれ、仕事コーナーになっている。左側はバストイレの洗面所
ミシェールのスタジオ。以前は人に貸していた2階を改造し一部が彼女のスタジオとなった。本や教材、スケッチなどが所狭しと積まれている
ミシェールのスタジオ。以前は人に貸していた2階を改造し一部が彼女のスタジオとなった。本や教材、スケッチなどが所狭しと積まれている
(左から)ミシェール、娘のレイチェル、マーカス、息子のエリック。自転車に乗って家族でよくミシガン湖畔に行く
(左から)ミシェール、娘のレイチェル、マーカス、息子のエリック。自転車に乗って家族でよくミシガン湖畔に行く

購入直後は2階を貸してローン返済に

ミシェールとマーカス夫妻は20年来の親しい友人。2フラット住宅に長年住んでいるが、彼等は暮らしの変化につれて実にうまく2フラット住宅を住み分けている。 結婚して2年後に購入、2階を人に貸してその収入をローン返済の助けとした。やがて子供が誕生、裏庭にマーカスのスタジオを増築。2人目の子供が生まれた時には人に貸すのをやめて、2階部分を子供部屋、客用寝室、そして画家であるミシェールのスタジオにと、2フラット全体を改造。あと数年で子供達が巣立てばまた2階を人に貸すかもしれない。 シカゴ美術館勤務のマーカス、子育てに加え絵を教えているミシェール共々時間に追われる忙しい日々だが、この2フラットは暖かく居心地の良い、ゆったりとした雰囲気に満ちている。

住宅供給ラッシュ時には実用的な土地活用法

“フラット”とは、旧式な言葉で、アパートメントを指す。例えば10世帯のアパートメントを10フラットとよぶが、“2フラット” は最も一般的に見られる住宅だ。 1910年代から工業が盛んになったシカゴは、映画や小説でおなじみの華やかなローリングトウェンティーズに突入して、全米から人々が仕事を求めて市に流入し、彼等労働者達のために住宅がどっと建てられた。土地を活用するのに2フラットや4フラットは実用的な住宅様式だったのである。 ミシェールとマーカス夫妻の2フラット住宅も当時建てられたものだ。2世帯がひとつの建物に住むわけだから入り口のドアは共有するが、1階と2階とで同じような間取りでも別世帯である。築80年から100年の建物に共通する特徴は、住面積が大きく収納場所も広く多い。すべてがゆったりしていて上昇気流に乗った当時の社会の豊かさが感じられる。

古いが堅牢な造り。賃貸部分には税控除も

ミシェールとマーカスが結婚した当時、2人ともシカゴ市内で働いていたので、直通電車の駅から徒歩8分のこの2フラットは彼等の暮らしにぴったりだった。古い建物ではあったが、堅牢な造りで室内も庭も広く、収納場所もたくさんあったので購入を決意、930万円で購入したという。1階に住み、2階は人に貸してその家賃収入を住宅ローン返済に回した。人に貸していると、つまりコマーシャルプロパティだと冷暖房費などの光熱費、税金(固定資産税)、修理代など、貸している2階の部分は100%、共同の部分(玄関の電気など)は50%の税金控除があるのも合理的。 広い地下室を改造して大工仕事のスペースとスタジオに使っていたマーカスだが、長男エリックの誕生を機に裏庭に新たなスタジオを増築。土台建設以外のほとんどの造作を自分で仕上げてしまった。昼間はデザイナーとして目一杯働くが、彫刻家でもあるマーカスは、夜と週末、ここででゆったりと制作に励めるようになった。

子どもが2人になり、2階を大改造

やがて2人目のレイチェルが誕生。赤ちゃんの頃から自分の部屋に寝かせるので、もう一部屋必要となった。地下室と屋根裏を含めた3BRではあるが、4人家族になると窮屈。収入も安定してきたマーカスは人に貸していた2階を大改造する決心をしたのである。他の州から家族や友人達が泊まる機会も多く、ミシェールの両親が年をとってきた事情もあり、大きなサンルームに続く明るくゆったりした部屋をゆとりのスペースに。そして息子エリックの寝室と娘レイチェルの寝室、ミシェールは念願のスタジオを確保。子供達が次第に手がかからなくなり、画家であるミシェールは作品制作に費やす時間を作れるようになってきた。多額な改造費は銀行から融資を受けた。

家は生き物。住む人とともに時を刻む

2人とも家の手入れをよくし、常に住み易く改造しているのには感心するが、家の手入れが仕事に活き、仕事は家に反映しているようだ。 シカゴ美術館の展覧会はマーカスが多くデザインしているが、展覧会のイメージを具体化することが彼の仕事内容である。素材選び、イメージに合わせ全体の色彩を考え、構造を工夫、など、この2フラット住宅の長年にわたる改築改造を通して学んだのか、あるいはデザイナーとしての仕事が住宅改造に反映されているのか? ミシェールは色彩豊かな花々、人参や豆、バジル、レタスなど植えており、それらがミシェールの絵の題材にも見られる。 地下室には電気のこぎりやドリルなどたくさんの工具道具が揃っており、大工仕事もする。例えば部屋の一角に棚を吊って机を備えミシェールの仕事コーナーに改造。彼女はカーテンを縫いペンキも塗るが、どれも独特で印象的な色彩。洗面所のタイルも自分たちで張り替え、タオルや小物を配しお洒落な空間に生まれ変わった。 家も生き物で世話が必要。世話次第で家は命を永らえ、住む人と共に時を刻んでゆく。マーカス家族の例に見られるように、2フラット住宅は暮しの変化に対応できる合理的な住宅構造と言えるのではなかろうか。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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