海外トピックス

2010/12/6

vol.168 香り付けはセールスに効果的?

現在売り出し中の家は“オープンハウス”として一般公開される場合が多い(イリノイ州シカゴ市、以下同)
現在売り出し中の家は“オープンハウス”として一般公開される場合が多い(イリノイ州シカゴ市、以下同)
オープンハウスの際にがらんとしすぎるのもよくないが、物が多すぎるのも逆効果。この程度のセッティングが適当だろう
オープンハウスの際にがらんとしすぎるのもよくないが、物が多すぎるのも逆効果。この程度のセッティングが適当だろう
かすかなシナモンの香りなどは白い壁の堅いイメージを和らげる
かすかなシナモンの香りなどは白い壁の堅いイメージを和らげる
パンやケーキが焼き上がる匂いは楽しく懐かしい思い出を呼び起こすに違いない。オープンハウスには効果的な香り付けだ
パンやケーキが焼き上がる匂いは楽しく懐かしい思い出を呼び起こすに違いない。オープンハウスには効果的な香り付けだ
洗面所によい香りのする石けんやキャンドルなどをさりげなく置く(イリノイ州サンシティ住宅展示場)
洗面所によい香りのする石けんやキャンドルなどをさりげなく置く(イリノイ州サンシティ住宅展示場)

意外に気になる「家の匂い」

オープンハウスでは、客がドアを開けてまず一歩足を踏み入れた瞬間が勝負だ。特に「匂い」の印象…。家全体に漂う匂いには、その家に住む者は慣れてしまって案外気がつかない。しかしオープンハウスにやってきた客は敏感だ。入った途端、ほんの微かでもカビ臭かったら客はすぐにきびすを返すだろう。 湿っぽい匂いや煙草臭いのは禁物。さわやかな香りをまいておくとか、クッキーを焼いて客があらわれる直前にオーブンから出す、などはオープンハウスの際にしばしば使われる販売促進の手だ。パンが焼き上がる匂いやクッキーのおいしそうな香りは、無意識のうちに「家庭」から「家」を想起させ、セールスに結びつくと考えられる。 香りの工夫は不動産エージェントがさまざまに演出するが、最近ではプロによる “匂い” のカウンセリングが話題を呼んでいる。

「香り」で無意識のうちに客の心理を刺激

ロスアンジェルス市のAromaSys Co.(アロマシス社)は “環境的な香り付け”をビジネスとし、香りを販売促進や会社のイメージ作りに結びつけている(www.aromasys.com)。カリフォルニア州の大きなホテルやカジノが顧客で、排気口からパイプを通す大掛かりな工事により香りを発散させるが、的を絞り込んだ香りは狙い通りの効果が充分あがっているそうである。 住宅のセールスにしても同様で、適切な香りは目には見えないけれど、無意識のうちに心理面を刺激して購買を促す要素となる。アロマシス社社長のオーウェン氏は 「どんな香りでもよいというわけでなく、ターゲットに合わせた香りを演出するのが重要なポイント」とアドバイスする。「柑橘類の香りは若者の多い家族には使うべきでない。」と氏は述べるが(Chicago Tribune newspaper 10/10/2010)、柑橘類の匂いは掃除用洗剤を若者に連想させるためなのかもしれない。

場所や種類など、匂いを効果的に使い客を惹きつける

匂いの記憶は一瞬のうちにその家と人とを強烈な力で結びつける。だからそのためには香りが確実にその家に適合しているかどうかの判断が必要。「深みのある色調の建材、例えばローズウッドやチェリー材が多く使われている家にはムスクが合うし、現代風の家にはホワイト・ティ・ジンジャーの香りが調和する」と前述のオーウェン氏。そして、香りは強すぎず、いつのまにか意識下に作用する程度にさりげなく使う。しかしハートをくすぐるだけでなく、財布にも刺激を与えるような程よい強さ、というさじ加減は難しいだろう。 装置は、ダクトを使った高価な工事をしなくても、電熱で香りを醸し出す器具やボックスなどが出回っているし、設置場所も効果のある場所をいろいろと試して工夫したい。

アメリカでは一般的な「オープンハウス」

ところで、オープンハウスとは、家のセールスをさらに促進する方法で、セール中の家を週末になどに一般公開するもの。業者による新築住宅ならモデルハウス公開としていつでも見学できるが、アメリカでは圧倒的に中古住宅の売買が多く、人がまだ住んでいる住宅もあるから、家の中をいつでも見ることは難しい。オープンハウスが催されるその日、興味のある人はセールスを受け持っている不動産エージェントに内部を案内してもらい、詳しい説明を聞くことができる。 オープンハウスの日取りや場所は、新聞やインターネット、ちらしなどで広告を出す。通りがかりの車からも目を引くように、その物件の近所に立看板を立てる。これらはすべてこの物件を扱う不動産エージェントの仕事だ。セラー(家の持ち主)はその日は在宅せず、興味を持った人とか買いたい人があらわれた場合は不動産エージェントがセラーに話し、エージェントを通して内容を煮つめてゆく。

客は、ネットで物件を絞り込んでオープンハウスへ

住宅購入に興味のある人々の77%は、インターネットでさまざまな物件を検索して下調べをするといわれる(www.openhouse.com)。 これは以前にくらべると大きな変化であるが、物件はいまや“ヴァーチュアル・ツアー” (ショートビデオ)で近隣の様子から外観、内装、細部まで画像で見られるようになった。だからあちこち出歩いていくつもの物件を見て回る手間と時間が節約された。 それにしても「家」は高価な買い物。ネットだけで購入を即決断する人は多くはなかろう。ネットで興味のある物件を絞り込み、何軒か目当てのオープンハウスを見学した後決める場合が多いのは自然の成り行き。だからオープンハウスは購入の最終的な決め手になると言ってもよく、効果的な方法はセールスの鍵となろう。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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