海外トピックス

2010/10/6

vol.164 賃貸マーケットに異変?

シカゴ市都心部一等地に建てられた新築アパート。もともとは分譲マンションだったが…(イリノイ州シカゴ市、以下同)
シカゴ市都心部一等地に建てられた新築アパート。もともとは分譲マンションだったが…(イリノイ州シカゴ市、以下同)
「賃貸用」と目を引くおおきな看板をとりつけた建物“アルタ Kーステーション”
「賃貸用」と目を引くおおきな看板をとりつけた建物“アルタ Kーステーション”
見晴らしは最高だ。ミシガン湖を東にみて、とりわけ市内の夜景は素晴らしいと聞く
見晴らしは最高だ。ミシガン湖を東にみて、とりわけ市内の夜景は素晴らしいと聞く
“アルタ Kーステーション”と名のついたアパート
“アルタ Kーステーション”と名のついたアパート
よだれのでるような一等地にある豪華賃貸アパート。最新の建材を使ったモダンな仕様
よだれのでるような一等地にある豪華賃貸アパート。最新の建材を使ったモダンな仕様
これも一等地にある“パーク ヒューロン”。ガラスとスティールが多用されている。電車の駅も近い
これも一等地にある“パーク ヒューロン”。ガラスとスティールが多用されている。電車の駅も近い

富裕な若者たちは、所有より高級賃貸を選択

「家は財産」という神話を信じない若いプロフェショナル層が賃貸マーケットの新しい波として登場。この “新しい波” は30歳代が中心で、専門職を持ち、家を買う充分な収入がありながら、賃貸アパートを選択した人々である。彼等は一戸建ての住宅や分譲住宅を購入した周囲の人々が、ここ数年価格の下落で家を売りたくても売れず、その場所に縛り付けられてどうにも動きがとれないのを見てきたのだろう。家にまつわるさまざまな出来事を観察して、家を所有する有利さよりもむしろ煩わしさを感じたのかもしれない。 この “新しい波” は、いまシカゴ市都心一等地にある高級アパートの素晴らしいアメニティ(付帯設備)をたっぷり謳歌しているのである。

売買は値下げして売れるのが現状。まだ健全とは…

数年来、不動産マーケットの落ち込みは激しく、フォアクロージャー(金融機関差し押さえ物件、抵当流れ処分物件)や、そこまでいかなくても月々の返済が厳しくなり、買った時より安い価格で泣く泣く家を手放す人々が未だに増加している。住宅の価格は安いので家を買う時期としては今が絶好、お買い得と言えようが、雇用状況はまだまだ不安定、実際思い切りがつかず住宅購入を手控える人が大半であろう。 従っていまだに不動産マーケットは回復していないと言わざるを得ない。すでに景気は底について浮上しつつある、という声も聞くが、売り上げの住宅戸数でみれば確かにそうかもしれない。しかし、価格を安く設定せねば売れない状況なので、決して健全な状態ではなく、まだまだ以前の力強さにはほど遠いようだ。家の売買を取り扱う不動産エージェントが賃貸マーケットに手を染め、そちらの方が連日忙しい、という声も聞く。

分譲から切り替えた高級賃貸物件には、豪華な設備がさまざま

シカゴ市の賃貸用住戸の空室率は6%前後で、数年前の9%に比べ良くなって来ているというデータがある(Chicago Tribune newspaper 08/15/10)が、特に都心で供給される物件の内容が大きく変化した。 多くの建物がシカゴ市中心部で開発され、新築高級分譲マンションとして華やかに売り出されたが、バブルが弾けて分譲マンションは供給過多となり、売りさばくために25%も値下げをする物件さえ出て来た。それでも売れ行きは振るわない・・・というわけで、先を読んで賃貸アパートに切り替えた業者が少なくないのである。 新築高級分譲マンションには豪華な設備がついているのが特徴で、ビリヤードやゲーム機、劇場のように座席を置き大型スクリーンTVを備えた娯楽室、パーティルーム、ビジネスセンター、フィットネス室、バスケットボールコート、スパ、プール、ドッグランまで盛り沢山。分譲から賃貸に変えた場合は、これらのスペースが活動的な若い顧客層にとって当然目玉商品となろう。

職住近接、暮らしの気軽さが、都心賃貸のメリット

借りる側として、都心のアパートに住むことで有利な点はいくつかあげられる。 まず職住近接。長い時間ドライブしたり渋滞に悩んだり、雪や凍った道の心配から解放される。さらに通勤時間が短縮されるので、豊富なアメニティを利用してリラックスする時間も増える。家で寛ぐ時間はたっぷりある。月々のガソリン代や車の維持費が浮く分を都心の洒落たレストランやブティック、美術館や演奏会の費用などにまわせる。職場のみの狭い交際範囲からここでは新しい友人関係やネットワークが広がる機会も多い。 アパート暮らしはシンプルで、家賃を払いさえすれば、故障などは管理人に苦情を申し出れば解決するし、引っ越しも簡単。新しく移る場所の選択肢も多く、何よりも柔軟性がある暮し方と言えよう。

“新しい波”の囲い込みに不動産業者もあの手この手

これまでは当初フリーレントなどのおまけをつけなければ入居者がみつからなかった都心の賃貸業者であるが、現在のふつふつとたぎるような状況にホクホク顔。今年は3%~4%の家賃の値上げ、来年は5%の値上げを見込んでいる、という予測がある(Chicago Tribune newspaper 06/13/10)。 業者はアメニティを「売り」として、アパートに住む人々に映画上映の夕べ、ワイン味見の集いなどのイベントを設けて借り手を惹き付ける努力を惜しまない。これらの建物の外観はどれも個性に富み、味わいがあって借り手の高級志向を満足させる。それだけに家賃は50万円をトップに、2BR20万円、スタジオ用15万円が相場で(Chicago Tribune newspaper 06/13/10)、通常の家賃相場より倍以上高い感じがする。 業者は当然ながら長く住んでくれる借り手を望むが、分譲マンション購入者と比べると賃貸入居者は1年か1年半毎の契約更新が多いためか、あるいは“一時的な住まい” という感覚からか、一ヵ所に長い期間腰を落ち着ける傾向が少ない。 それにしても高品質を望んで入居しているこれらの借り手達の懐は、時期がくれば住まいを購入出来る余地があるから、業者も彼等 “新しい波” を引き止めるのに油断はならない。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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