海外トピックス

2012/11/6

vol.214 ホームインスペクターの役割

ジョージ・リーガー氏による報告書の例。25ページの厚さで写真も多い
ジョージ・リーガー氏による報告書の例。25ページの厚さで写真も多い
インスペクションに必要なすべての器材が納まっているトラックの前で。ジョージ・リーガー氏(イリノイ州エバンストン市)
インスペクションに必要なすべての器材が納まっているトラックの前で。ジョージ・リーガー氏(イリノイ州エバンストン市)
売りに出されいる築50年の中古物件。玄関先にはチラシを入れたスタンドを立てている(イリノイ州シカゴ市)
売りに出されいる築50年の中古物件。玄関先にはチラシを入れたスタンドを立てている(イリノイ州シカゴ市)
上の写真の物件チラシ。詳細にわたり情報が開示されている。インスペクターはこれを読めばほぼ検査する要点がつかめる
上の写真の物件チラシ。詳細にわたり情報が開示されている。インスペクターはこれを読めばほぼ検査する要点がつかめる

中古住宅売買が成立するかどうかの「要」

ホームインスペクターは、独立した専門家として活躍する。金融関係者、アプレイザー、売り手及び買い手側の不動産エージェントや不動産専門の弁護士等がそれぞれの仕事の専門分野を担うが、特に中古住宅売買においてインスペクターは「要」のように思える。 エンドユーザーが家を探す場合、たいていは不動産エージェントにまず委託し、これ!という家がみつかったら、現金でぽーんと買う場合を除いて金融機関でローンを組むのが次のステップ。このプロセス前後がホームインスペクターの出番だ。インスペションの結果次第で購入に踏み切ったり、ちょっと待てよ、という気持ちになることもある。問題があれば売り手に修理を依頼するとか、買い手側で修理し、その分の値引きの交渉をするといったことがしばしば行なわれる。 インスペクションの後、売買成立決定直前の“FINAL WALK-THROUGH”で買い手がオーケーすれば、弁護士など専門家達を通して契約締結へと売買のプロセスが進行してゆく。

金融機関側が検査を依頼するケースも

ホームインスペクターは最初にかかる医師のようなもので、構造や屋根、換気、窓、冷暖房等を外見から判断するのだが、もしも大きな問題箇所がみつかり、綿密な調査が必要な場合は、“専門医” を紹介する場合もある。 例えば構造についてさらに調べた方がよいと判断したら免許を持つ工学技師に調査を依頼するとか…。 時には金融関係者側でインスペクターを送る場合もある。その結果によっては申し込んだ住宅ローンの金額が変わる可能性も。ローンを組むに当たって金融機関側としては対象となる物件にリスクがないかどうか確認するのは当然だし、疑問符のある箇所に対しては修理が完了するまで、住宅ローン貸し出しを待つことになる。

報告書は20数ページ。PDFファイルで顧客に

ホームインスペクションは、前回紹介したジョージ・リーガー氏(以下敬称略)の場合、依頼を受けたら現地に赴き、家を見て回り、その状態をコンピューターに入力、写真も撮って20数ページに及ぶ報告書を顧客にPDFファイルで送る。 レポートは、一戸建て、マンションなどの違いや、物件の大きさ、立地条件等により報告内容に多少違いはあるが、順序は同じ。まず「概要」が問題箇所の写真と共に記述される。手元にあるジョージの報告書見本では、7~8ページにも及ぶ「概要」の中で、主要な問題箇所として、全館冷房器の温度が充分に下がらないので業者に見てもらう必要がある、と指摘されている。マイナーな問題箇所としては、電球が切れている箇所の指摘、2階の洗面所のシャワーの栓がひねりにくい、煙突部分のレンガが崩れかけている、全館暖房器具のフィルターの交換の必要性等が記され、外壁でペンキを塗り替える必要のある箇所を写真で示している。また、屋根について寝室の天井に水漏れの跡が見られるので売り手に経緯を尋ねるべきといった点も指摘され、最終の“walk-through” までに売り手に修理を依頼するよううながしている。 これらの修理にかかるおよその金額も書き添えてある。

問題個所が発覚すれば、エージェント間で交渉

「検査の条件」という項目では、インスペクションを行なった日時や場所、天気や温度、家の古さや大きさ、顧客が側にいたかどうか、家の中は何が残っていたか、いくら(小切手で)支払ったか、などをリスト化。続いて、電気系統、洗面所/トイレ、外観、構造、地下室、車庫、塀やゲート、冷暖房、内部、台所器具と洗濯機乾燥機、下水、屋根等、規定された検査の項目に添って記述がなされる。 売り手買い手共互いに「中古住宅」と分かっているので、多少のマイナーな部分については目をつぶることが多いようだが、もしも大きな問題箇所がインスペクションの結果見つかった場合はどうするか? 例えば、上記報告書に取り上げられた全館冷房装置に大きな欠陥が見つかったとしよう。修理程度で済めばよいが、もし機器全体を交換しなければならないとすると、およそ25万円かかると概算。売り手がボイラーを新品に変えてから売るか、またはこの物件の売値から25万円引いた価格にするか、などの交渉が売り手買い手共それぞれのエージェントを立てて行なわれる。

最近は新築住宅でもインスペクションが必要に

アメリカでは中古物件が多く流通しているからインスペクションが必要なのだろと思われるかもしれないが、決して中古物件だけとは限らない。ある不動産エージェントから、「最近の新築住宅は仕上げを急いだり、価格を抑えるためか建材の質が昔に比べて落ちている」と聞いたことがある。新築の住宅でもホームインスペクションを依頼してから購入を決めた方が賢明かもしれない。 このようにホームインスペクションは不動産セールスにおいて欠かせないものだが、どうやってインスペクターを探すか、誰を選ぶかは難しい所。とはいうものの、州の免許を持っていてそれなりの経験があれば、どのインスペクターでも基本的には検査の内容や検査価格には差がないと言われる。 それでも人間だから、感じのいい人、誠実な人、無愛想な人、などいろいろだ。隣人、友人、親戚からの紹介や、家の売買をゆだねる不動産エージェントに紹介してもらうのもよい方法に違いない。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年6月号
「特定空家」にしないため…
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/5/5

「月刊不動産流通2024年6月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年6月号」の発売を開始しました!

編集部レポート「官民連携で進む 空き家対策Ⅳ 特措法改正でどう変わる」では、2023年12月施行の「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」を国土交通省担当者が解説。

あわせて、二人三脚で空き家対策に取り組む各地の団体と自治体を取材しました。「滋賀県東近江市」「和歌山県橋本市」「新潟県三条市」「東京都調布市」が登場します!空き家の軒数も異なり、取り組みもさまざま。ぜひ、最新の取り組み事例をご覧ください。