海外トピックス

2011/3/8

vol.174 超!サステーナブルなパッシブハウス

アメリカで最初に建てられたパッシブハウス。Smith Houseと名付けられた (イリノイ州アーバナ)。写真提供:Passive House Institute US
アメリカで最初に建てられたパッシブハウス。Smith Houseと名付けられた (イリノイ州アーバナ)。写真提供:Passive House Institute US
Smith Houseの内部。すべてがパッシブハウスの基準に合致して建てられている。写真提供:Passive House Institute US
Smith Houseの内部。すべてがパッシブハウスの基準に合致して建てられている。写真提供:Passive House Institute US
クリーブランドファーム。外見からはうかがえないが、完璧なパッシブハウスだ(マサチューセッツ州)。写真提供:Passive House Institute US
クリーブランドファーム。外見からはうかがえないが、完璧なパッシブハウスだ(マサチューセッツ州)。写真提供:Passive House Institute US
クリーブランドファームの内部。窓は大きな役割を果たす。写真提供:Passive House Institute US
クリーブランドファームの内部。窓は大きな役割を果たす。写真提供:Passive House Institute US
ユタ州ソルトレイク市のパッシブハウス。写真提供:Passive House Institute US
ユタ州ソルトレイク市のパッシブハウス。写真提供:Passive House Institute US
イリノイ大学が開発中のパッシブハウス。ソーラーパネルが屋根全面に…(ワシントンD.C.)。写真提供:Passive House Institute US
イリノイ大学が開発中のパッシブハウス。ソーラーパネルが屋根全面に…(ワシントンD.C.)。写真提供:Passive House Institute US

魔法瓶のような気密構造の住宅で、消費エネルギーを切りつめる

「パッシブハウス」とは、断熱に留意した“超サステーナブルな建物” で、建物をまるで魔法瓶のような気密構造にし、家電を含めた暖房、冷房、給湯、換気、照明などのエネルギーをほとんどゼロと言って良いほど抑えてしまうシステムを備えた家。 石油等の化石燃料使用に危惧を抱く人々が増えて来た現在、この徹底的な省エネのシステムは話題を呼んでいる。が、そこまでエネルギーを切り詰めるとは言っても、暖房のない暗い部屋で震えながら暮らすわけでは決してなく、行き届いた工夫により、暖かい室内で健康的に暮らすのがパッシブハウスの目的である。

ヨーロッパでは認知度高く、実用化も進んでいるが…

“PASSIVHAUS” はドイツ語。1996年ウォルフガング・フェイスト博士によりドイツのダルムシュタットにパッシブハウス研究所が設立された。 現在、ドイツ、オーストリア、北欧などでは、すでにパッシブハウスの考え方は広範に知られており、実用化も数多くされているが、アメリカでは2008年、イリノイ州立大学があるアーバナという大学町にドイツのパッシブハウスアメリカ支部ともいうべき研究所ができ、そこでパッシブハウスのリサーチとコンサルティングが開始されたのが初め。 ドイツと同じ基準に合致する建築をめざす建築家や建設業者のための講習会(9日間の集中訓練で費用は約25万円くらい)や、関係者を集めての全米規模のコンフェランスも開かれている(http://www.passivehouse.us/passiveHouse/PassiveHouseInfo.html)。 

壁厚は通常の3倍、玄関ドアも2重に

パッシブハウスの基準を満たすのは光熱の浪費に慣れたアメリカ人達にとって相当過酷に思われる。その条件は、年間の冷暖房負荷が15kWh/平方メートル以下、主になるエネルギーは120kwh/平方メートル以内であること、など、はっきりした数字で示されている。 要するに、“どこからともなくしんしんと寒気が伝わってくる” 原因を完全に取り除き、その結果、エネルギー消費量を極端に減らせる。だから断熱の工夫が最も重要だ。床は床材と土台の間に30cm以上の厚い断熱材を施工。屋根は高性能の断熱材を使って冬の寒さを防ぎ、夏の暑さを遮断する。アメリカの普通の住宅では壁厚は15cmくらいだが、パッシブハウスの基準は3倍の45cm以上が要求される。壁の割れ目や穴などの隙間は決してあってはならない。窓は南に大きくとって太陽光線を一杯に取り入れ、南以外の窓は小さくとる。窓には間にガスのはいった特殊な3重ガラスを使用。サッシを使う場合はその気密性も吟味される。玄関ドアは2重にし、すきま風を遮断している。

基準に適合した建物は世界で2万5,000戸。アメリカではまだ13戸

このような工夫によって魔法瓶さながらの密室状態になるから、必要となる空気の清浄は特別にデザインされた熱交換換気装置によって行なわれる。新鮮な空気が常に室内に運び込まれ、一方、料理の匂いや古い空気は自動的に交換される。その際交換器に生じる熱を室内に送り込むので、冷たい空気が室内に流れ込まない仕組みである。 この換気装置はアメリカではまだ製造しておらず、ドイツから取り寄せなければならない。ヨーロッパでは手軽に機器を入手できるのに比べ、アメリカではまだ高価で、施工や修理の不安もあるため、今後の普及に向けた対策が望まれる。 2010年8月までに、パッシブハウスの基準に適合した建物は世界で既に2万5,000戸ほど建てられ、住宅のほか、オフィスビルやスーパーマーケットや、商業物件、学校、幼稚園などの教育施設にも適用されているが、主にドイツと北欧が中心で、アメリカでパッシブハウスの条件をクリアした建物はまだ13戸(www.wikipedia.org/wiki/passive_house)、端緒を開いたばかりであろう。

建築コストは10~15%高だが、光熱費は8分の1に

従来の建築に比べて価格は10%から15%高いが、そのかわり光熱費は8分の1まで節約できるそうなので(Chicago Tribune newspaper 02/20/11)、長い目でみれば不経済ではなさそうだ。床面積3,000平方メートルの家が珍しくないアメリカで、従来の暖房装置なしに太陽光線と照明器具、そして体温程度で快適に過ごせるだろうかと思いをめぐらすのは、贅沢な消費にどっぷりつかってきたアメリカ人達にとって当然だろう。 合衆国政府が後押ししているグリーンビルディングカウンシルのLEED やEnergy Starに比べると、パッシブハウスが提唱するシステムは質素で実際的。さすがドイツから興った、とうなずかせるだけの合理性がみられる。 パッシブハウスの「お墨付き」は厳しい条件に合致せねばならないが、しかし、できる範囲でその基本的な考え方を取り入れられたらいいのではなかろうか?


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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