海外トピックス

2012/11/20

vol.215 改装改築を投資として考えると?

増築中の家。ここ数年、あちこちでこのような改造中の家をみかける(イリノイ州シカゴ市。以下同)
増築中の家。ここ数年、あちこちでこのような改造中の家をみかける(イリノイ州シカゴ市。以下同)
ジェームス・ライ夫妻。キッチンの隣の一部屋を加えて大きなキッチンスペースに。数日前に完成したばかりだ
ジェームス・ライ夫妻。キッチンの隣の一部屋を加えて大きなキッチンスペースに。数日前に完成したばかりだ
ライ夫妻の築100年の家。シンクもストーブもキャビネットもすべて新調。レンジフードの向こうの壁は珍しいグラスタイル
ライ夫妻の築100年の家。シンクもストーブもキャビネットもすべて新調。レンジフードの向こうの壁は珍しいグラスタイル
さまざまな住宅履歴は公表される。売り手は不動産エージェントを通じて、わかる限りの情報を顧客に知らせる
さまざまな住宅履歴は公表される。売り手は不動産エージェントを通じて、わかる限りの情報を顧客に知らせる
“ガット”リハブの例。外壁と土台以外はすべて改築
“ガット”リハブの例。外壁と土台以外はすべて改築
売りに出されている家。古い時代の面影を残しながら、よく手入れがされてきた様子がうかがわれる
売りに出されている家。古い時代の面影を残しながら、よく手入れがされてきた様子がうかがわれる

景気低迷のなかでは、「売る」より「改装改築」に

アメリカでは中古一戸建て住宅セールスが不動産ビジネスの大きな柱となっている。築100年から数年前に建てられた物件まで、各時代に渡り充分過ぎるほどの品揃えだ。家を買う側からみれば、自分の予算や必要条件に合わせて沢山の物件からあれやこれやと選べるが、家を売る側からすると中古物件が沢山出回っている分、競争が激しいことになる。 不動産は価格がその時々によって上下し「定価」がない。ここ数年の景気低迷で、家を売りたければ価格を下げなくては売れない状況。そのため、無理して売るよりはむしろ家の改装改築へと目を振り向ける人々が多いようだ。 建材や床材、ペンキ、照明器具からカーペット等、住宅に関するすべての品を販売する全米規模の超大型店、ホーム・デポの売り上げが大幅に上がっている、というニュースを過日ラジオで聞いたが(10/30/2012 WBBM radio)、さらに11月13日にも、ホーム・デポの株が急上昇というニュースをNPR(全米公共)ラジオ放送で聞いた。 人々が、自宅を改装、改築しつつ住宅価格が全体的に上がる時期を待ちわびている様子が見えてくる。

将来「売る」時のために、絶えず「投資」

住宅は古くなれば価値が下がる。住み手の手入れ次第で将来家を売る際に価格に差が出てくるから、人々は家の手入れや改装を継続的な “投資” と考え、住宅の価値を保つ努力を怠らない。 「改装」(redecorating) とは、ペンキを塗り替えたりカーペットを取り去って木の床にするなどの軽い模様替えの方法で、老若男女貧富の別なく多くの人々が自分でペンキ塗りやキャビネットを替えたり窓の取り付けなどする。 「改築」(remodeling、renovation) では、まず計画を練る必要があり、それから工事開始。工学的構造的に建材などを付け加えたりしてのち、取り去った箇所を元通りにして仕上げを行なう方法で、多くは下請け専門業者に頼む。 「ガットリハブ」(gut rehab) は大掛かりな大改造で、主要な構造(外壁や支柱)のみ残して中味をすっかり取り去り新しく建て加える方法。これは自分でするのは難しく、業者か建築家に依頼しさまざまな専門下請け業者が働く。

まずは問題箇所の修理から

改装、改築を考える場合には、まず第一に問題がある箇所の修理を優先したい。これは改築改装というよりはメインテナンスの範疇だが…。 地下室に水漏れがないか、屋根のふき替えはまだ大丈夫か、等。屋根のふき替えは少なくとも百万円はかかるので、中古物件の売買において最も注意を要する箇所である。屋根の葺き替えが済んでいれば、家を売る際、大きなプラス要因となる。

最も効果的な改装改築は? さまざまなデータが…

さて、第2には将来家を売ることを考えて、最も効果的な改装改築をしたい。つまり、改装改築を投資として考え、どのような箇所の改装改築をしたら、家を売る際、その改築にかかった費用を回収できるか?沢山のリサーチ結果が出回っている。 風呂場の改造に投資した金額(中規模の改造で100万円位)を例にあげると、その家を売る場合にはかけた金額の102%戻るといわれる。つまり、かかった費用である100万円ちょっとを売値価格に上乗せしても売れるというわけだ。 一方、主寝室を贅沢に改造した場合は、かけた金額の80%しか戻らない。興味深いのは、家の正面外観を魅力的に改装するよう強く提唱する不動産エージェントのロン・フィプス氏。家を探している人が最初に目にするのは正面外観だから、例えば“ウエルカム!”と暖かく迎え入れるようなフロントポーチを増築しては?という提案をしている。外観が目を惹き付けなければ、中がどんなに素晴らしく改造してあっても潜在的買い手は足を踏み込まない…、さすがに不動産売買専門家の目のつけ所は違う。

圧倒的に人気があるのは、キッチン

第3に、すぐに引っ越す予定がないのなら自分が最も楽しめる家の部分を改築すべきだ。不動産エージェントの友人は「家を売る際、キッチンが古いままだと売るのは難しい」と言っているが、たしかにキッチンの改装改築は圧倒的に人気がある。820万円もかけるアップスケールな改築は85%、450万円かけて大改造すると91%、150万円止まりのマイナーな改装は投資金額の99%元がとれるようでうれしい。 また、地下室や屋根裏にもう一部屋増やすのは投資として100%以上のリターンがあるそうだが、子供が成長すれば部屋数は多い方が便利だし、ホームオフィスとしても需要は今後さらに多いので、家を売る際にプラス面となるのは間違いない。このようにアメリカ人は改装改築を「投資」として考えるふしがあるが、そういった合理性に加えて、家を使い捨てでなくできるだけ長持ちするように手を入れる考え方はぜひとも学ぶべきではなかろうか。


<参考資料>
http://www.nahb.org/fileUpload_details.aspx?contentID=55761
http://www.hgtv.com/home-improvement/which-home-improvements-pay-off/page3.html
http://www.kiplinger.com/features/archives/2006/10/recoup.html


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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