海外トピックス

2011/1/20

vol.171 アリゾナ銃撃事件と不動産エージェント

家からすぐ近くの銃を売っている店。警官が立ち寄ることも多いと聞く(イリノイ州シカゴ市 以下同)
家からすぐ近くの銃を売っている店。警官が立ち寄ることも多いと聞く(イリノイ州シカゴ市 以下同)
危険の多い地区にも高級な分譲住宅が建つ。不動産エージェントは出かけていって顧客を案内しなければならない
危険の多い地区にも高級な分譲住宅が建つ。不動産エージェントは出かけていって顧客を案内しなければならない
とりわけ誰も住んでいない建物は襲われた時に助けを呼べないので、顧客に見せる場合、要注意である
とりわけ誰も住んでいない建物は襲われた時に助けを呼べないので、顧客に見せる場合、要注意である
市内の空手教室。入会者には女性も多い
市内の空手教室。入会者には女性も多い
マーシャルアーツの教室。健康にも安全対策としてもよいので人気がある
マーシャルアーツの教室。健康にも安全対策としてもよいので人気がある
暴漢撃退にはペッパースプレーがよく使われる
暴漢撃退にはペッパースプレーがよく使われる

危険が多いアメリカの不動産営業現場

不動産エージェントはアメリカでは結構危険が多い職業と考えられている。というのは、初対面の人を目的の物件に案内し、室内に2人だけになるからだ。オープンハウスを開催するとなると、見も知らぬ人を公開中の住宅あるいはマンションの個室で迎えることになる。また、物騒かもしれない初めての地域に出向くこともある。 ちなみに、アメリカの不動産エージェントはそれぞれが会社には属すが、個人で独立してコミッション制で働くシステム。一人で行動も判断もするし、一人で顧客を取り扱う。だから危険な状況に陥った場合をあれこれと想定し自衛策を立てる必要があるのであろう。NAR (National Association of Realtors)では、会員である不動産エージェント達のために、テキスト、ビデオ、カードなどの教材を用意して、きめ細かい安全対策を紹介している。

オープンハウスでの心構えを細かくアドバイス

オープンハウスは最も危険率が高い。新聞やウェブサイトを通じて情報が一般に公開されるから、オープンハウス開催日にはどんな人がやってくるかわからない。それ程人を疑うのはどうか、と思われるかもしれないが、アメリカ社会はいつ何どき何が起きるかわからないのだ。だから携帯電話は必須で、何かあったら即つながるようにスピードダイヤルをあらかじめ用意しておく。 NARのテキストから抜粋してみよう。 “もしも地下室を案内している時に「手を挙げろ」と拳銃をつきつけられたらどうするか?抵抗せず、あなたのビジネスはあきらめて大事な命をとるように。賊の言うことに素直に従い、すきをみて逃げる。逃げるとなったら振り返らずにひたすら走る”など具体的である。 アメリカでは不動産取引の場合、エージェントはめざす物件の前か室内で直接顧客と会う場合が多いが、NARのテキストでは “新しい顧客の場合は、最初からその物件では会わずに、まずあなたの所属するオフィスにきてもらうこと。そうすれば、オフィス内の多くの人達に顔をさらすことになる。また、顧客の車のナンバーもひかえるように”とアドバイスしている。(www.realtor.org/about_nar/safety/safety_strategy

防御法や護身ツールもさまざまあるが…

「マーシャルアート」という、合気道とか空手のような防御法を習う人も多い。また、手軽なペッパースプレーを持ち歩くのも良い方法だ。これは唐辛子を粉末にした“目つぶし”で、懐中電灯のような外見。すぐ出せるようにバッグやポケットに入れておく。万が一、襲われそうになったらスプレーを噴射し、相手がひるんだすきに逃げ出す。拳銃はシカゴ市の場合は普段家の外には持ち歩けないし、第一取り扱いに慣れていないとかえって危険である。ある調査によると、ナイフやハサミをポケットにしのばせてオープンハウスにのぞむ不動産エージェントが数多くいるそうだが(Chicago Tribune Newspaper 10/24/2010)、気分的にお守りの役目くらいは果たすのかもしれない。

アリゾナの事件で考えさせられる「銃保持」

ロスアンゼルスから東、メキシコ国境に近いアリゾナ州ツーソン市で1月8日、悲惨な事件があった。 スーパーマーケットの前で若い男がスピーチ中の下院議員に至近距離から発砲、続いて20発乱射し、9歳の少女や老人も含め20人の死傷者を出した。惨事は、民主党の政治集会とはいえ場所柄買い物客も多い土曜日の朝ののどかなひとときに起きたのであった。 アリゾナ州はメキシコからの不法移民が多く、昨年移民に対する州法が強化されたが、いまだに煙がくすぶっている。健康保険法でも共和党と民主党が厳しく対立、政治的に加熱状態な土地柄である。それらが発火点になったかどうかはともかくとしても、この政治テロ事件は銃保持についてアメリカ国民に再考させた。

自分の身は自分で守るお国柄だけに…

拳銃保持は州や市によって規則が違い、銃の種類もいろいろあるから法令も複雑だ。小型ピストルはバックグラウンドチェックを経て合法的に買うことはできるが、家から持ち出すのはシカゴ市では禁止。しかしライフルは狩猟に使う場合、車で持ち運びができるはずで、ウィスコンシン州などでは、ライフル銃を運転席の後ろの窓に飾ったピックアップトラックをよく見かける。 1871年に設立された全米ライフル協会は、狩猟や射撃を楽しむ銃の愛好者が会員だが、非常に大きな組織力を持ち政治的にも影響力がある(http://home.nra.org/)。 アリゾナ州での銃法の見直しも論議されてはいるが、建国以来、自分の身は自分で守って来た西部開拓の歴史のある国。女性も銃を取って戦った土地柄だ。 そんな土壌のため、完全に銃をなくすことは難しいのかもしれないが、安全性に対する配慮はさらにエスカレートしていくのだろう。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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