海外トピックス

2011/6/20

vol.181 シカゴ市は気候異変対策のトップランナー

人々は早々と戸外で寛ぐ。温暖化だろうか?(イリノイ州シカゴ市 以下同)
人々は早々と戸外で寛ぐ。温暖化だろうか?(イリノイ州シカゴ市 以下同)
科学博物館。以前は前庭はコンクリートの大駐車場だった。大工事の末、地下に駐車場を移して一面の芝生に
科学博物館。以前は前庭はコンクリートの大駐車場だった。大工事の末、地下に駐車場を移して一面の芝生に
街路樹が深い影を提供しているが、これら樫の木は暑さに弱く、存在が危ぶまれている
街路樹が深い影を提供しているが、これら樫の木は暑さに弱く、存在が危ぶまれている
自転車専用の道路などは再舗装が始まっている
自転車専用の道路などは再舗装が始まっている
シカゴ市内のあちこちで道路の再舗装が進行中
シカゴ市内のあちこちで道路の再舗装が進行中

今世紀中にシカゴは蒸し暑い気候に

“熱波襲来の町シカゴ”…、まるで空想科学映画のようだが、これは近い将来現実に起きる熱波やハリケーンに対して町ぐるみで備える現実の話である。 多くの科学者達の調査によると、ゆっくりと、しかし確実な温暖化が記録され、シカゴは今世紀中には南部ルイジアナ州のように蒸し暑い気候風土に変わるだろうと予測されている。イリノイ州の州花であるホワイトオークは天候異変と温暖化ですでに衰退し始めた。もちろん、シカゴ市だけでなく、アメリカ全土、世界全体が温暖化していると言われ、その結果、地球全体の環境や生態系のシステムを大きく乱そうとしている。その「温暖化」の事実や詳細について議論の余地はあるにしても、シカゴ市では、ともかく予測される温暖化に備えてすでに10年以上も前から対策を講じており、その活溌な動きは全米でもトップと言える。

積極的にグリーン化対策を推し進めるシカゴ市

ディリー前市長は1997年の京都議定書に賛同し、早速「公園の中のシカゴ市」とポリシーを掲げて、環境モデル市としてグリーン化を実施し始めた。2010年には20の市局を集め、専門家達が予測している気候異変に対処するため、それぞれの局による予算計画書を提出させた。その後、局長達は定期的に会合を持ち、現在のリム・エマニュエル市長も引き続いてグリーン化対策を推し進める姿勢を見せている。 市の予算ではとうてい賄えないようなリサーチなどは、専門家や非営利団体の助けを借りて大掛かりな調査を行なっている。

街路樹の植樹に年間10億円の予算

シカゴで32度以上の真夏日はこれまで15日以下だったが、今後大気中に含まれる二酸化炭素の量が増え続けると、今世紀末までには真夏日が72日にもなるだろう、との気候学者の調査結果が出ている。 熱波による死者は1年間に120人にものぼり、さらに増加するのは目に見えている。市全体の熱を下げるために緑化運動を進めてきているが、植物や木々をもっと植えることと屋根をグリーンルーフにすることが奨励されている。現在200以上のグリーンルーフがあり、延べ面積では全米一。市では年間10億円の予算をとって毎年2,200本の街路樹を植えてきているが、その量をさらに増やす意向だ。 問題は木の寿命で、通常の気候なら90年位だが、現在の街路樹、例えば木陰を提供してきたノルウェーメープルや樫、街路樹の17%を占めるアッシュの木は暑い気候に耐えられない。すでに暑さに耐えうる南部のシュガーガムの木などを選別して、植え替えが開始されている。

新素材による舗装で豪雨対策も

ここ数年、激しい嵐が多く、短時間に多量の雨が降る。コンクリートやアスファルトに降った雨は下水に流れ込みきれずに低地の道路や地下室などに浸水する。保険会社は、こういったリスクの高い地区へは保険金額を上げざるをえない。 市では水害対策として、植樹のほかに熱量計レーダーで市の最も温度の高い地点を探し当てて、その近辺のコンクリートやアスファルトの駐車場を掘り返し、植物を植えたり屋根を緑化。また、水が浸み込む新素材を採用して、排水口のない裏道や路地を舗装し直している。こういった透過性のある素材は80%の雨水を地下へ浸み込ませる。自転車専用の道路や駐車場もその素材で再舗装されるだろう。 すでに150の裏通りはこの新素材を使って再舗装されているが、新しいタイプの舗装だと一つの裏通りを再舗装するのに1,500万円もかかり、従来の舗装方式よりはるかに高価である。

ハリケーンが来れば市の財政が破たんする危険も

ハリケーンカタリナの被害総額は15兆円、同時多発テロの10倍もの被害金額である。今後カタリナ級のハリケーン来襲があればシカゴ市は破産する不安も…。ハリケーンや高潮、熱波の襲来に手をこまねいているわけにはいかない。多くの団体や個人も含めて市民が対処にベストをつくしている現状で、気候異変を結構深刻に受け止めている。 いつも浸水するサーマック道路際の高校界隈のプロジェクトでは、歩道を広げて道路全体より低くなっている交差点付近に植物を多量に植える。それらはスポンジのように雨水を吸い込む丈夫な草花だ。通りの下、何カ所かにタンクを設置し、たまった水は植物に散水したり高校の前に噴水として利用する。 こういった気候異変対策計画は雇用を増やし経済開発を促すというが、それにしても税金がずっしりと市民の肩にのしかかってくるのはつらいし、これら対策の結果が現れる頃まで生きてはいない。 しかし、より安全に快適に暮せる世の中を、これからの世代の人々に譲り渡すのがわれわれの役目だろう。

<参考資料>
www.cityofchicago.org/city/en/depts/doe/provdrs/green.html
www.nytmes.com
www.asla.org/meetings/awards/awds02/chicagocityhall.html


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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