アメリカの夏の風物詩
おいしそうな匂いが近所から漂ってくる。日本ならさしずめさんまを焼く匂いだろうが、アメリカでは断然バーベキューに違いない。どこの家庭でも家族や友人を招いてバーベキューパーティをするから、庭のテラスに備え付けられたバーベキューグリルは夏中大活躍。お父さんが主導権をにぎり指揮をとる。お母さんは冷えたビールや肉、野菜を台所から運ぶ。子供達はさっそく焼き上がったスペアリブやハンバーガーにかじりつき、お腹が一杯になると子供同士庭でゲームなど始める。大人はゆっくりとおしゃべりしながら蛍が飛び交う日暮れまで戸外で食事を楽しむ、というのが伝統的な夏の風物詩。カリブ海を経てアメリカ南部に定着
BBQ -barbeque- という言葉はどこから来たのだろうか？ フランス人達がカリブ海を訪問した時に豚の丸焼きを料理しているのを見て、"barbe ? queue" つまり、頭からつま先まで （from head to tail）とその料理法を描写。それがなまってバーベキューとなった説。また、アメリカ南部では酒場にビリヤード台がおいてある店が多く、道路脇の酒場の看板に "Bar, Beer, Cues" （キューはビリヤードのこと）と広告を出したのがバー、ビアー、キューからしだいにバーベキューとなった、という説。 信憑性はともかく、カリブ海を経てアメリカ南部に定着したのは確実である。当時ふんだんに生息していた野豚をとらえ、戸外で炭火や薪で長時間蒸し焼きにしたしごく素朴な料理法であった。その後150年間に、少しずつ変化。スパイスを肉にたっぷりとすり込んで下味をつけたり、ソースも様々に工夫されるようになる。BBQをめぐるイベントやコンテストが盛りだくさん
特にアメリカ南部ではバーベキューは単なる料理法にとどまらず、サブカルチャアと言ってよいほどで、”barbeque” という言葉が名詞、形容詞、動詞としてまで使われているし、バーベキューに関する催しは何百とある。 最も有名なのは毎年テネシー州で行われるバーベキュー世界選手権大会だろう。昨年度はバーベキュー料理の審査には750チームの申し込みがあり、1万人余の観衆で賑わったそうだ。 ミズーリ州カンサスシティ市で催されるバーベキューワールドシリーズも有名だ。正式にはアメリカンローヤルBBQコンテストというが、招待チームによる料理部門と一般チームによる料理部門とに分かれて4日間審査が行なわれ、それぞれのチャンピオンが選出される。料理器具から本屋、肉屋、レストラン、ソースなどの食材店など、バーベキューに関するあらゆる店が軒を連ね、最新の情報交換が行なわれる。味付けは千差万別、地方独特の伝統も
アメリカはどこへ行っても料理も味も画一的、という人もいるが、それは表面だけの観察に過ぎない。特にバーベキューはそれぞれ地方独特の味を伝統として保っている。スペアリブのバーベキューひとつとっても、ノースカロライナ州では酸味のきいたソースを使うし、アラバマ州ではトマト味の甘い味付け。ヴァージニア州は蓋をした火の上でとろけるほどまで蒸し焼きにする。ミズーリ州カンサスシティでは、トマトとモラセスを主にした甘くてとろっとしたソースが有名。 なお、バーベキューと一口に言っても、直火、間接焼きなどたくさんの方法があるが、火の上に鉄の格子をセットし、上に肉をのせて焼く方法が、分厚い牛肉に限らず、ハンバーガー、ホットドッグ、魚などに応用され一般的。チキンやスペアリブはグリルの上で強火で焼いたあと、蓋をして内部に回る熱でゆっくりと時々たれをつけながら気長に焼く。ヒッコリーなどの木片を加えて肉に香りをつけたりもする。独立記念日は、家族や友人とBBQ
時は移り変わっても、バーベキューはアメリカ人の家庭の味、ふるさとの味に違いない。家族そろって食卓を囲む時間が少なくなった現在、バーベキューは家族それぞれ役割を担って活躍し、父親から息子へ味付けの秘訣を伝授したり、一緒に楽しむ絶好の機会であろう。 ちょうど今、友人から７月４日の独立記念日に“オールアメリカンバーベキュー” と銘打ったパーティの誘いがあった。独立記念日は家族や友人同士集まってアメリカ誕生を盛大に祝う。一戸建ての家に住んでいなくても、バルコニーに小さなグリルを置いてそこでバーベキュー。家族で公園に行く手もある。たいていの公園はグリルがすでにしつらえてあるから、炭と食べ物、飲み物を車で運んでバーベキューパーティをする人々で賑わう。 ニューヨークの友人宅に滞在した時，「今夜はBBQパーティだ」と言われてびっくり。小さなアパートでバルコニーもないし、どこで？ さて、夜になると鉄梯子を登って屋根の上へ!!! 峡谷のような高層ビル群に囲まれた谷間ながらニューヨーク中のネオンが輝き、打ち上げ花火も眺められ、そこで携帯用のバーベキューグリルで肉を焼いて祝う素敵な独立記念日だった。
<参考資料＞
http://en.wikipedia.org/wiki/Barbecue
http://bbq.about.com/od/barbecuehelp/u/barbecue.htm
www.homebbq.com
www.kcbs.us
Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com
コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート（ミシガン州）にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。
