海外トピックス

2014/7/22

vol.254 進化する病院のインテリアデザイン。だが…

新しい病院である。総合受付はまるでホテルのロビーのようだ(イリノイ州スコーキィ市 Skokie Hospital)
新しい病院である。総合受付はまるでホテルのロビーのようだ(イリノイ州スコーキィ市 Skokie Hospital)
歯科医院の待合室。「トロピカルイメージ」で医院全体のインテリアデザインがまとめてある(イリノイ州スコーキィ市 Webster Dental Care)
歯科医院の待合室。「トロピカルイメージ」で医院全体のインテリアデザインがまとめてある(イリノイ州スコーキィ市 Webster Dental Care)
歯科医院の受付(イリノイ州スコーキィ市 Webster Dental Care)
歯科医院の受付(イリノイ州スコーキィ市 Webster Dental Care)
整形外科の待合室でさえも数々の絵がかかっている。壁は落ち着いたベージュ(イリノイ州スコーキィ市 Skokie Hospital)
整形外科の待合室でさえも数々の絵がかかっている。壁は落ち着いたベージュ(イリノイ州スコーキィ市 Skokie Hospital)
それぞれの専門部門に予約の時間に行くため、総合待合室はひと気がない(イリノイ州スコーキィ市 Skokie Hospital)
それぞれの専門部門に予約の時間に行くため、総合待合室はひと気がない(イリノイ州スコーキィ市 Skokie Hospital)

子供ばかりか大人でも医師の白衣が苦手、という人が少なくない。病院で白衣を前にして血圧が上がってしまう人もいるそうで、これは大きな問題であろう。確かに白衣や消毒薬の匂い、床に響くひびく冷たい足音、白く無機質な感じの壁などは、ただでさえ不安な患者の気持ちを一層おびえさせる。
ところで、シカゴ界隈で最近建て替えられたいくつかの病院は「病院らしい」イメージから脱皮し、患者がより快適な気分で診察を受けられるよう、さまざまな工夫を凝らしてしている。白衣ではなく色のついた制服を着用する医師や看護婦も目につくし、インテリアデザインを替えることで病院のイメージを変えようという取り組みも増えてきた。

患者獲得競争が激化するヘルスケアビジネス

病院が以前に比べ変化してきているのは何故だろう?病院経営はいまや巨大なビジネスになりつつあるようで、そのあたりに答えが見つかりそうな気がする。
アメリカ合衆国政府労働省の調査によると、病院を含むヘルスケアビジネスは、他のビジネスに比較して2010年から2020年には最も成長率が高いと予想されている(www.healthit.gov/sites/default/files/chws_bls_report_2012.pdf)。
確かに新しく病院が建ったり改築改装する病院の話をよく耳にするようになってきた、一方、2009年以来の景気停滞で全体的な患者数は減っている現状。仕事のレイオフや解雇で会社からの健康保険が使えなくなったり、個人でかける健康保険では100%医療費がカバーされない場合などもあり、人々は余程具合が悪くならなければ病院に行かないようだ。
そのためなのだろうか。病院を含むヘルスケアビジネスでは、患者獲得の白熱戦がここ数年繰り広げられるようになった。弱い病院はますます弱くなり、強い病院はさらに強大になってゆく。

患者の満足度を上げるため、あの手この手

患者達がハッピーになれば病院側にはさらにお金が入る。患者達が不満足ならお金は入らない。危機迫る時期に、この単純な図式が病院側首脳達の目を覚まし、どうしたら患者の満足度を上げられるだろうかと思案させた。
多くの病院では患者達の印象を良くしようとさまざまな改良を試みる。患者獲得競争のさなか、個室は目玉商品。新築の病院ではいまやスタンダードとなっている。しかもそれが健康保険でカバーされることが多い。看護婦達の再教育を手始めに、優秀な専門医を集め、カフェテリアや患者に出す食事の内容を再検討したり、TVを最新型に変えたり。
中でも室内改装はより新鮮な印象を患者達に与えるとして関心が高まっている。インテリアデザインにより心地良い雰囲気を創り出し、患者を寛がせるような効果を得ようというものだ。

有名シェフの食事付きエグゼクティブフロアも

ニューヨークタイムスの記事によると、NYマンハッタンのマウントサイナイホスピタルでは、新しい患者を惹き付けるために「エグゼクティブフロア」を設置。入院患者は目のつんだ特別な織りのシーツの寝具に休み、世話係付き、有名シェフによる食事などが提供される。
また、ミシシッピ州のセントドミニック病院ではメディカル・スパ・グリーンルームを患者のために新しく設置し、外来患者も利用できるヘア&ネイルサロンも備え付けてあるとか。
さらに、ミシガン州のウェスト ブルームフィールド ヒルズ市のヘンリー病院は、超高級住宅地域にあり、入院する必要はなくてもここの料理だけでも食べてみたい!と思わせる程、格別おいしい料理を出すので有名な病院。彼等の要望に応えるために健康と栄養に留意した料理教室を開いている(www.nytimes.com/interactive/2014/sunday-review/hotel-hospital-quiz.html?_r=1)。
 
保険患者が優先。緊急用のスペースは縮小傾向

優れた専門医がそろっている病院のベスト10、最も清潔な病院のベスト10、感染の危険率ワースト10など、いまやネットで病院について詳細な情報が手に入るようになった。そのことも、病院の競争をあおりたてている一因だろう。従来は地域の病院や医院に通院した患者達は、现在では多くの選択肢の中から好みの病院を選べるようになった。
日本と違い、アメリカでは個人が民間の健康保険をかけるため(政府はいくつか保険を提供しているがここでは説明を省く)、医療費がカバーされる割合は保険によってさまざまである。一方、保険をかけられない人もいる。当然、病院側では充分な保険がかけてある患者を優先したい。そのせいか、飛び込みの患者や、救急車で運び込まれる緊急患者等のためのスペースは病院の中では縮小される傾向にある。
病院のインテリアデザインは患者の病気回復を促し、病院全体の快適さを高め、そして病院側の効率をあげるのが目的であるべきと思うがどうか。ビジネスとのバランスをうまく取りつつ、素敵な病院を作り上げて欲しいと切に望んでいる。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年4月号
市場を占う「キーワード」
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/3/7

「海外トピックス」を更新しました。

飲食店の食べ残しがSC内の工場で肥料に!【マレーシア】」配信しました。

マレーシアの、持続可能な未来に向けた取り組みを紹介。同国では、新しくビルを建設したり、土地開発をする際には環境に配慮した建築計画が求められます。一方で、既存のショッピングセンターの中でも、太陽光発電やリサイクルセンターを設置し食品ロスの削減や肥料の再生などに注力する取り組みが見られます。今回は、「ワンウタマショッピングセンター」の例を見ていきましょう。