海外トピックス

2012/2/20

vol.197 オープンハウス ~エージェントに忍び寄る危険

最近、オープンハウスの看板をちらほらと見かけるようになった(イリノイ州シカゴ市、以下同)
最近、オープンハウスの看板をちらほらと見かけるようになった(イリノイ州シカゴ市、以下同)
Coldwell Banker社のジュディ・ライクさん
Coldwell Banker社のジュディ・ライクさん
こういった物件(右側の家)を時間を区切って週末に一般に公開する
こういった物件(右側の家)を時間を区切って週末に一般に公開する
まだ売り主は住んでいるので、家具などはそのままで見せていることが多い
まだ売り主は住んでいるので、家具などはそのままで見せていることが多い
非常にきさくで親しみ易いKoenig & Strey社のエージェント、ステファン・ノーシィ氏
非常にきさくで親しみ易いKoenig & Strey社のエージェント、ステファン・ノーシィ氏
来場者に記帳してもらう。名刺や案内パンフレット、チョコレートなどがそばに
来場者に記帳してもらう。名刺や案内パンフレット、チョコレートなどがそばに

エージェントが一人で訪問客に対応

冬のさなかとは言え、家のセールやオープンハウスの看板に加えて、売れたサイン、“SOLD”の看板も見かけるようになり、不動産物件が少しずつ動き始めた気配が感じられる。 オープンハウスとは、セール中の物件を週末などに時間を決めて一般の人々に公開し、セールスをまかされた不動産エージェントは、やってきた客に内部を案内して物件の詳細を説明、客からの質問などに答える販売方法の一つである。家が売れるまでは持ち主がまだそこに住んでいる場合が多いので(アメリカでは中古物件の流通が主流)、売主はオープンハウス中だけ家をあけ、エージェントが一人で訪問客をとりしきるシステム。

全米で毎年75人のエージェントが犠牲に

オープンハウスはここ数年来、不動産エージェントが殺されたり襲われたりする事件が多く発生しているため、その危険性が指摘されている。2003年以来、全米で毎年平均75人の不動産エージェント達が殺されている、と労働省調査機関(Bureau of Labor and Statistics) が報告。その中で「危険というのは、エージェントが隔離された家でしばしば全く見知らぬ人と会う点にある」と述べているが、女性が無防備で部屋にひとりいるということが、強盗や精神異常者、暴漢などの標的になっているのだろうか。 国防省のトレィシー・ホーキンズが不動産エージェントのために「放棄された物件における不動産エージェントの安全性」と銘打ったプログラムをリンクデンというポピュラーなソーシャルネットワーク上に打ち立てたところ、200人以上の不動産関係者からメンバー登録があったという。サイト上で不動産ビジネスにおける安全性について“話し合い” をするわけだが、安全がますます切実な問題になって来ている様子がうかがわれる(http://realtybiznews.com/the-dangers-of-being-a-real-estate-agent-and-how-to-avoid-them)。

「怪しい客は中に入れないわ」と女性エージェント

しかしながら、オープンハウス中の不動産エージェント(コールドウェルバンカー社)ジュディ・ライクに聞くと、「誰かに一緒にいてもらったことはないわ。安全性を考えるとその方がいいのかもしれないけど、オープンハウス中はドアをロックしているし、客がやってくるとこちら側から戸外の様子を見てその客がいかにも危険だな、と思う時はドアを開けない」そうだ。 月に1度くらいの割合で週末の午後1時から3時までオープンハウスを催すという彼女。この1月は売る段階には至らなかったが、2時間のあいだに8組の訪問客があったそう。堂々として隙のないジュディは、長年のプロの貫禄を感じさせ、危険を寄せ付けない強さがみなぎっている。

高価な品、貴金属などは見えないところに

シカゴ市の北の地区で開催中のオープンハウスを訪ねてみた。 エージェント(コーニング & ストレィ社)のステファン・ノーシィは男性だからか、安全性についてはあまり気にしていない様子。ジュディと同様、やって来る客を家の中からながめて、妙だったら中に入れない、という程度の用心であった。ただ、家の持ち主(売り手)にはオープンハウス中は室内の貴重品、例えば高価な宝石や絵画、置き物、電気製品などはしまってもらい、現金や小切手、カードなども引き出しに入れておかず、鍵のかかる別の場所にしまうよう依頼するそうだ。客がいつ強盗に豹変するかわからない。そのような余計な誘惑を避ける配慮だろう。 ジュディもステファンも、ペッパースプレーや拳銃などは携帯していなかった。二人とも主に中流の住宅地域を取り扱うので、危険度が少ないとも言える。

放棄された物件周辺が犯罪の温床に

危険度は地域によって極端に違う。ここ3年以上にわたり発生した数え切れないほどのフォアクロージャーが元凶となり、投げ売りのごとく放棄された多くの物件が安全でない区域をつくり出した。放棄された物件周辺で、麻薬などギャングがからんだ幾多の暴力犯罪が発生、しかもその件数は増加しつつある。 そのため、地域によっては不動産エージェント達は警戒が必須。オープンハウスでは訪れる人に必ず記名してもらい、その間に記入者の特徴や車の種類、ナンバーなどを自分のノートにそっと控えておく。また、客に背中を向けないよう気をつけ、部屋に入る時は客を先にし、後ろから襲われるのを防ぐ。 前述ホーキンズは、 「自分の嗅覚を信頼しなさい。どんな状況においても第六感からの警鐘に耳を傾ける。顧客に嫌な気持ちを与えることを恐れてこの感覚を無視してはいけない。そして911(日本の110番)に電話するのをためらう必要はなし。警察官は無惨な殺人現場に出くわすよりは、むしろ偽りの警報で出向く方が喜ばしいのだから」とアドバイスする(http://realtybiznews.com)。 命を失うよりは家のセールを失う方がまし、と考えて立ち向かう覚悟が必要だろう。(文中敬称略)


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。