海外トピックス

2011/7/6

vol.182 マリアの美しいパティオ

パティオでおしゃべりするマリア (Maria Monroy 左)と近所の仲良しの親子(イリノイ州シカゴ市 以下同)
パティオでおしゃべりするマリア (Maria Monroy 左)と近所の仲良しの親子(イリノイ州シカゴ市 以下同)
マリアは毎日パティオを洗ったり花々の手入れに3時間はかけるという
マリアは毎日パティオを洗ったり花々の手入れに3時間はかけるという
メキシコシティ出身のフランシスコ・メザ(Francisco Meza)。タイルを敷いたり池を作ったり…、周囲の柵などすべての改装をした
メキシコシティ出身のフランシスコ・メザ(Francisco Meza)。タイルを敷いたり池を作ったり…、周囲の柵などすべての改装をした
歩道から眺めたパティオへの入り口。柵はフランシスコが制作した
歩道から眺めたパティオへの入り口。柵はフランシスコが制作した
池にはたくさんの鯉が泳いでいる
池にはたくさんの鯉が泳いでいる
パティオ全景。後ろは数台駐車できるマリアとテナント用のガレージ
パティオ全景。後ろは数台駐車できるマリアとテナント用のガレージ

道行く人たちも足を止める交流の場

マリアは3世帯の入居者を抱えるアパートのオーナーである。パティオの籐椅子に腰をおろすとたくさんの花々や木々の緑が目に鮮やか、気分が寛いで空気の流れまでがゆったりと変化する。アパートの周囲はベンチや噴水、天使の立像が小道具として配され、パティオの建物寄りには太鼓橋をかけた池が作られ、色とりどりの鯉が泳いでいる。 庭だけでなく、塀も壁も出入り口もどこもかしこもぎっしりと色とりどりの美しい草花で飾られ、道行く人々の足を止めさせる。通りかかった隣人達が涼を得ようとちょいと立寄り、うわさ話に花を咲かせることも…。マリアのパティオは陽気な交流の場となる。

暑さを和らげる住まいの工夫

スペインやメキシコの家屋には「パティオ」とよばれる中庭が多く作られている。スペインのアンダルシア地方などではその戸外の空間は住まいの延長と考えられ、暑い室内を避けて涼しく過ごす住まいの工夫ともいえる。 京都の町家にも「つぼ庭」と言ってパティオと似たような中庭の空間があるが、つぼ庭は光や風を母屋に取り入れるために工夫された大変小さな中庭で、静かで瞑想的な雰囲気が漂う。通りからは見えないし、パティオのようにそこで皆で飲み食いする賑やかな雰囲気でもない。 パティオはラテン民族特有の開放的で陽気な雰囲気、あれもこれもと付け加えた飾り付けもあって華やかだ。マリアのパティオも典型的なラテン系。家族や入居者達が三々五々集まって楽しいひとときを過ごすようにすべてが配されている。レンガを敷き、籐椅子や鉄製のガーデンチェアとテーブルが置かれ、一刻もじっとしていない働き者のマリアにとって、ここは時折り朝食したりコーヒーで一休みして腰を落ち着けることのできる唯一の場所であろう。

子連れで女性、移民…、困難だらけの出発

マリア・モンロイは22歳のときに5歳の長男フランクを連れてメキシコからシカゴへやってきた。すでにマリアの家族がよりよい暮らしを求めてメキシコからシカゴに定住していたことから、早速兄のアパートに身を寄せて工場で働き始めた。息子は近くの小学校へ。やがて一足おくれて夫がメキシコからやってきて、ようやく家族一緒に住み始めたが、不幸にも2年後、夫は交通事故で死亡。マリアは何と24歳で幼児をかかえ、未亡人になってしまったのである。 その後20年間工場で働き、再婚もせず(マリアによると恋人も作らず)、ただひたすら一人息子を育て上げ、生活するのが精一杯だったと言う。高学歴も特殊技能もなく、メキシコからの移民で子連れで女性…、困難は想像するにあまりある。

30年間働いて貯めた資金で我が家を購入

工場での仕事を勤め上げたあと、掃除を請け負う「クリーニング・レディ」と呼ばれるビジネスを一人で始めたマリアは一心不乱に働き、10年後、お金を貯めてついに我が家を手にしたのである。その後2003年に4フラットの建物を購入、アパートに住んで管理をしつつ、入居者による家賃収入でローンを返済している。 内部の改装を終えた2007年にパティオ建設にとりかかった。購入した当時はまだ建物からガレージへの通り道で何もない砂利道だった空き地を、下水工事の仕事をしているテナントのフランシスコが、塀や池、テラスの骨組みなど大きな仕事をし、マリア自身もできる限り手伝い、庭園や建物の周囲を美しく飾り付けることに集中したという。「飾り付け」はマリアの最も愛する趣味なのだ。

言葉も仕事もすべて独学。ラテン系らしい明るい逞しさ

すっかり成長した息子のフランクは現在14歳の長女をかしらに6人の子持ちとなり、大きな一戸建て持ち家に住み、ナイトクラブのプロモーション関係の仕事をし、アメリカ人としてすっかり社会にとけこんでいる。マリアは孫達が小さかった頃から彼等の面倒をみたり、彼等の庭の手入れをしたり、室内の改装に手を貸したりと忙しい。 メキシコ人達は家族の繋がりが密で家族関係を非常に大切にする。英語も庭仕事も掃除の要領もすべて独学でテレビや雑誌から学んだとマリアは言うが、ゼロからどころかマイナスからの出発で、一生懸命に働き、一戸建ての住まいからアパートを手に入れて落ち着いた彼女はほれぼれするほどたくましい。 「これからのプランは?」と聞いたら、大きな微笑みと共に「今を精一杯楽しむのよ。」とラテン民族らしい答えが返って来た。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。