海外トピックス

2012/10/4

vol.212 アメリカではなぜ中古住宅がそんなに多いの?

100年近く古い建物と思うが、石造りのせいか、レンガもしっかりしていて手入れのよさをうかがわせる(イリノイ州シカゴ市。以下同)
100年近く古い建物と思うが、石造りのせいか、レンガもしっかりしていて手入れのよさをうかがわせる(イリノイ州シカゴ市。以下同)
築100年経つシカゴバンガローハウス。まだまだ長く使える様子がうかがわれる。持ち主はイングリッシュガーデン風に前庭を手入れして園芸を楽しんでいる
築100年経つシカゴバンガローハウス。まだまだ長く使える様子がうかがわれる。持ち主はイングリッシュガーデン風に前庭を手入れして園芸を楽しんでいる
冬、氷で階段が凍りついてすべる事が多い。それを避けるために熱線を設置しているプロセス。これも今後売るときの有利な改造点となろう
冬、氷で階段が凍りついてすべる事が多い。それを避けるために熱線を設置しているプロセス。これも今後売るときの有利な改造点となろう
80年前の建物をレストランに改造。チャーミングな古い装飾部分、塔も含めて残してある
80年前の建物をレストランに改造。チャーミングな古い装飾部分、塔も含めて残してある
これも100年前くらいの建物と思うが(レンガからそう推量する)、よく手入れがなされ、町の風物として品格を与えている
これも100年前くらいの建物と思うが(レンガからそう推量する)、よく手入れがなされ、町の風物として品格を与えている
古いビルを壊さずに改築してマンション(コンドミニアム)として数年前に売り出したが、売れなかったため、現在は一部を賃貸としている。建物そのものは100年以前のものである
古いビルを壊さずに改築してマンション(コンドミニアム)として数年前に売り出したが、売れなかったため、現在は一部を賃貸としている。建物そのものは100年以前のものである

20数年前にアメリカに住み始めた頃、まず不思議に思った疑問。アメリカで流通している住宅の大半は中古住宅(マンションも含む)だが、なぜ中古?続いて素朴な質問がいくつか浮かんで…。どうしてこんなに中古住宅が沢山あるのか?購買者はなぜ新築より中古を選ぶのか? “お古” の家に住む事にこだわりはないのか?新築に比べて不良箇所が多いのでは?中古を購入直後に故障が起きた時の責任は?

3つの時代の波がつくり上げた中古住宅市場

中古住宅が多い理由はいくつかある。シカゴを含む中西部に限って述べるが、第一の波は1910年代に重工業が盛んになり、多くの人々が海外からも流れ込み、当然ながら住宅が多く建てられた。 第二の波は、第一次世界大戦後の1919年からローリングトウェンティーズでおなじみの華やかな時代に突入。シカゴは経済の絶頂期に達し、都心を中心に質の高い住宅が沢山建てられた。 そして第三の波は、第二次世界大戦の後、兵隊達が戦場から戻ってきて住む家を必要とし、大規模な住宅開発が郊外へと伸びていった。 アメリカはヨーロッパなどと違い戦場にならなかったので、上記の3つの波により建てられた一戸建て住宅、タウンハウス、マンション(=condominium) が現在でも多く残っているわけである。

収入、生活の変化とともに住み替えるアメリカ人

アメリカ人達は一生に何度も住まいを変える傾向があるが、これも中古住宅循環の理由となろう。成人すると仕事を得て独立、結婚すれば仕事場に近く賑やかな場所に住みたがる傾向があり、仕事によって州から州への移動も多い。 子供が生まれると、よい学校区を求めて郊外の大きな家に移り、子供が巣立てば管理が楽な都心のマンションやタウンハウスに移る。5年から7年のサイクルで家を住み替えるからそれだけ物件が出回る。 もちろん、誰もが簡単に家を買えるわけではないが、賃貸で払う価格とそう差がなく家のローンが払える時期もあるし、また、手入れをよくしておけば家を売る時に結構な値段で売れる時期もあるのだ。その時期の見極めは難しいが、しかし、家を投資として考えて購入したり売ったりする友人が結構多いのは事実だ。

圧倒的に中古が中心の住宅市場

家を買う場合、新築か中古か、どちらを選ぶ?と、何人かの友人達に聞いてみた。家を選ぶ際に「よい学校のある地区」「環境の静かな地域」「都心で華やかな場所」「仕事場に自転車で行かれる地区」「森林や公園がある所」「固定資産税が安い地区」など、各人の目的と予算を考え合わせて、20も30も物件を見るが、新築物件は中古住宅物件(マンションも含む)に比べて数が少ないのだ。 特にここ数年の景気停滞で、住宅開発会社は新築住宅建設を手控えてきているし、もとは新築マンションや一戸建て住宅として売り出したにもかかわらず、景気の低迷期で売れ残り、賃貸に変えた事業者も少なくない。新築か中古かという質問はナンセンスであった。

インスペクション結果をもとに売買交渉

中古住宅セールスには不動産エージェント、ホームインスペクター、アプレィザー(価格の査定をする専門家)、金融関係者など多くの専門家達が関わるが、とりわけホームインスペクターによる中古住宅の検査は絶対に欠かせない。家を売る際にはその家についての詳細を正直に書き込んで役所に提出せねばならないが、家を買う側はさらにインスペクターを雇って検査する(銀行がインスペクターを送る時もある)。 例えば冬が長い中西部では暖房システムは必須で、あとで故障したり交換するとなると大変な金額がかかる。ボイラーとかヒーターとかいうファーネス(furnace) システムで暖かい空気や蒸気を家中に送り込むセントラルヒーティングが通常備え付けられているが、“ファーネスの手入れがよくしてある”とか、“新品に取りかえてあるからあと20年は大丈夫だろう”などと記述される。暖房同様に冷房設備、屋根、土台、上水、下水、電気系統なども検査され、その結果で中古住宅の概要がつかめるというわけだ。 そして売る側、買う側の不動産エージェントを通じてセールスの交渉が行なわれる。

良質な住宅あっての流通市場

9月19日に行なわれたNAR(National Association of Realtors) のプレスコンフェランスで、チーフエコノミストのローレンス・ユン氏は、8月のセールスの状況について、まず“8月の existing-home セールス は7月に比べて8%上昇し、家の価格は昨年に比較して9.5%上昇し…”と、既存住宅セールスの詳細を最初に述べている(http://speakingofrealestate.blogs.realtor.org) 。 不動産セールスにおいては、日本で言う「中古住宅」はアメリカでは“used home”ではなく“existing-home”と使う。そしてユン氏は、マーケットを説明する際、中古物件セールスを第一にとりあげている。それだけアメリカでは中古物件が流通しているわけだが、しかし、そのためには、家の耐久年数が長いこと、良質な建材を使いしっかりした構造であること、そして住む人がよく手入れをする、というこの3つが揃ってはじめて循環が成り立っていると言えるのではなかろうか。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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