海外トピックス

2013/7/4

vol.230 米国独立記念日にホットなニュース:ワシントンD.C.の不動産ブーム

ワシントンD.C.(Washington District of Columbia)の中心で、すべての法が定められる合衆国政府の議事堂(ワシントンD.C. 以下同)
ワシントンD.C.(Washington District of Columbia)の中心で、すべての法が定められる合衆国政府の議事堂(ワシントンD.C. 以下同)
リンカーンメモリアルからはるかに一番高い塔、ワシントンモニュメントをのぞむ
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巨大な建物が続く中心街。独立宣言書もおさめられている重要な資料館
巨大な建物が続く中心街。独立宣言書もおさめられている重要な資料館
19世紀に建てられた石作りの古い建物が多く残っている
19世紀に建てられた石作りの古い建物が多く残っている
ワシントンD.C.には172国の大使館があり、国際色溢れる地域
ワシントンD.C.には172国の大使館があり、国際色溢れる地域
市内のあちこちで建築中の光景が見られる。しかし、高層建築は見当たらない
市内のあちこちで建築中の光景が見られる。しかし、高層建築は見当たらない

いま全米で不動産ビジネスが最も爆発的に湧いているのはワシントンD.C.である。メリーランド州とヴァージニア州に挟まれた小さい菱形の「市」だが、アメリカ全土から眺めればごま粒ほどの大きさもないこのワシントンD.C.で一体何が起きているのだろうか?
ワシントンD.C.はアメリカ合衆国の心臓部であり、合衆国の三権である大統領官邸(White House)、議事堂(Congress)、そして最高裁判所(Supreme Court)がある特別地区。アメリカ合衆国政府関連の業種が周囲に広がり、政府関係の雇用が増えているし安定もしている。また、いかなる妨害や攻撃に対しても鉄壁の守りを固める軍事の必要からか、超トップクラスのIT(コンピューターをベースとした情報処理及び通信技術の応用法)関係者が全米から続々と招聘されている。
さらに海外不動産投資家がワシントンD.C.周辺地区に注目し始めたニュースも耳にするし、需要に対して供給が追いつかないという、うれしい悲鳴の不動産ビジネススポットとなっている。

個人事業主の流入で、住宅需要が急増

民主党政権下、政府関連の請負業者を増やしたことが不動産ブームの大きな原因だろうか。特にコンピューター関係のエンジニア、技術者、科学者、数学者といった個人請負業者の人数は2001年から2013年にかけて19.5%増加している(The Wall Street Journal 05/24/2013) 。 ジョージメイソン大学経済学者のステファン・フラー氏(以下敬称略)のデータによると、政府関連の個人請負業者への支払いは1990年に1兆2,600万円、2000年に2兆9,300万円、2010年には8兆2,500万円だそうだが、そのうちの70%はITサービス業と言う(1ドル100円として計算)。 風が吹けば桶屋が儲かる、ではないが、不動産ビジネスはこういった人々が住居を漁って供給が間に合わない状態。サンフランシスコやニューヨークに比べ、ワシントンD.C.の住宅物件はまだ安いせいもあり人々を惹き付けもする。

1億円以上の物件がたった1日で即完!

特徴としては高級物件が奪い合いの様相。ウォールストリートジャーナル記事によると、“多くの物件はたった1日で売れてしまうし、現金で支払う顧客も多く、条件つき(contingencies) はほとんどない。去年には決して見られなかった状況!” とマクウィリアムス・バラード不動産会社のクリス・バラード。そして物件価格は最低1億円以上で、シカゴよりはるかに高額。 ワシントンD.C.市は菱形で、それを4つに分けると、北西部はホワイトカラーのサービス業が急増、法律事務所や軍事、非軍事に関わらず個人請負業者が多い。北西部から伸びる近距離通勤圏内、例えばジョージタウン市など、1950年代にはジョン・F・ケネディなど政界のリーダー的立場の人々や財界のエリート達が多く住み、現在でも上院議員のジョン・ケリー、前国務長官のマデレーン・オルブライトが住んでいる。前ワールド銀行副社長のドナルド・ロスは2001年に約4億円で購入したクィーンアン王朝様式の家を最近8億6,000万円で売りに出したそう。

中心部の白人居住率が増加。住宅建設は郊外へ

このブームにはふたつの問題点があると思う。ひとつは10年前、ワシントンD.C.の人口の半分はアフリカンアメリカンであったのだが、現在では6.2%減少し、逆に3分の1であった白人が13.8%増加という統計がある。ワシントンD.C.の東側では、高級住宅化(gentrification ) の結果で、アフリカンアメリカン層が南へ東へとじわじわと押し出されている。 この小さな特別区の人口は約60万人だが、日中は近隣からの通勤者で100万人に膨れあがる。ワシントンD.C.市内に住むにはとても収まりきれず、郊外へさらに郊外へと住宅建設は伸びている。賃貸価格も値上がりし、固定資産税も上がり、払いきれない人々はいったいどうすればよいのだろうか?お年寄りとか身体の不自由な人達、貧しい人々がいつも高級住宅化の波で押し流されてしまう。

高さ制限により、建物は横に巨大化

もう一つの問題はアーバンスプロール現象である。都市が広がってゆく現象で、難しいのは郊外の開発地区そのものはきちんと区画整理されていても、別の開発地区との関連はなく、それぞれの開発地がばらばらに独立してしまうことだ。道路網も無秩序に拡大してゆく。電車、地下鉄はできていないので、交通混雑が始まっているが、自治体が計画的に道路を通すには土地所有者の合意が必要となるため、整備は早急には望めない。 ワシントンD.C.市は1776年、独立戦争後に特別区として計画された都市で、172カ国の大使館、世界銀行、IMF(International Monetary Fund=国際通貨基金)、日本も加盟している米州開発銀行、ナショナルジオグラフィック社やNPR(全米公共放送局)など多くの合衆国主要大会社の本部がひしめいている。これらの大建築群は巨大な石の塊の景観と映るが、1899年以降、連邦議会は建造物の高さ制限法を可決したため、全ての建物は横に広がったのである。上に積み上げられない分、住まいは郊外に伸びる他はない。 7月4日はアメリカの独立記念日。ワシントンと並んでアメリカ人が誇るトーマス・ジェファーソンが描いた都市計画、「ワシントンD.C.を低層で便利な建物に」そして「明るく風通しのよい街路に」というアイディアを保ち、美しい景観を郊外一帯へも伸ばして欲しいと切実に願う。


参考資料
http://blogs.wsj.com/developments/2013/04/02/washington-d-c-home-rich-in-history-sells-for-8-6-million/?KEYWORDS=Lauren+Blum
The Wall Street Journal: May 24 2013 by Lauren S. Blum
http://en.wikipedia.org/wiki/Urban_sprawl
http://en.wikipedia.org/wiki/Washington,_D.C.


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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